【ネオ・クラシックカー・グッドデザイン太鼓判】大人の感性を反映させた4WDグランドツーリング・スポーツ。第45回(最終回)・スバル アルシオーネSVX

80~90年代日本車のグッドデザインを振り返る本シリーズ。最終回は、スペシャルティなボディに500マイルを一気に駆け抜ける高性能を組み合わせた、4WDグランドツーリング・スポーツに太鼓判です。

1989年に登場したレガシィの勢いに乗り、スバルは自社のアイデンティティを象徴するフラッグシップを検討。北米など海外市場を想定し、あらゆる部分で初代を超えることを目指したのが、1991年登場のアルシオーネSVXです。

クーペというよりはセダンとスポーツカーの中間を狙ったというスタイルは、単に美しいということに止まらず、乗降性や視界のよさを感じせるもの。その機能性に、スバル車としての哲学が見え隠れします。

航空機メーカーの遺伝子を表現するグラス・キャノピーは、飛び抜けて未来的な仕掛けながら、意外なほどガラスエリアの上下幅を広くすることで、5名乗りという居住性のよさを視覚でも感じさせます。

フロントフェンダーからのラインは、フードとの段差をドアミラーにつなげ、リアデッキをブラックに塗ることで一直線にリアまで突き抜けます。リアのブリスターフェンダーは力強さと同時に、スリムなボディをさらに薄く見せる効果があります。

最小の要素によるグリルを含め、フロントフェイスは意外なほどシンプル。同様に、ガーニッシュと一体になった横長のリアランプは、未来的でありつつ極めて常識的な表現で、スペシャリティでありながら、いい意味での実用車感を醸し出します。

インテリアは、インパネとセンターコンソールの先進感が初期案より後退したのが少々残念。しかし、素材感を生かしたダッシュボードやドア内張りの滑らかな造形、ゆったりとしたバケットシートがスペシャリティ感を下支えします。

スバルのフラッグシップを作るに当たり、外の空気と触れたいとした林哲也デザインセンター部長(当時)は、あえてG・ジウジアーロを起用。美しさと先進性に、絵空事ではない実用性を加えたスタイリングは、氏の独壇場といえるものとなりました。

ただ、「巨匠のデザインは素晴らしい」と言うのは簡単ですが、果たしてそれでいいのでしょうか。いわゆるネオ・クラシックの時代にグッドデザインが多いのはなぜなのか? 僕たちは、現在のカーデザインとの違いをじっくり比較・検証するべきなのかもしれせん。

●主要諸元 スバル アルシオーネSVX Version L(4AT)
型式 EーCXD
全長4625mm×全幅1770mm×全高1300mm
車両重量 1620kg
ホイールベース 2610mm
エンジン 3318cc 水平対向6気筒DOHC
出力 240ps/6000rpm 31.5kg-m/4800rpm(ネット値)

(すぎもと たかよし)

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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