ファミリア アスティナはマツダデザインの覚醒を予感させたシリーズの異端車【ネオ・クラシックカー・グッドデザイン太鼓判「個性車編」第26回】

■「新ファミリア系列」に加わった、シリーズ史上最初で最後のファミリア5ドアスペシャリティ

アスティナ・メイン
5ドアのスペシャリティカーとして企画されたスタイル

80~90年代の日本車のうち、チョット変わった個性派のデザインを振り返る本シリーズ。第26回は、定番シリーズに突如出現した、先進的コンパクトスペシャリティ、マツダ・ファミリア アスティナに太鼓判です。

●流行の4ドアクーペスタイルを先取り?

大ヒット作となった5代目ファミリア(ファミリア最初のFF)を忠実に引き継いだ6代目に対し、次の展開を模索していたマツダは、各車型ごとに個性を与えることを検討。

従来の3ドアハッチバックと4ドアセダンに加え、新たに5ドアスペシャリティとして1989年に登場したのが「ファミリア アスティナ」です。

3ドアより全長で190mm、ホイールベースで50mm長いボディは4ドアセダンと同じですが、一方で40mm低い全高が独自のプロポーションに。デザインテーマの「力強さとゆとりの感覚」は、優雅なイメージと広いキャビンに反映されているようです。

アスティナ・サイド
大きく傾けたAピラーと太いCピラーが特徴

フロントは、大きくウエッジさせた低いボンネットと、リトラクタブルヘッドライトでスペシャリティ感を演出。張り出しの小さいバンパーとの組み合わせがフロントをよりスリムに見せます。さらに、左右を大きく絞ることで空力のよさも表現。

サイドビューでは、大きく傾けたAピラーに加え、セダンと異なる4ライトのウインドウグラフィックが開放感を生み出します。シリーズ共通の特徴である幅広いショルダーラインはリアに向けて細くなりますが、一方で、ルーフラインはリアに向けて太くなりつつ、特徴的な太いCピラーにつながります。

また、フロントのコーナーランプから続くブラックのプロテクションモールはボディを1周し、フラットでシンプルなボディを引き締めるアクセント役になっています。

アスティナ・リア
ラウンドしたリアガラスとウイングが特別感を生んでいる

リアでは、Cピラーから大きく回り込んだウイングが特徴とされていますが、同じく大きくラウンドしたリアガラスもこのクルマに特別感を与えています。ワイド感を強めるガーニッシュ一体のリアランプは、黒い枠で囲むことでシャープさを演出。

●マツダデザインの曲がり角?

「安定感のある快適な空間」がテーマのインテリアは、何とアスティナ独自のデザイン。一体成型のラウンドした滑らかなインパネと、コンパクトで視認性の高いメータークラスターがスポーティさを打ち出しています。

アスティナ・インテリア
アスティナ専用のインパネは緩やかなラウンド形状に

「個性豊かなコンパクトファミリーカー」という商品コンセプトにより、実質の先代となる「エチュード」に比べ、より個性的なスタイルとなったアスティナですが、欧州での高い評価に対し国内での販売は苦戦を強いられました。

バッチ違いの「ユーノス100」や、後継となる「ランティス」もヒット作になり得なかったことを考えると、アスティナはマツダデザインの大変革初期の商品として、少なくとも日本では少々時代を先取りし過ぎた、早過ぎた登場だったのかもしれません。

■主要諸元 1600DOHC(5MT)
形式 E-BG6P
全長 4250mm×全幅1675mm×全高1335mm
ホイールベース 2500mm
車両重量 1020kg
エンジン 1597cc 直列4気筒DOHC16バルブ
出力 130ps/7000rpm 14.0kg-m/5500rpm

(すぎもと たかよし)

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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