目次
■一番乗りはトラスト。高速周回路に新型フェアレディZが登場
●純正メーター読みではノーマルブーストでもすでに300km/h達成?
かつて茨城県つくば市にあったJARI 日本自動車研究所のことを、自動車ギョーカイでは通っぽく「谷田部(やたべ)」と言っていました。1969年設立当時の町名が「谷田部町」だったことから、通称でそう呼ばれていたのです。
その谷田部の中にあった高速周回路は、約1500mの直線2本を45度のバンク角を付けた400Rのコーナーふたつでつなぐオーバルコースで、全長は5500m。設計速度はイエローラインで180km/h、最上段で220km/h。まぁ220km/h以下ならほぼステアリングを切らずに走れるのです(※1980年代当時のOPTION誌に掲載)。
OPT誌在籍当時は毎週のように通っていた谷田部(=JARI)も、現在は茨城県城里へと場所を移し「城里テストセンター」の名で自動車に関わる様々な研究が続けられています。
城里の高速周回路も谷田部とほぼ同サイズ。全長5500m、直線の長さ1112m(2本/あれ、ちょっと短くなってる)、バンクは400R、バンク角は45.2度、バンク長1938m(2本)の設計速度は190km/h、だそうです。
ところでギョーカイの皆さんは今、JARIの高速テストのことをなんて呼んでいるんでしょ? 「しろさとテスト」… ン~なんかちょっと馴染めない。
●新型フェアレディZが早くも最高速テストに挑戦
ビデオOPTIONのこの新作動画。なんと、新型フェアレディZが早くも最高速テストを行っているのです。街中ではいまだ新型Zを1台も見かけないのに。
Z最高速1番乗りは、チューニングの老舗、トラストです。
ポルシェやトヨタでル・マンに参戦したり、35GT-RでD1GPに参戦していたレーシングの顔よりも、やはりソアラやセリカ、GT-Rでの最高速でみせるチューニング魂のほうが馴染深いですね。
真っ白なボディにターボ系パーツのブランド『GReddy』ロゴがサイドボディに控えめに貼られたトラストの新型フェアレディZ。
ドライバーを務めるのは、お馴染みOPTIONグループ総帥、Daiこと稲田大二郎さん(以下、Daiちゃん)。もう40年以上も最高速テストドライバーとして人生を捧げています。
そして、日産自動車からもこの最高速テストをチェックするべく一人の男が…。
新型フェアレディZの開発を手掛けたブランドアンバサダーの田村宏志さんも、テストが気になり城里のコースに登場です。
「やっとRZ34、新型フェアレディZのテストですよ! 今回はノーマルブーストとちょっとブーストアップしたライトチューンバージョンをテストです。405psのツインターボ、速さにも期待できます! 楽しみ♪」(Dai)
今回は最高速と、そして0-1000mにも挑みます。
●マフラー、サスペンション変更のみのノーマルブーストから最高速へ挑む
トラスト開発部・中上信吾さんは、「まずはノーマルの状態でスピードリミッターのみ解除し、保安基準を想定した試作のマフラー(メイン70φ)のみの状態と、ノーマル+αのブーストアップ仕様でいってみます」と意気込みを語ります。
シャシーテストではノーマル時の実測416ps、マフラー交換でノーマル+10ps、ブーストアップで+50psの効果があり。が、シャシーダイナモ上ではブーストがオーバーシュートしてから1回下がり、そこからまた上がる、という状態。机上計算では最高速286km/hと予想されます。
装着するタイヤはダンロップSP SPORT MAXX 060+ 、フロント255/35R19、リヤ275/35R19という純正同サイズです。
このタイヤに、VOLK RACING TE37 ULTRA TRACK EDITIN II フロント9.5J-19、リヤ10.5J-19 +22のホイールを組み合わせます。
他には、アラゴスタ車高調・最高速仕様、スプリングレートはフロント/リヤとも18kg/mmでフットワークを固めます。
「ノーマルでも270~280km/h出るんじゃないの? ブーストアップ仕様が楽しみだ」(Dai)
「夏は最高速に条件が合っている。空気薄いから、空気抵抗が低いですから。ボクの計算では…。
6700rpm÷0.794(6速ギヤ比)÷3.54(最終減速比)×0.68(タイヤ外径m)×3.1415(円周率)×60分÷1000m≒305.5km/h
6700rpm回れば305.5km/h出るっていう計算。だから、ブーストがちゃんとかかれば(実質)290km/hは超えてくるんじゃないかな?」(日産・田村)
スラスラと最高速計算ができちゃう日産・田村さん。どこかのチューニングショップさんみたいです(笑)。
徐々にスピードを上げていくDaiドライブのフェアレディZ。が、ボンネットが振動する? 浮いてくる? ガムテープを貼って対処です…なんか昔のZ32でもやってたような気がしますねぇ(懐)。
●純正メーター読みではノーマルブーストでも301km/hを表示?
