ダイハツ アプローズはセダンと5ドアを融合させた画期的コンパクト【ネオ・クラシックカー・グッドデザイン太鼓判「個性車編」第19回】

■レジャーユースも視野に入れた、見た目はセダン、勝手はハッチバックの変わり種3BOX

80~90年代の日本車のうち、チョット変わった個性派のデザインを振り返る本シリーズ。第19回は、ノッチバックの落ち着きとハッチバックの合理性を兼ね合わせた、「喝采」という名の意欲的コンパクトセダン、ダイハツ アプローズに太鼓判です。

アプローズ・メイン
ノッチバックに見えつつハッチバックの機能を持ったボディ

●シンプルなのに、じんわりと個性的

バブル景気に沸く80年代後半、ダイハツは初の自社開発による1.6リッタークラスの小型車を計画。トヨタ「カローラ」を流用した「シャルマン」の後継として、1989年に発売したのが「アプローズ」です。

日本と欧州をおもな市場とした同車は、それぞれのニーズを反映し、セダンと5ドアの融合を模索。見た目はノッチバックでありながら、同時にハッチバックの機能を持つ「スーパーリッド」を開発、これを最大の特徴としました。

アプローズ・フロント
シンプルながら立体的で個性のあるフロント

フロントは、ボディ面から1段下げた位置に四角形のランプを置き、グリルは左右のランプを結ぶミニマムな表現としました。要素は非常に少ないのですが、立体的であり、かつ独特の個性を持った顔になっています。

さらに、バンパーラインを一段下げ、上部がボディの一部として組み込まれたように表現。グリルもバンパー本体もかなりシンプルですが、この二段構造の表情が適度なアクセントがになっているようです。

サイドビューは、ノーズが意外に低いものの、基本的には水平基調のシルエット。幅は狭いながら、前後を貫く明快なショルダーラインと、低いバンパーラインに合わせたプロテクションモールだけで構成されています。

フロントホイールのフレア以外、ほとんど抑揚のないそのサイド面ですが、ドアラインに沿って置かれたハンドルを含め、なぜか貧相な面に見えないのが不思議なところ。小手先でなく、とにかく丁寧に面を磨き上げた証かもしれません。

アプローズ・サイド
徹底的に磨き込んで面の質を上げたサイドビュー

リアは、フロントに準じて四角形のランプをモールで結んだシンプルなもの。特徴的なスーパーリッドを持ちながら、通常はそれを感じることはありません。ただ、リアガラスは意外にラウンドしていて、これが質感向上に役立っているのは確かです。

●時代に流されない存在感を目指す

インテリアも、外観に通じるシンプルさが身上。大きくラウンドした上面と操作系を配した手前のパネルの二段構成のインパネは、余計な装飾を廃した心地よさがあります。ザックリとした素材の大振りなシートにも質感の高さが。

デザイン開発陣は「タイムレスデザイン」を掲げ、時代や流行に流されない存在感を目指したといいます。後の「We do COMPACT」に続く、日本車離れした個性を目指すという志の高さが、このときからずっと続いていたのかもしれません。

初期トラブルにより、販売的には不幸な結果となったアプローズですが、仮にそれがなければ、このタイムレスなデザインが広く理解され、日本車のヴィンテージイヤーとされる89年組のヒット作になったのか? 個人的にはそこに大きな興味があります。

■主要諸元 16Ri(4AT)
形式 E-A101S
全長4260mm×全幅1660mm×全高1375m
ホイールベース 2470mm
車両重量 1010kg
エンジン 1589cc 直列4気筒SOHC 16バルブ
出力 120ps/6300rpm 14.3kg-m/4800rpm

(すぎもと たかよし)

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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