清水和夫が新型フェアレディZに乗って「自動車メーカーは速いクルマを作らなきゃダメ」と言い切るワケは?

■清水和夫が新型フェアレディZ誕生の秘密と、あんなことやこんなことを語る

●サファリ、モンテ、そして横山文一さんのラリー仕様240Zがとにかくカッコ良かった

清水和夫×新型フェアレディZ
毎週金曜日の夜8時からは、YouTube生配信「清水和夫の頑固一徹学校」の日

現役の全日本ラリー選手権ドライバーでもある、国際モータージャーナリストの清水和夫さんは、今年2022年で免許取得祝50年!自身がラリーに関わってからも50年!だといいます。半世紀の自動車人生を、ラリーとともに歩んできているのですね。

また、2022年11月10日(木)〜13日(日)、愛知・岐阜で行われるFIA世界ラリー選手権「フォーラムエイト・ラリージャパン2022の応援団長でもある清水さん。

「モータースポーツは、ラリーに始まり、ラリーに終わる」by清水和夫

歴代フェアレディZ
歴代フェアレディZ

さて、清水さんが毎週金曜日の夜8時から、StartYourEnginesXのYouTubeチャンネルで生配信している「頑固一徹学校」。7月22日の配信では、北海道にある日産の陸別テストコースで、新型フェアレディZ(プロトタイプ)に試乗したことを踏まえ、フェアレディZに関すること、日産901活動で生まれたBNR32やZ32、また新型フェアレディZの誕生秘話などが語られました。その話がすっごく面白いコトばかりなので、さっそく皆さんと見ていきましょう!

あ、ちなみに、この日の頑固一徹学校では他にも、同時期に発表となったクラウンやGRカローラ、シビックe:HEVのことも語っていますよ!(クリッカー・永光 やすの)

●1972年のサファリラリー優勝の240Z

清水和夫×新型フェアレディZ
海外ラリーのZの姿がカッコイイ

私がフェアレディZで一番思い出にあるのは、1971年のサファリラリーで総合優勝した240Z。真紅のボディに黒つや消しのボンネットね。広大なアフリカ大陸を走り切ったZ、カッコいいなぁと思いました。

サファリラリー優勝車
サファリラリー優勝車(三栄・Rally&Classicsより)

その後、アルトーネン(ラウノ・アウグスト・アルトーネン/Rauno August Aaltonen)が乗ったZもモンテカルロラリーを走りました(1972年第41回/3位)。ルーフの上にスパイクタイヤ載せてね、これがまたカッコイイ!

なので、私は「Z=ラリー」というイメージが凄く強いんです。

ということで、過去、スカイラインGT-Rは50連勝したことで、「レースの世界ではスカイライン」、「ラリーではZ」というのが、私の記憶の中に刻まれています。

●ヨコブン(横山文一さん)の240Zがとにかくカッコよかった♪

横山文一さんの240Z
国内ラリー常勝の、横山文一さんの240Z(三栄・オートスポーツ誌より)

大学入って、まぁモゴモゴとしているとですね、サファリラリーで見た赤いZみたいなクルマが、校内をドリフトして走っている人がいたんです。それが、往年の私の大先輩にあたる、横山文一さん(Bunichi Yokoyama/60年代日本ラリー界の巨匠)。

横山文一さん
大先輩で憧れの横山文一さん(三栄・オートスポーツ誌より)

ボクはそのクルマを見て「ラリーを本格的にやろう!」って心に決めたんです。そのヨコブンさんが乗っていたZも、赤いボディにボンネットは黒のつや消し。本当にカッコいいクルマでした。

●日産901活動で生み出された、直6のGT-RとV6のZ

今回の新型、何代目なのでしょうかね(※RZ34=7代目)。

フェアレディZは元々、フェアレディSR311という、オープン2シーターのスポーツモデルがあり、そこから派生してフェアレディがフェアレディZになりました。それはGカーと呼ばれて、アメリカではダットサン(DATSUN)の名前で有名になったクルマです。

新型フェアレディZ
新型フェアレディZ

このZに関してもうひとつの話題は、901活動。日産は「90年に世界一になるぞ!」と言って、1989年くらいから続々と凄いクルマを出していたときに、R32・GT-R(BNR32)が出てきました。

GT-Rのエンジンは直6のツインターボ(RB26DETT)。

で、同じ901活動で開発されたZ(Z32型)はV6のツインターボ(VG30DETT)。

やっぱり当時の技術で言うと、どうしても直6のグループAベースで作られたGT-RのRB26エンジンのほうが出力も高いし、壊れないし。ということで人気があったんです。

