小粋な横丁小町「スズキ セルボ(3代目)」は独創のリアスタイルが魅力?【ネオ・クラシックカー・グッドデザイン太鼓判「個性車編」第25回】

■先進的で独創的であることと「変わっている」ことは、紙一重

セルボ・メイン
クーペからハッチバックスタイルへと移行したボディ

80~90年代の日本車のうち、チョット変わった個性派のデザインを振り返る本シリーズ。第25回は、イタリアンテイストのスタイリッシュクーペを始祖に持つ、「おしゃれでキュート」な軽スペシャリティ、スズキ セルボ(3代目)に太鼓判です。

●女性を意識した新しいコンセプト

「フロンテクーペ」の面影を残した2代目「セルボ」は6年間ものロングセラーとなりましたが、その後継を生み出すに当たってスズキは新しい個性を模索。

1988年、2ドアクーペから3ドアハッチバックへ姿を変えて登場したのが、3代目のセルボです。

2代目「アルト」をベースに、軽ボンネットバンとして仕切り直した新型のデザインは、「おしゃれでキュート」かつ「ユニーク」と、女性を意識したキーワード。流麗なクーペルックから、ビッグキャビンのロングルーフスタイルへと移行しました。

フロントフェイスは小振りですが、左右非対称のグリルがさりげなくスポーティ。一体成型の大型バンパーには、ターンシグナル一体型のフォグランプを埋め込み、これもまたスポーティさと精悍さを演出します。

ボンネットから大きく傾けられたAピラーへの流れはスムーズで、このクルマがスペシャリティカーであることを再認識させます。その先には、運転席頭上まで延びるガラスルーフが何と全車に標準装備。実に開放的な視界を生み出しました。

サイドビューでは太いリアピラーが話題になりますが、サイドウインドウを比較的前からキックアップすること自体は、スペシャリティカーとして十分アリです。ただ、その太いリアピラーと「ウェービー・ルック」と呼ばれる波打ったルーフとの組み合わせが、独特の個性を作り上げたようです。

セルボ・リア
切り立ったリアパネルはグラッシーな表情に

さらに、翼を模したボディ一体のリアスポイラーがどうにも唐突で、これがリアピラー周辺の個性を一層引き立てることになりました。フェンダーやドア面には大きな特徴がなくスッキリしているので、なおさらリアが目立つとも言えそうです。

リアビューでは、スパッと切り落とされたパネルがこれも個性的。また、リアスポイラー上部の広いガラス面と、下部の幅広いガーニッシュ一体のランプの組み合わせが実にグラッシーで、先述のガラスルーフの延長として置かれたようにも見えます。

●スペシャリティというプレッシャー

インテリアは、ベースとなった2代目アルトを一部流用。フラットな形状のステアリングホイールやホワイトメーター、さらにイエローとグレーの2トーンカラーとしたバケットタイプシートが実にスポーティな雰囲気を作っています。

セルボ・インテリア
ホワイトメーターやクラスタースイッチがスポーティ

スズキ車の商品企画は自由な発想が多く、デザインもまた独創的かつスタイリッシュであることが少なくありません。1971年に登場したフロンテクーペもそうした1台であり、これを祖とするセルボは自ずと先進的なスタイルが求められたのだと思われます。

そうしたデザイナーの気合いが、勢い余ってあらぬ方向に行ってしまうことも、スポーツカーやスペシャルティカーには希に見られることです。先進的で独創的であることと「変わっている」ことは、紙一重とも言えるのです。

■主要諸元 CGXF(5MT)
形式 M-CG72V
全長 3195mm×全幅1395mm×全高1330mm
ホイールベース 2175mm
車両重量 590kg
エンジン 547cc 直列3気筒12バルブ
出力 40ps/7500rpm 4.2kg-m/4500rpm

(すぎもと たかよし)

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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