トヨタの象徴「豊田自動織機」に激震!ハイエースもハイラックスも、そしてランドクルーザーも不正エンジンを積んでいた!【週刊クルマのミライ】

■見栄えをよくするために不正を行うという闇深さ

フラッグシップモデル「ランドクルーザー300」系のF33A型ディーゼルエンジンにおいても不正が行われていた。
フラッグシップモデル「ランドクルーザー300」系のF33A型ディーゼルエンジンにおいても不正が行われていた。

豊田自動織機が、トヨタ自動車から委託を受けて開発した自動車用ディーゼルエンジンについて、豊田自動織機が不正をしていたことが発覚した。

具体的には、トヨタ自動車が自動車型式指定等の申請を行う時に提出する、諸元表の基となるエンジンの出力測定において、量産とは異なるプログラムのECU(エンジン制御装置)を使い、燃料噴射量を変更するという不正が行われていた。

まずは、豊田自動織機の発表を引用して見てみよう。

当社がトヨタ自動車から一部開発を受託している自動車用エンジン3種(1GD型/2GD型/F33A型 ※筆者注)については、トヨタ自動車ならびに日野自動車が自動車型式指定の申請手続きを行っております。その申請手続きの中で、出力試験を当社が担当し、必要なデータを提出しておりますが、試験の際、燃料噴射量を調整し、出力・トルクカーブについて、見栄えの良いデータにするといった行為が判明しました。なお、出力の性能につきまして、抜き取り検査で、出荷基準値を満たしていることを確認しています。

豊田自動織機がトヨタ自動車より開発の一部を受託しているディーゼルエンジンにおいて不正が行われていた(写真はランドクルーザー70のディーゼル、当該モデルについては不正は発表されていない)
豊田自動織機がトヨタ自動車より開発の一部を受託しているディーゼルエンジンにおいて不正が行われていた(写真はランドクルーザー70のディーゼル、当該モデルについては不正は発表されていない)

新車販売において、ナンバーを取得する段階での車検を省くことができる「型式指定」制度というのは、量産状態での試験結果をもとに申請することが大前提の制度である。量産と異なる制御プログラムを使ったということは、その点において型式指定制度の根幹を揺るがす行為といえる。

現実的には出荷基準を満たしているとしても、こうした前提をなあなあにしていけば、自動車認証制度が成立しないことは明らかであり、大問題といえるのだ。

また、豊田自動織機が不正を働いた要因として挙げている『見栄えの良いデータ』という言葉も闇深い。不正行為のインセンティブが委託先を見ていることは明確だからだ。つまり、自動車認証制度におけるルールを守ることよりも優先すべきものがある、と現場が認識していたことを、この言葉は示している。

●不正が見つかったトヨタ車は唯一無二の人気モデルばかり

すでに生産終了しているランドクルーザープラドにおいても1GD型ディーゼルエンジンに関する不正が発覚した。
すでに生産終了しているランドクルーザープラドにおいても1GD型ディーゼルエンジンに関する不正が発覚した。

豊田自動織機といえば、かつてV8ディーゼルの開発を担当していたことでも知られる、トヨタグループにおけるディーゼルエンジンのスペシャリスト的なイメージのある企業。それだけ実績のある企業が『社内出力試験を実施した際、最高出力点を含む一部の回転数領域において、燃料噴射量を変更』という、こうした不正を行っていたというのは、エンジン好きとしてもショックは大きいだろう。

しかも、不正が行われていたディーゼルエンジンを積んでいるモデルも有名どころが揃っている。

●不正エンジンと搭載車両(国内販売モデル)
・1GD エンジン
ハイエース/グランエース/ランドクルーザープラド/ダイナ/コースター
・2GD エンジン
ハイラックス
・F33A エンジン
ランドクルーザー(300系)

ハイエースといえば商用1BOXの代名詞であり、ランドクルーザーはトヨタのSUVにおけるフラッグシップである。ハイラックスはそのタフネスから世界的にトヨタの信頼性を象徴するモデルとなっている。そうしたブランドを代表するモデルにおいて不正エンジンが搭載されていたというのは、ファンでなくともショックは大きい。

不正の行われた背景について、特別調査委員会の報告書を見ると、以下のような記述が確認できる。

豊田自動織機が出力測定の結果等をトヨタ自動車に提出する流れであるが、自動車用エンジンの適合業務を担当するグループは、エンジンの量産相当品が完成した段階で、エンジンの出力測定を行う。出力測定は、審査官等の立会いの下に行われる場合と、自動車審査部の了承の下、審査官等の立会いなしで行われる場合(以下「社内出力試験」という)があるが、上記のエンジンについては、いずれも社内出力試験が行われた。社内出力試験の場合、適合業務を担当するグループは、トヨタ自動車に対して社内出力試験の結果を記載した試験成績書や機関性能曲線図(「トルクカーブ」とも呼ばれる)を提出した上、トヨタ自動車で行われる会議において、その結果を報告する。

国内法規上は、出力の測定において公差は認められておらず、社内出力試験においては、最高出力の実測値が、諸元表に記載することが予定されている最高出力値(これは出力の開発目標値でもある)を必ず上回らなければならないものと認識していた。しかし、量産ラインで製造された個々のエンジンは、部品ごとの性能のばらつき等の要因により、最高出力点における出力の実測値が開発目標値をわずかに下回る可能性があった。また、担当者らは、最高出力点以外の回転数領域においても、上記のような要因により、出力の実測値が想定よりも上振れ又は下振れしてトルクカーブがいびつになる可能性があり、その場合、トヨタ自動車の会議等において、エンジンの性能等に関して疑義が呈されることを懸念した。これらの理由から、担当者らは、ワーキングリーダーおよびグループマネージャーの指示・了承の下、ECU ソフトの制御パラメータの値を変更するなどの方法により、社内出力試験における燃料噴射量の変更を行っていた。この不正に関与した従業員は、社内出力試験において燃料噴射量を変更することは不正行為に当たると認識していたが、開発段階において、欧州法規が許容する 2%の公差の範囲内で開発目標値を達成していることを確認していたため、エンジンの本来の出力性能を偽るものではないと考えたことや、同様の行為は以前から適合グループにおいて広く行われていたこと等から、こうした不正行為に及んだなどと述べている。