様子見走行を終え、いよいよノーマルブーストでの計測本番。0-1000mからの最高速アタックです。VDC(ビークルダイナミクスコントロール)オフ、ローンチは無しでスタートします。
純正メーター読み…301km/h!?
公式で使用するGPS計測器では、最高速284.19km/h、0-1000mは25.26秒を記録です。このとき、ノーマルメーターではブースト最大1.4kg/cm2もかかっていました。
「280km/hまではスムーズに一気にスピードが上がるね。ノーマルで400ps以上あるとやっぱ速いよ。ノーマルブーストで280km/h出るっていうのは、今までなかなか無かったこと。やっぱり気持ちイイね~。FRなのに安定しているし。
オレはめったにメーカーのクルマは褒めないんだけど、なかなかいいクルマに仕上がっているな、と。
今までのターボやパワーのあるクルマは、6速トップスピードになると加速が鈍ったりする。でも新型Zはけっこう各ギヤで、もちろん6速に入れてもスーッと加速が続いてくれる。トップスピードまで我慢して『頑張れ頑張れ!』っていう感じではなく、スースースーっと280km/hまで出る。これはやっぱり新しいクルマだね。
エンジン自体の素性と、スタイルの関係なんかもあるんだろうね。
足まわりなんかもピタッとしていて、けっこういいと思う。でも、このトラストZのオリジナルの足まわりは、もうちょっと煮詰める必要がある。足が全体的に硬いんだよ。もうちょっと走り込んで、ボディのロールなどと一体感があるようにしてくれると、もっと安心して楽しくコーナリングもできると思うね。
ノーマルの足でも乗りやすいかも。もちろん、パワーアップしていったら固めたほうがいいとは思うけど。
エアロも、後ろの小っちゃいスポイラーだけなのに、後ろが浮くとか全然ない。なかなかいいまとまりしているね~。全体的なものでちゃんとダウンフォースがあるように作ってあるんだろうね。それが、スポーツカースタイルの良さ。セダンだとそれが難しい。
今のクルマはほとんどがAT。でも、これはMT。最近、新車でギヤのクルマはあまりないからね。しかしZのMTは難しい。400ps以上あってFR。それをミッションでもっていくっていうのは、練習しないと難しいな」(Dai)
●ブーストアップ仕様で、いざバンクへ。純正メーターでは…302km/h?
いよいよ、ブーストアップデータへ切り替え、バンクへ挑みます。しかし、6速6500rpmで回転のレブが入ってしまうため、0-1000mタイムは上がっても、最高速は変わらないのでは?との予想です。
数周のトライにより、今度は純正メーター読み…302km/h!
正式記録では、最高速285.23km/h、0-1000mは25.17秒を記録しました。
「やっぱりブーストアップしても最高速はほとんど変わらないね。純正タービンが小さいから、ブースト上げても効果出ないんだよな」(Dai)
そして、Z最高速1番乗りをしたトラスト中上さんは、この日のテストを振り返ってこう感じたそうです。
「Zは空力もいいですし、エンジンパワーとギヤ比の関係からみて、キッチリ回り切るだろうなと想像していたので、今日は思った通りの記録でした。
シャシーテストでは、6700rpmでレブリミットが始まって、そこまで回るかな?と思ったんですけど、実際のところ6速6500rpmでスロットルが閉じ始めているので、思ったより回らなかったです。
加速感もあって速いクルマなんですけど、かなりターボが小さめだなという印象だったのが、今回のテストで更に感じました。街乗りでは乗りやすいし加速感もあると思うんですけど、もうちょっと上振りのターボにしたらもっと最高速も伸びるだろうし、サーキットでも使いやすいクルマになるのかな?という気はします。
ターボを変えたら思った以上にもっと美味しいところが出せるのかな?と感じたので、今後はソコを考えたいですね」(トラスト中上)
動画は、Daiちゃんドライブによる新型フェアレディZの最高速テストを終え、日産・田村さんとのZ談義へと続いていきます。
●「加速がスムーズ過ぎて面白くない?」(Dai)
「500psで300km/hを想定し作りました」(田村)
Daiちゃんも、タービンの小ささが最高速の伸びに影響していると感じたようです。
「今後のチューンアップとしては、タービンのサイズアップ、そこらへんが1番のメインだろうね。そうすれば500psくらいすぐ出るだろうし、300km/hの世界が簡単に出る。その300km/hの世界も、このZのボディ形状だと心配なくいける、そんな感じがするね。
ボクはチューニングとか最高速とか専門でやっているけど、Zはコーナリングマシンとかにしても面白そうだなって思う。足とパワーと一体感のあるFRの面白さ。このZだったらいけるね。
しかしまぁ、0-1000mは難しい。ギヤがまだ固いんだよ(クルマが新しすぎて)。
でも最高速はスムーズに加速していく。やっと速いZが帰ってきた、そんな感じ。ボクがいう速いZっていうのは、Z31やZ32。でも、その速さが昔のZとはちょっと違う。言葉は悪いけど…感動が無いくらいスムーズで速い。チューニングして『感動』を味付けしないとな。
今回はリミッターカット(スピード)などをしているんだけど、そういう、ちょっといじった場合に何かセーフティとか入るのかな?とか気にしていたんだけど、それは何もなかったね。Zはそういうところもちゃんと考えてくれている。だから、チューニングもしやすい」(Dai)
「皆さ~~~ん、チューニングは自己責任ですよ~!
