「セクシー・ダイアモンド」でトヨタの壁を越える!C-HRのチャレンジ・デザイン(前編)

── 初期スケッチのフロントフェイスでは巨大なアンダーグリルが顔の大半を占めていましたが、量産はボディ色のパネルが2段重ねのような表現となり、アンダーグリルが小さくなりました。この変遷の意図はどこにありますか?

「スケッチからフルスケールモデルへ移行して開発していく段階で立体とグリルの比率を吟味、調整した結果です。初期スケッチのアイディアは大胆でよいのですが、顔に厚みがあるので、グリルが大きすぎるとフロントの立体としての塊が感じられにくかったり、重心が高くなり過ぎてしまう場合もあります。なので、グリルを下へ下げることによってフロント全体の重心バランスを取り直し、立体感の表現と構えのよいスタンスを狙っています」

── 前後バンパーの下部、とくにフロントは薄い板状のパネルを紙のように折り重ね、同時にレイアー風の処理をしています。ここにはどんな狙いがあるのでしょうか?

「クロスオーバーとしてのキーンルック、アンダープライオリティを表現する中で、力強さとキビキビとしたスピード感を併せ持つフロント周りを狙いたいと考えました。その場合、初期モデルのようなカンガルーバーを想起させるような形状よりも、エアロダイナミクスを連想させるような造形とし、さらに上部の立体がくわえ込むようなレイヤー構成としてノーズの高さから来る重さを避けるとともに、スピード感と一体感のあるフロント造形を狙っています」

── キーンルックというトヨタの「決まりごと」を守りつつ、一方で常識を壊すという姿勢が一貫しているのが印象的ですね。後編ではボディのサイド面から、さらにトータルな造形表現について伺います。

[お話を伺った方]

トヨタ自動車株式会社 トヨタデザイン部
C-HRプロジェクト・チーフ・デザイナー 伊澤和彦

(インタビュー:すぎもとたかよし)

この記事の著者

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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