簡単にまとめると、発注元であるトヨタ自動車の顔色をうかがって、担当者個人ではなく組織として不正であることを認識した上で、ECUの制御プログラムを書き換えていたというわけだ。

●豊田自動織機はトヨタグループの源流

豊田自動織機はRAV4の生産も担当している。2024年の東京オートサロンにも出展していた。
豊田自動織機はRAV4の生産も担当している。2024年の東京オートサロンにも出展していた。

ここで、すでに問題となっているダイハツ工業の不正との違いを整理すると、ダイハツの不正においては型式指定を申請したのがダイハツであり、ダイハツの中に限定された問題ともいえる。

しかし、ハイエースやランドクルーザーといったモデルの型式指定を申請した主体はトヨタ自動車である。たしかに豊田自動織機は上場企業ではあるが、開発の委託をしていたトヨタ自動車は被害者ではなく、自動車認証制度からすると不正の当事者といえる。型式指定を申請した立場としての責任は重大である。

また、2022年に大型トラックの型式指定の取消処分を受けた日野自動車や、このたび小型トラックの型式指定取消処分となったダイハツ工業は、いずれも創業後にトヨタグループに入った企業であるが、豊田自動織機は豊田佐吉氏が興したグループの源流といえる企業だ。しかも、最初のトヨタ車「トヨダAA型」は豊田自動織機が製造しているほどで、まさにトヨタのルーツなのだ。

その企業において、悪いことだと認識していながら不正行為が行われていた。

それが、企業風土に起因するものだったとすれば、グループ全体に同様の考え方がはびこっていると感じてしまうのも、ユーザー心理としては自然なことだろう。

トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎氏は、同社創業前の1936年8月に『国産自動車と価格の問題』として以下のような発言をしている。(原文では一部に旧字体を使用)

如何に良い自動車が出来ても、高価で経済的に使用出来ぬものでは役にたゝぬ。自動車を使用するか使用しないかは結局値段の問題に落付くわけだ。

<中略>

先ず技術的実力の養成と経済的実力の養成をしてから其の(自動車の)製作に取り掛らねばならぬ

国産車を普及させるためにはユーザーの購買力に見合った価格設定としなければならない、としながら、そのために技術力を養成すべしとしている。安かろう悪かろうではいけないことは創業の理念といえるはずなのだが…。

●ハイエースやハイラックスの代わりになるモデルは?

ハイエースの積む2.8Lディーゼルにおいても豊田自動織機の不正が確認されたという。
ハイエースの積む2.8Lディーゼルにおいても豊田自動織機の不正が確認されたという。

豊田自動織機の不正に対して、国土交通省は以下のとおり対応を行うことを発表している。

1. 同社へ立入検査を行い、不正行為の事実関係等の確認を行う。
2. 国土交通省および(独)自動車技術総合機構において、全ての現行エンジンの基準適合性について、技術的に検証を行う。
3. 立入検査および基準適合性の検証結果を踏まえ、道路運送車両法等に基づき厳正に対処する。

現時点では、不正のあったディーゼルエンジンを搭載しているモデルは出荷停止となっているが、国土交通省ならびに自動車技術総合機構によって基準適合性が認められれば、すぐさま販売再開となるだろう。

トヨタのタフネスを象徴するハイラックスもディーゼル不正の影響を受ける一台(写真は2023年12月に発売された特別仕様車)。
トヨタのタフネスを象徴するハイラックスもディーゼル不正の影響を受ける一台(写真は2023年12月に発売された特別仕様車)。

しかし、もし致命的な不正が見つかり、型式指定の取消処分ともなれば、該当モデルは事実上販売できなくなる。前述した日野自動車の大型トラックにおいては型式指定が取消処分となってから再販売まで約1年の時間を要した。仮に型式指定を再申請するとなれば同じようなタイムスパンになることが予想される。

そうなったときにユーザーはどうしたらいいのだろうか。

ハイエースについてはディーゼル車が販売できなくなっても、ガソリンエンジン車の生産販売は問題ないだろう。どうしてもディーゼルの商用バンが欲しいという向きには、日産「キャラバン」という競合車が存在する。

ハイラックスは全車がディーゼルエンジンとなるためモデル自体が販売できなくなってしまうが、三菱自動車「トライトン」というピックアップトラックのニューモデルが販売間近だ。車格的にも同等といえるので、国産メーカーに選択肢が残るのは、ピックアップトラックを求めるユーザーにとっては不幸中の幸いだろうか。

ランドクルーザーについては、すでに納期が年単位となっていることもあり、大勢に影響はないだろう。ランドクルーザーを待てないというユーザーは、メルセデスGクラスやレンジローバーなどの輸入車を選んでいるだろうからだ。

ところで、本連載【週刊車のミライ】をご愛読いただいている方はお気づきかもしれないが、いつものコラムは「です・ます調」で書いている。それは、ニュースとは違った視点を軽い気持ちで読んでいただきたいからだ。

しかし、今回ばかりは「だ・である調」を使わせていただいた。さすがにトヨタグループのルーツといえる豊田自動織機の不正に触れるのに敬体の文章は不適切だと思ったからだ。次回からは、また「です・ます調」で明るいテーマを扱えるような社会情勢になることを期待したい。

自動車コラムニスト・山本 晋也

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この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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