トヨタのWiLL Viは、馬車をモチーフとした遊びゴコロ満載のパーソナルセダン【ネオ・クラシックカー・グッドデザイン太鼓判「個性車編」第15回】

■シンデレラのカボチャの馬車!? 超個性派トヨタ・WiLL Vi

80~90年代の日本車のうち、チョット変わった個性派のデザインを振り返る本シリーズ。第15回は、遊びゴコロをコンセプトに、昔の馬車をモチーフとした唯一無二のパーソナルセダン、トヨタ・WiLL Vi(ウィル ブイアイ)に太鼓判です。

will・メイン
キャンバストップも設定されたユニークセダン

●新しい顧客を掘り起こすデザイン

90年代後期、新しい消費スタイルへの対応を模索していた大手の異業種5社は、合同プロジェクト「WiLL」を結成。自動車会社として参加したトヨタが送り出した同プロジェクトによる第1弾が、2000年発表の「WiLL Vi」です。

「ヴィッツ」を基本に「遊びゴコロと本物感」をコンセプトとして提案したのは、「4ドアパーソナルカプセル」と称する超個性派セダン。グルーブラインを施したシンプルな面をシャープに組み合わせることで、独特の硬質感を得たボディがウリです。

フロントは「なごやか」なイメージを目指し、丸くおおらかな面にランプとグリル、ターニングシグナルが置かれています。すべてが「ツライチ」で、バンパーもほぼ同一面で構成されているのが見所。結果、余計な凹凸が見当たらないシンプルな曲面が実現しました。

will・サイド
もっとも個性的なサイドビュー。面は意外にシンプル

サイドビューでは、昔の馬車をモチーフとした「クリフカットシルエット」が、このクルマの最大の特徴として目に飛び込んできます。フェンダーの丸いアーチラインは前後で対象形を描いており、その弧はそのままベルトラインにもつながります。

また、前後の大きなブリスターは、張りを持ったフェンダー面とクッキリしたラインで融合され、やはり独特の硬質感を得ています。このフェンダーには15インチの大径タイヤが奢られ、意外な安定感を得ているのもユニーク。

will・リア
折れた表現のCピラーが強烈な個性を発揮

リアは、左右いっぱいのガラス面と、これに沿う「折れたCピラー」が絶対的な特徴を作り上げます。この逆スラントのキャビンとアーチ形のトランクとの組み合わせが、意外なほどの踏ん張り感を出していて、不安定な馬車という先入観を否定します。

●ゼロから何を生み出せるか?

インテリアのコンセプトは「なごみ」で、まずオレンジとブラウンの色調がリラックス感を呼び、メーターとセンターパネルを置いた広いダッシュ面がなごやかさを感じさせます。さらに、エクステリアに準じて各所に施されたグルーブドラインが適度なアクセントに。

will・インテリア
オレンジとブラウンの配色がなごみを表現

さて、このViですが、月販目標が1500台と少なかったとはいえ、わずか2年程度で生産終了となりました。その背景としては、そもそもこの合同プロジェクト自体が練り込み不足であり、参加したいずれの企業の商品も不発だったとされます。

実際、トヨタという看板を外し「何でもアリ」となったとき、どこまで自由な企画やデザインができるのか? その発想力は少なからず安易で浅かったようです。つまり、女のコの「Vi」、男のコの「Vs」といった安易さです。

似たような企画である日産の「Be-1」や「フィガロ」などと比較して、どこか影が薄いのは、コンセプトであった筈の「本物感」が、いささか不足していたためなのかもしれません。

■主要諸元 WiLL Vi(4AT)
形式 GH-NCP19
全長3760mm×全幅1660mm×全高1575mm
ホイールベース 2370mm
車両重量 940kg
エンジン 1298cc 直列4気筒DOHC
出力 88ps/6000rpm 12.5kg-m/4400rpm

(すぎもと たかよし)

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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