80~90年代輸入車のグッドデザインを振り返る本シリーズ。第29回は、正当派ボディにフェラーリエンジンの搭載が話題となった、エレガントなイタリアン・セダンに太鼓判です。
■典型的な3ボックスに伊達な香りを
70年代後半以降の新しい体制下を担ってきたベータ、ガンマの後継として、ランチアは成功したデルタを範に上級車の開発を模索。いわゆる「ティーポ4プロジェクト」として、1984年発表されたのが初代のテーマです。
3ボックスセダンとして、一見極めてオーソドックスで控えめともいえる佇まいですが、しかし、そこにはイタリア車らしいエレガントさや品位、あるいは粋といった要素が散りばめられているのがポイントです。
基本は直線基調ですが、各所に適度なRが施されたボディに必要以上の堅さは感じられません。また、プレスドアがウインドウ面積の大きいサイド面をすっきり見せますが、ボディに比べカッチリとした角を持つガラス枠が、独特のエレガントさを強調しているようです。
シンプルなサイドボディは、ピークのある比較的低い位置にキャラクターラインが引かれ、これがある種の落ち着きを生みます。さらに、一体成型の前後バンパーに施された太いプロテクターが程良いアクセントに。
デルタやプリズマに準じたフロントグリルは、ランチアらしいエレガントさを強調。一方、なめらかな面のリアパネルには、サイドに回り込んだ小振りなコンビランプもまた品のよさを醸し出します。
■カロッツェリアによる競演
インテリアでは、メーター類と空調口を一体にしたインパネが上級車らしい重厚感を持ち、スポーティなステアリングとの相性も良好。また、ゼニア製生地のシートが奢られた内装は、高級家具メーカーのポルトーナ・フロウ社が関わったとされます。
スタイリングはデルタに引き続きイタルデザイン、ジウジアーロが担当。その後、ピニンファリーナがワゴンボディを、マイナーチェンジをI.DE.Aが担当するという、いまとなっては実に贅沢な展開となりました。
日本ではフェラーリエンジンを積んだ「8.32」が人気となりましたが、本国では「紳士のクルマ」として人気を博したように、本来はオーソドックスな中に滲み出るエレガントさこそが、テーマの真骨頂だったように思えます。
●主要諸元 ランチア テーマ(初代)ieターボ (5MT)
全長4590mm×全幅1755mm×全高1415mm
車両重量 1250kg
ホイールベース 2660mm
エンジン 1995cc 直列4気筒DOHCターボ
出力 165ps/5500rpm 26.0kg-m/2500rpm
(すぎもと たかよし)