V6はVGエンジン、これはFFにも積めますという、横にも縦にもできるっていう、まぁユニバーサルなV6エンジンだったので、Zに積んでターボにすると、どうしても熱の問題もあってうまくいかなく、トラブルもけっこうあったため、901活動で生まれたときのZは私にはあまり印象が無かったんですね。で、しばらくZはそのままトーンダウンしていくんです。

●どん底のZ復活を懇願した開発陣。「2万ドルで作れ!」byゴーン

カルロス・ゴーンが2000年くらいに日産に来た時は、Zはどん底の状態。しかし、日産の開発チームはどうしてもフェアレディZを復活させたい!ということで、ゴーンに「Zを開発させてくれ!」とお願いしました。

「アメリカでしっかり売りたい」ということを言った時に、ゴーンは「2万ドルで作れ!」と。2万ドルで売れるクルマを作りなさい!みたいなことを言って、まぁ実際には2万8000ドルくらいになったと思うんですけど、当時の為替でも300万円くらいかな。

歴代フェアレディZ
アメリカで高額スポーツカーは売れない?

やっぱりアメリカって正直ですから、ロングノーズ/ショートデッキの伝統的なスポーツカーでも、やっぱり高いと売れないんです。ですから、マスタングとかフォードとかGMのスポーツカーを見ても、比較的アメリカのスポーツカーというのは安く作れるのです。「値段はいくらでもいいよ!」みたいな話は、やっぱりヨーロッパ的な発想なんですね。

という流れで、2万7000~8000ドルでZが作られたときもありました。

しかしその後、そのZがやっぱり元気のない時代があったんです。

●RZ34は「Z復活」を成せるか?

田村宏志チーフプロダクトスペシャリスト
田村宏志チーフプロダクトスペシャリスト

そして今回、R35 GT-Rを担当した田村宏志チーフプロダクトスペシャリストがZを復活。それも、今の社長がZ好きだったということもあり、どうしてもZを作りたいということを役員会で認めてもらって、今回の開発をスタートさせました。

ただし、エンジンはV6ツインターボで、マニュアルトランスミッション6速とAT。

ジャトコの9速トルコンAT
ジャトコの9速トルコンAT

ただ、今回のATはジャトコの9速トルコンAT。これに、ABSとトラクションコントロールが付くくらいで、そんなに凄い飛び道具は無いんですね。だから私は、「まぁキャリーオーバーで作ったレガシーの塊のクルマなのかな?」な~んて思いながら、試乗会場に乗り込みました。

試乗会場の陸別テストコース。実は昔、901活動の中、GT-Rでニュルを走っているときに、「ニュルみたいなコース作りたい…」ということから、日産が作ったワインディングコースなんです。

ちょうどホンダも同じように、鷹栖(北海道旭川市の隣)にニュルみたいなコースを作りました。当時、日産はGT-R、ホンダはNSXという、ニュルで鍛えられたクルマがあったので、日産もホンダも同じような時期に、ニュルをシミュレーション、模擬したようなコースを作ったんです。

●日産のニュルは本場のニュルより厳しい?

20年ぶりくらいかな、陸別コースを走ったのは。昔はGT-R(多分、BCNR33)のテストで良く走っていましたけど。

新型フェアレディZ
新型フェアレディZのコクピット

コース内にジャンピングポイントがあるんですけど、これはニュルの13km地点のジャンピングポイントを模擬して、日産のテストコースの中にもジャンピングポイントを作っちゃいました。当時開発していたGT-Rでジャンプすると、着地したときにシュンッ!って風切り音がしたんです。着地したときにボディがねじれて空気が入ってくる、と。

そんな評価をした記憶がありますね。

清水和夫×新型フェアレディZ
日産の陸別テストコースを走る新型フェアレディZ

日産の陸別コースは、ガードレール無し。縁石も無し。タイヤが舗装からはみ出たらいきなりGrass(草)の上ですから一気に滑るので、そういう意味でも本当にニュルをきちっとシミュレーションしているんです。

トヨタの下山テストコースもニュルをシミュレーションしたといっても、やっぱりガードレールで守られたりしているし、ホンダの鷹栖のワインディングはガードレールは無いけどけっこう縁石が高いんです。そういう意味でも、ハイスピードで走るワインディングのコーナーとか路面を考えると、日産の陸別が一番厳しいかな?っていう感じがしましたね。

●ATの完成度の高さったら♪

新型フェアレディZ
6MTは、まだ完成されていない?