でも、我々日産自動車のクルマを使って遊んでもらえるっていうのは、こんな嬉しいことはないです。そこに登場するZやGT-R、他のクルマもそうですけど、ベースはキッチリ仕上げていかないといけない。
骨組みとかサスペンションとか空力とか、全部トータルで仕上げて、もちろんエンジンやパワートレーンも仕上げて『乗りやすい』というのは前提ですよね。
そこから先、どういう風に作り上げていくか?っていうのは、それぞれのショップさんやお客様の好みもある。ベースがしっかりしていないと遊べないと思うので」(田村)
「この新しいZは、半端にイジったってあんまり変わらないね。ノーマルそのままでめいっぱい性能を出しているので。どうせやるならドッカーン!とやらないと、チューニングの面白さはない」(Dai)
「正直言うと、あるチューニングに耐えうるようなベースっていうのは、日産の得意分野ではある。だけど、ハードチューンをしていくっていうところの領域は現代の流行りではないので、Daiちゃんの意見とはちょっと違います。
そもそも『405ps』って相当大きい力なので、まずファインチューンというのは相当多くの人を網羅できると思いました。言い換えると、現在のクルマはけっこう危ない領域まで来ているから、しかも2輪駆動(FR)でこの領域にしているから、まずはクルマと対話して欲しいなと。
このクルマってどういう動きをするんだろうな、どういうクセがあるんだろうな。やっぱり出てくるクセっていうのは必ずあるので、ある丸さをもって作ったんですけど、やはりそこから先は吟味していって欲しいです。つけるパーツも吟味して欲しい、チューニングも吟味して欲しい。
そうしたら、上手くそこの中で我々もまた新しい情報を得ながら、次に繋げていく。どんなものをまた仕上げていくかっていうのを考えられるので、生意気いうようですけど、切磋琢磨させていただきたいなと。
ギヤ比的には6速は300km/hジャストくらいで作ってあるので、おそらく500psちょっとの『馬』があれば、何となくそこに届くかな?という風に思っています。
あとは9速ATもしっかり作ってあるし、トルクも700Nmまではガンガン入れますから、ぜひぜひそこのキャパシティも楽しんでみていただけるのかな?と思っています」(田村)
「やっとイジれるZが出てきた! そういう感じですよ。これから本当、楽しみだね!」(Dai)
2023年1月13日(金)~15日(日)に行われる「東京オートサロン2023」では、間違いなく目玉の一つとなるだろうトラストのフェアレディZ(多分、車名は「TRUST GReddy Z」になるのかな?)。
そして、最高速を自身のライフワークにしている稲田Dai大二郎さんと、まるでストリートチューナーのような日産・田村さんとのZチューニング談義もとっても面白いので、トラスト・フェアレディZの走りとともに、そのすべては動画でチェックしてくださいね!
(永光 やすの)
■SPECIFICATIONS
フェアレディZ(ベースモデル)
全長×全幅×全高:4380mm×1845mm×1315mm
ホイールベース:2550mm
トレッド 前/後:1565/1591mm
最低地上高:120mm
車両重量:1570kg(6MT)/1600㎏(9AT)
※他グレード 車両重量:Version S(6MT)1580kg/Version ST(6MT)1590kg/Version T(9AT)・Version ST(9AT)1620kg
乗車定員:2名
エンジン:VR30DDTT DOHC 筒内直接燃料噴射 V型 6気筒 ツインターボ
排気量:2997cc
内径×行程:86.0×86.0mm
圧縮比:10.3
最高出力:298kW(405PS)/6400rpm
最大トルク:475N・m(48.4kgf・m)/1600-5600rpm
使用燃料/容量:無煙プレミアムガソリン/62L
最小回転半径:5.2m
燃料消費率 WLTCモード:9.5km/L(6MT)/10.2km/L(9AT)
駆動方式:2WD(後輪駆動)
トランスミッション:6速マニュアル/マニュアルモード付フルレンジ電子制御9速オートマチック(9M-ATx)
サスペンション 前/後:ダブルウイッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ 前/後共:ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ 前/後共:245/45R18 96W
※他グレード タイヤサイズ:Version S(6MT)・ST(6MT)・ST(9AT) 前255/40R19 96W/後275/35R19 96W/Version T(9AT)前後共245/45R18 96W
車両価格:5,241,500円(6MT)/5,241,500円(9AT)
※他グレード 車両価格:Version S(6MT)6,063,200円/Version ST(6MT)6,462,500円/Version T(9AT)5,687,000円/Version ST(9AT)6,462,500円/Proto Spec(6MT/9AT/240台限定)6,966,300円
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