第2世代NSXの生産終了が発表も、次世代NSXへの期待が高まる【週刊クルマのミライ】

■第二世代NSXは7年のモデルライフで終了。しかし第三世代NSXがないとはアナウンスされていない

ホンダ(海外ではアキュラ)のスポーツフラッグシップ「NSX」の生産終了が発表されました。2016年1月に登場、2022年12月に生産終了になるということは、7年間でそのモデルライフにピリオドを打つということになります。

初代NSXが1990年から2005年までとロングライフのスポーツカーだったことを思うと、あまりにも短いと思うかもしれませんが、21世紀のスピード感は違います。

NSX Type S
実質的なファイナルエディションといえるタイプS。2代目NSXの生産は2022年いっぱいで終了するという

ポルシェ911の先代モデル(991型)の生産期間が2011年から2019年で、その間に様々なバリエーションを追加して常に商品性をフレッシュに保っていたことを思うと、一度のマイナーチェンジとボディカラーの追加だけで5年以上もラインナップしていたNSXは、けっしてスポーツカーのスタンダードなスタイルではないのです。

NSX Type S
派手なエアロデバイスは備えていないようだが、タイプS専用マットカラーは与えられる

また、いまやフェラーリからもハイブリッドスポーツが出てくる時代で、新興EVメーカーや少量生産のプレミアムブランドからは1000馬力級のスーパースポーツも出てきている時代です。

NSXの特徴であるSH-AWDのキーデバイスであるフロント左右独立モーターによる「駆動によって曲がる」という機能は、いまだ唯一無二といえますが、ハイブリッドスポーツというだけでは電動化時代に目立つことができないのも事実でしょう。

NSX Type S
もともとはパワートレインには手を入れないのがタイプSのコンセプトだったが、いまのアキュラ流では専用エンジンを与えることもある

ホンダがどのように考えているかはわかりませんが、このカテゴリーにおける市場の中で新鮮味が薄れてきています。

スーパースポーツ専業ブランドであれば、まったく異なるエンジンを与えるだとか、オープンルーフのバリエーションを追加するなどしていてもおかしくないタイミングです。そこまでの余力がなければ生産終了(市場からの退場)も止む無しなのです。

その意味では、現行NSXの実質的なファイナルエディションであるタイプSには、パワーアップしていてもおかしくありません。

NSX Type S
赤ヘッドならぬ赤カバーを与えられたNSXタイプSのエンジン。パフォーマンスアップが期待される

3.5L V6ツインターボと3つのモーターを合わせた、現行型のシステム最高出力は427kW[581PS]ですが、せめて500kWと切りのいい数字までスープアップしていることを期待したくなります。もっとも、公開されている画像を見る限り、リヤタイヤのサイズは変わっていないようなので期待薄かもしれません……。

それはさておき、今回のNSX生産終了という発表を聞いて、NSX自体が終わってしまうと捉えるのは早計です。

NSX Type S
世界限定350台、日本向けは30台というNSXタイプS。詳細は間もなく発表される

前述したように、初代NSXの終了から2代目のローンチまでは10年以上のブランクがありました。もちろん、その間には結果的に幻となったV10エンジンをフロントに積むスーパースポーツの企画があったのは、よく知られているところでしょう。

今回も第二世代NSXの生産終了であって、次世代NSXプロジェクト自体が消滅したとはホンダは発表していません。

では、第三世代のNSXがあるとしたら、どのようなスーパースポーツになり得るのでしょうか。

EV-Concept-NSX
2016年のパイクスピーク(アメリカ最古のヒルクライムイベント)でクラス優勝を果たしたNSX EVコンセプト

そのヒントはホンダ自身が用意していました。

それが2016年のパイクスピークでクラス優勝を果たした4モーターNSXです。トータル出力1000馬力という、この電動レーシングカーは、電動化時代のスーパースポーツにふさわしいパフォーマンスを持っています。

実際、ホンダが研究所でデモランをさせたときに、筆者はそのスタートダッシュを目前で味わうことができたのですが、モーター駆動らしいインバーターノイズを残して、あっという間に数100m先に、まるでワープしたかのように移動した様には度肝を抜かれました。

1000馬力のエンジン車と違い、瞬時にフル加速状態となるスーパーEVは、現行NSXとほぼ同じタイミングで完成していたのです。

EV-Concept-NSX
4モーターNSXのデモランを見た筆者の第一印象は「ワープできそうな加速」だった

ちなみに、このマシンはNSXをベースとしたものではなく、オリジナルフレームのボディであり、NSX風のカウルをかぶせた純レーシングカーです。その実戦参加で得たフィードバックから1000馬力級EVの研究が進んでいるとすれば、それは次期NSXのメカニズムとしてふさわしいものなるでしょう。

とはいえ、ハイパワーのために大量のバッテリーを積んだEVのスーパースポーツでは、あっという間に陳腐化することも間違いありませんし、それはホンダがやるべき商品企画とも思えません。

EV-Concept-NSX
1000馬力級のモーターを軽量な燃料電池システムで駆動すれば新時代を切り拓けるはずだ

初代NSXは、オールアルミボディによる軽量なスーパースポーツであることがセールスポイントでした。その伝統を受け継ぐとすれば、軽量な電動スーパースポーツであることがNSXらしさになるはずです。

しかし、電気自動車においては航続距離も最高出力もバッテリーに搭載量に左右されます。

では、多量のバッテリーをつまずに大パワーを出すにはどうすればいいのか。そこで注目したいのは、ホンダがGM(ゼネラルモーターズ)と共同研究を進めている燃料電池です。

高出力の燃料電池ユニットを十分に軽量に作ることができれば、バッテリーは回生用やバッファ用の最小限で済みます。そして燃料電池は非常に軽量な水素が燃料です。航続距離だって十分に稼ぐことができます。

EV-Concept-NSX
全輪独立した4モーターはトータル1000馬力を発生したという

水素タンクの軽量化や、そもそも水素インフラをどう整備するのかという課題はありますが、燃料電池によってライトウェイトな電動スポーツカーを生み出すことができれば、それこそがホンダが出すべきスーパースポーツとなるでしょうし、そうそう陳腐化することもないでしょう。

いずれにしても第二世代NSXの生産終了が発表されただけで、第三世代NSXの開発を中断したと明言されたわけではありません。ホンダがホンダであるためには、ブランディング的には理想を追いかけたスーパースポーツが必要です。

電動化時代にふさわしいNSXに期待しましょう。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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