で、今回の新型フェアレディZ。マニュアルよりも9速トルコンATのほうが凄く印象が良かったです。マニュアルはちょっとパワートレーンがね、なんかこうユサユサと揺すられるところがあって。ATのほうがギヤボックスは重いんだけど、しっかりエンジンとトランスミッションがマウンティングされた感じがあるんです。だから、完成度で言うとATのほうがいいかな、というのが第一印象でした。

ただ今回、まだデリバリーされていないプロトタイプですから、これから細かいところはリファインしながら、お客様のところに届けられると思います。

新型フェアレディZ
新型フェアレディZ、発注一時停止…涙

しかしですね、なんと! Zは発表した直後から注文が殺到して、もう今注文を受け付けていないそうです(※7月末日をもって一時受付停止)。ですから、最初に幸運にも買えた人は非常にラッキー。売れば高い値段で売れそうですけど、そういうセコイことを考えずに大事に乗ってもらいたいと思います。

●RZ34、これが最後のZになる…?

これはまぁ、日産の人たちと懇談したときに私が何となく感じたことなんですけど。

新型フェアレディZ
新型フェアレディZのV6ツインターボエンジン

GT-Rは次の時代も生き残ったと。持続可能というかサスティナブルで、次の世代もGT-Rは作っていいよ、という風に役員会で言われたらしいんです。

だけど、Zのほうはもしかしたら今回のモデルが最後になるかも…。ただ、Zの形をしたバッテリーEVのスポーツカーになるかもしれませんけども。いずれにしても、手に入れられることができる方は、最後のZだと思って大事に乗って欲しいなと思いますね。

●評価ドライバーと技術者が完璧に作り上げた、新型フェアレディZ

まぁ、トラクションコントロールとVDC、横滑り防止装置はありますけど、ほとんどハイテクデバイスが無いクルマで、500ps(※405ps)近いFRのクルマを160km/hくらいでコーナリングしても、本当にコントロールしやすいクルマに仕立てたというのは、日産のテストドライバーと、評価者と、技術者の勝因だと思います。

新型フェアレディZ
評価ドライバーと技術者が作り上げた新型フェアレディZ

それはなぜかと言うと、今のGT-Rって陸別テストコースで2000Rくらいのコーナーを300km/hで走れるんです。だから、300km/hで走るクルマがある自動車メーカーのテストドライバーたちは、ビックリするくらいウデがいいですよ。

というのが今回、明らかになったので、自動車メーカーはやっぱり速いクルマを持ってなきゃダメだなと思いましたね。それが公道で走るかどうかは別として、少なくともGT-Rはアウトバーンに持っていけば270~280km/hくらいではクルージングできるわけですから。

そういったクルマを作れる人たちがいて、その人たちがZを仕上げた。というところに、今回の最大の日産の功績があったのではないかと思います。

(試乗:清水 和夫/動画:StartYourEnginesX/アシスト:永光 やすの

新型フェアレディZの主なスペック
新型フェアレディZの主なスペック

■SPECIFICATIONS
フェアレディZ(ベースモデル)
全長×全幅×全高:4380mm×1845mm×1315mm
ホイールベース:2550mm
トレッド 前/後:1565/1591mm
最低地上高:120mm
車両重量:1570kg(6MT)/1600㎏(9AT)
※他グレード 車両重量:Version S(6MT)1580kg/Version ST(6MT)1590kg/Version T(9AT)・Version ST(9AT)1620kg
乗車定員:2名
エンジン:VR30DDTT DOHC 筒内直接燃料噴射 V型 6気筒 ツインターボ
排気量:2997cc
内径×行程:86.0×86.0mm
圧縮比:10.3
最高出力:298kW(405PS)/6400rpm
最大トルク:475N・m(48.4kgf・m)/1600-5600rpm
使用燃料/容量:無煙プレミアムガソリン/62L
最小回転半径:5.2m
燃料消費率 WLTCモード:9.5km/L(6MT)/10.2km/L(9AT)
駆動方式:2WD(後輪駆動)
トランスミッション:6速マニュアル/マニュアルモード付フルレンジ電子制御9速オートマチック(9M-ATx)
サスペンション 前/後:ダブルウイッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ 前/後共:ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ 前/後共:245/45R18 96W
※他グレード タイヤサイズ:Version S(6MT)・ST(6MT)・ST(9AT) 前255/40R19 96W/後275/35R19 96W/Version T(9AT)前後共245/45R18 96W
車両価格:5,241,500円(6MT)/5,241,500円(9AT)
※他グレード 車両価格:Version S(6MT)6,063,200円/Version ST(6MT)6,462,500円/Version T(9AT)5,687,000円/Version ST(9AT)6,462,500円/Proto Spec(6MT/9AT/240台限定)6,966,300円

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この記事の著者

清水和夫 近影

清水和夫

1954年生まれ東京出身/武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、スーパー耐久やGT選手権など国内外の耐久レースに参加する一方、国際自動車ジャーナリストとして活動。
自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで執筆し、TV番組のコメンテーターやシンポジウムのモデレーターとして多数の出演経験を持つ。clicccarでは自身のYouTubeチャンネル『StartYourEnginesX』でも公開している試乗インプレッションや書下ろしブログなどを執筆。
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