実用的なボディに先進性と美しさを詰め込んだコンパクトハッチ「フィアット・ウーノ」【ネオ・クラシックカー・グッドデザイン太鼓判:輸入車編】

●ゼロからのスタートとして付与された「1(ウーノ)」

80~90年代輸入車のグッドデザインを振り返る本シリーズ。第6回は、メーカーの再建を掛けたプロジェクトで大成功を収めた、新時代のイタリアン・コンパクトハッチに太鼓判です。

70年代後半の経営危機からようやく再建の目処が立ちつつあったフィアットは、大ヒット作となったBセグハッチバックである127の後継を計画。ゼロからのスタートとして「1」という象徴的な名前を冠し、1983年に発表したのがウーノです。

ウーノ・フロント01
シンプルながら存在感のあるフロントグリルと面一化が徹底されたボディ

Aセグメントの新世代FFコンパクトとして、すでにヒット作となっていた初代パンダの登場からわずか4年。80年代はもとより、90年代までをも見据えたボディは、徹底したフラッシュサーフェス化を施した超プレーンな面質を実現しました。

3650mmを切る全長ながら、広大なキャビンを載せたボディのプロポーションに無理はなく、実用2ボックスとして全く新しいシルエットを構築。豊かな面を持つプレスドアの採用により強いカタマリ感も実現、5ドア版であっても引き締まったスタイルを保ちました。

ウーノ・リア
素材色のバンパーが独自のカジュアル感を演出、張りのあるサイド面が質感を保ちます

シンプルなフロントは、厚みを持たせたグリルがコンパクトでありながらしっかりした存在感を表現。素材色のバンパーはいい意味でのカジュアル感を獲得し、サイドプロテクターのないボディサイドも、明快なキャラクターラインと張りのある面の組み合わせで不足感はありません。

低く開放的なダッシュトレイにスポーティな形状のメーターナセルを置いたインテリアは、意外なほど質感の高いもの。特徴的なサテライトスイッチも、クラスを超えた先進感と高い機能性を演出しています。

ウーノ・フロント02
5ドアでも間延び感がなく、凝縮されたボディが秀逸

フィアットの再建を掛けた計画を見事に成功させたのは、パンダに続くジウジアーロのデザインによるもの。初代の日産マーチも同時期のデザインであることが後に公表されましたが、バンパーなど、仕上げに難があったマーチとの質感の差が興味深いところです。

コンパクトながら高い居住性を持ち、機能的でありながら美しさも併せ持つ。そしてシンプルでありながら高い質感も備える。それらをこの小さなボディで表現するデザイン力には感服しますが、これが36年前であることにはさらに驚くべきと言えるでしょう。

●主要諸元 フィアット ウーノ・ターボ i.e.(5MT)
全長3644mm×全幅1560mm×全高1410mm
車両重量 845kg
ホイールベース 2362mm
エンジン 1300cc 直列4気筒SOHCターボ
出力 105ps/5750rpm 15.0kg-m/3200rpm

(すぎもと たかよし)

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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