実用的で機能的なボディに捻りを加えたコンパクトハッチ。フィアット・ティーポ(初代)【ネオ・クラシックカー・グッドデザイン太鼓判:輸入車編】

■シンプルながら「引っかかる」ボディ

80〜90年代輸入車のグッドデザインを振り返る本シリーズ。第15回は、80年代に入って躍進するフィアット車群の中で、小気味よくスパイスを効かせた個性的ハッチバックに太鼓判です。

tipo・メイン
ウーノやクロマのシンプルさを継承しつつ、ひと捻りをきかせたボディ

1980年代に入り、ウーノ、クロマ、テーマと新世代商品の販売が好調に推移していたフィアットグループは、旧態化したリトモの後継を計画。90年代を見据えた欧州Bセグメントとして、1988年に発表されたのが初代のティーポです。

いわゆるティーポ計画に基づいた開発により、エンジン以外はすべて新設計とされたボディは、わずか3960mmの全長に1450mmの高さ、2540mmという長いホイールベースによって居住性に優れたパッケージングを実現しました。

基本的にはウーノなどに準じるシンプルなスタイルですが、独自のプロポーションによりどこかアバンギャルドなイメージを感じさせるのが魅力。サイドビューでは珍しい6ライトを採用し、その後端をキックアップさせることで独自性を強調します。

tipo・リア
蹴り上がったベルトラインやサイドに回り込んだリアハッチが独自の動きを醸し出す

角型ランプによるフロントグリルは端正ですが、傾けたバンパーが不思議なリズム感を生み、幅広いプロテクターは強いアクセントとなります。一方、ボディサイドに回り込んだリアハッチドアと大型のリアランプも非常に凝った組み合わせに。

そうしたバンパーの造形や、ボンネットフード、リアハッチの切り込みラインなど、少しずつ凝ったディテールによって構成されたティーポは、どこか建築的に見えるところが興味深いところです。

■単なるクセではないオリジナリティ

tipo・サイド
3ドア版はよりスッキリとした表情が印象的

インテリアもそのボディに負けず劣らず個性的。大きくスラントした直線的なインパネには2段構造のデジタルメーターを設置。片やステアリングは丸みのある柔らかなカタチで、その対比が絶妙です。

スタイリングは、コンセプトカー「フィアット・VSS」で注目されていたI・DE・Aが担当。ジウジアーロによるウーノやクロマとの連続性を感じつつも、どこかに「引っかかり」を感じさせる造形が同スタジオの真骨頂と言えそうです。

ここ数年の日本車でもクセや引っかかり、驚きといった独自性を打ち出す例は少なくありません。しかし、肝心なのはその独自性のクオリティ。ティーポには「クセがあるけど美しい」という、極めて質の高いスタイリングが魅力なのです。

●主要諸元 フィアット ティーポ 2.0 16V (5MT)
全長3960mm×全幅1695mm×全高1450mm
車両重量 1230kg
ホイールベース 2545mm
エンジン 1995cc 直列4気筒DOHC 16バルブ
出力 145ps/6250rpm 18.0kg-m/5000rpm

(すぎもと たかよし)

この記事の著者

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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