【ネオ・クラシックカー・グッドデザイン太鼓判】スペシャルティカーとSUVの融合にチャレンジした近未来スタイル。第44回・いすゞ ビークロス

80~90年代日本車のグッドデザインを振り返る本シリーズ。乗用車生産から撤退したいすゞが、RVの中で自社の特色を打ち出すことを目指したSUVスペシャリティに太鼓判です。

乗用車生産からの撤退を表明した1993年、いすゞは同年の東京モーターショーに先進的なSUVのコンセプトカーを出展しました。その魅力的なスタイルに対する大きな反響と絶賛の声を受け、1997年に市販化が実現したのがビークロスです。

「オールラウンド リアルスポーツ」のコピーを掲げるスタイルは、大径のタイヤが四隅からはみ出るように踏ん張り、そこに低いボンネットフードのボディを載せることで、強い前傾姿勢を持つグッド・プロポーションに。

緩いクサビ型のボディは、キックアップさせたサイドウインドウでさらなる前進感を獲得、美しいひし形のクオーターガラスと強い張りを持たせたリアピラーが緊張感と先進感を生み出します。PPの素材感にこだわったアンダーボディの豊かさは、厚みを感じさせるショルダーラインとの組み合わせで例外的なボリューム感に。メタリックカラーのボディ色とブラックの素材色との対比が、「異種融合」のテーマを物語ります。

ボディサイドとテンパータイヤ内蔵のテールゲートに引かれた積層のラインは、機能性の高さと同時に未来的なイメージを創出。ボンネットフードの艶消しブラックと、テールの半円型の素材色パーツが効果的なアクセントとなります。

強い絞り込みでセンターに寄ったフロントランプやグリルは、意外にもシンプルでミニマム。アンダーボディのボルト孔やエアプレーンタイプの給油口との組み合わせで、ボディにメカニカルなイメージを作り出します。

ウィザードに準じたインパネだけは少々退屈ですが、その分は専用のMOMOステアリングやマルチカラーのレカロシート、オーガニックがテーマのドア内張りがスペシャリティ感を支援します。

ロータスから移籍したサイモン・コックスは、欧州スタジオへ発注された依頼に対し、スポーティなSUVとして「ピアッツァ4×4」をイメージしたといいます。この的確な提案を、後に日産で活躍する中村史郎氏(ショーモデル)や谷中譲治氏、2017年にISUZU PLAZAを企画・デザインした中尾博氏らがアシスト。

優れたデザイン案は、生産部門の意欲をもかき立て、全社一丸体制を作り上げるものです。もともとスペシャリティな発想に長けていたいすゞのポテンシャルは、類いまれなセンスの高さと技術力の相乗効果を実現させたようです。

●主要諸元 いすゞ ビークロス(4AT)
型式 EーUGS25DW
全長4130mm×全幅1790mm×全高1710mm
車両重量 1750kg
ホイールベース 2330mm
エンジン 3165cc V型6気筒DOHC
出力 215ps/5600rpm 29.0kg-m/3000rpm(ネット値)

(すぎもと たかよし)

この記事の著者

すぎもと たかよし 近影

すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
続きを見る
閉じる