クルマ作りにおける「プレミアム」化は、ジャンルを問わず浸透しています。
もちろん軽自動車においても、限られたスペース&コストのなかでも、乗員にストレスなく過ごしてもらえるよう、快適性の追求にしのぎを削っています。最近では、リッター30kmの攻防ラインにおいて、各社が仁義なき燃費競争の真っただ中にあります。
じつはこの燃費競争、快適性に関してはマイナス面もあることをご存知でしょうか。
まずは燃費を稼ぐためのエコタイヤ採用。タイヤにおける低燃費化でいちばん効くのは「転がり抵抗」を抑えること。タイヤの真円率を上げ、コンパウンドを堅くし、空気圧も上げ、できるだけ遠くに転がってくれるようなタイヤ作りが必要となります。空気圧に関しては、ごく一般的なモデルと低燃費指向のモデルとを比べた場合、その差はなんと1.5倍!
こうした堅いタイヤは、乗り心地にとってみればかなりの悪影響。何も対策をしなければ、足回りのバタツキの要因となります。
さらに、燃費にダイレクトに効いてくるのが車両重量。軽ければ軽いほど燃費が向上するのは明白です。リッター33kmのアルトの場合、重量なんと710kg。これは燃料タンク容量までも削りながら到達した脅威の数字。
まさにゼロ戦を彷彿とさせるエンジニアの努力のたまものです。そうした背景から、軽量化の追求においては遮音材はいわば邪魔モノ。必要最低限しか配置されません。よって、静粛性は犠牲になってしまうのです。
そしてエンジンの出力特性。馬力を抑えて、燃費向上に振ったセッティングをしたエンジンも登場してきました。日産デイズ/三菱eKワゴンがそれです。同車のNAエンジンは、他メーカーが52馬力のところ、あえて49馬力とし、リッター29.2kmの低燃費を達成しています。
馬力の少ないエンジンですから、交通の流れの早い場面などでは、アクセルを踏みがちになるシーンもあるでしょう。エンジンの回転数が高くなるということは、必然的に音・振動も大きくなります。
ただ、こうした低燃費ウォーズは、メーカーのメンツを賭けた闘いではありますが、一面でユーザー不在になっている面も事実。
軽自動車とはいえ、ゆうに100万円を超える出費なのですから、クルマはやっぱり快適でありたいものです。
燃費一辺倒の時流から、ちょっと目線を変えた軽自動車選びもいかがでしょうか。
乗用車編につづきまして、“プレミアム”な静粛性のモデルをチョイスしてみましょう。
ダイハツ タント・エグゼ
軽自動車のなかで唯一、プレミアムに特化したモデル。1700mmを超える全高の高いモデルでありながら、あえてスライドドアを採用せず、快適性にこだわっています。音・振動に有利な通常のドアは、車内の静粛性向上に効果あり。ふかふか肉厚なリアシートの快適性は、間違いなく軽ナンバーワンです。
スズキ・ワゴンR
ワゴンRのアイドリングストップ機構は、時速13kmから停止するタイプ。都市部での移動が多いケースなら、かなりの割合で“シーンとしたシーン”が味わえます。この時期フル稼働のエアコンも、蓄冷材を備える「エコクール」機能で、アイドリングストップ時に生温かい風が出てくるのを最小限にしてくれ快適です。
ホンダN-ONE
ドアの開閉フィールにまで徹底的にこだわっているN-ONE。ぜひ展示車等のドアを開け閉めして、その軽自動車ばなれした「ボムッ!」という開閉音を試してみてください。静粛性の高さのほか、重量物を低く、中央に集めたセンタータンクレイアウトと、クラス最長の2520mmのホイールベースが路面の凹凸をうまくいなしてくれるので、乗り心地も上々です。
スズキ・スペーシア
他車との比較になってしまいますが、スズキ・スペーシアのライバルといえばダイハツ・タント。タントは、助手席側のピラー(柱)のないピラーレスコンセプトが売りですが、スペーシアはオーソドックスなピラーありのタイプ。ボディが左右非対称なタントと比べ、ボディ補強もバランスがよく、自然な乗り心地になります。
日産デイズ・ハイウェイスターGターボ
三菱eKカスタムT
実際に日産・三菱両社のエンジニアが、普通車開発のテクノロジーをおしみなく投入して作られたのがデイズ/eKワゴン。遮音材の素材・配置も練られているので、小型車も顔負けの静粛性を誇ります。パワフルなターボ仕様なら、常用のエンジン回転も抑えられるので、さらに静かさを味わえます。
(畑澤清志)