グッドデザイン受賞は伊達じゃない! 三菱新型「トライトン」の勇猛果敢なデザインとは?【特別インタビュー】

■タフでありながら俊敏さも併せ持つ独自の佇まい

勇猛果敢をコンセプトとした新型トライトン。アセアン市場を意識した力強さをストレートに表現したスタイリング
勇猛果敢をコンセプトとした新型トライトン。アセアン市場を意識した力強さをストレートに表現したスタイリングだ

タフな1tピックアップトラックとして、世界約150ヶ国で販売されてきたトライトンが、12年ぶりに日本市場へ帰ってきました。アウトランダーやデリカミニで勢いに乗っている三菱デザインですが、この新型のスタイリングも好評です。

そこで、内外装をとりまとめたデザイン本部の吉峰氏に、デザインの意図を聞いてみました。

●力強さだけでなく先進性も盛り込みたい

── まず始めに先代のデザインをどう評価、総括したかについて教えてください。

「先々代はかなりパッセンジャーライクなスタイリングだったのですが、先代ではアセアン市場を意識して、力強さを感じる造形やメッキパーツなどの派手さを加えました。後期には『ダイナミックシールド』を反映した表現としましたが、骨格自体は先々代の流用なので、やはり造形的には引きずった部分もありました。その点、新型ではプラットホームなどすべてを刷新できるので、タフな四角いイメージをしっかり出そうと考えました」

今回お話を聞いた、三菱自動車工業株式会社デザイン本部プログラムデザインダイレクターの吉峰典彦さん
今回お話を聞いた、三菱自動車工業株式会社 デザイン本部プログラムデザインダイレクターの吉峰典彦さん

── そこで掲げられたデザインコンセプトが「BEAST MODE(勇猛果敢)」ですね。

「はい。高い四駆性能によって、次のステージへギアチェンジするイメージですね。タフネスだけではなく先進性も欲しい。マッチョとアスリートを組み合わせた感じでしょうか(笑)」

── パッケージですが、全幅が50mm、ホイールベースは130mmも拡大しています。

「全幅はフェンダーも含めた顔の立派さを出すことと、室内空間では肩回りを広げています。ホイールベースは、やはり強い踏ん張り感と後席の広さのためですね。それと、ヒップポイントを上げることで目線を高くしたほか、フードを厚くしたり荷室を広くすることができました」

●ダイナミックシールドは顔だけじゃない?

テーマが明快に表現された初期スケッチ。「ダーナミックシールド」がボディまで展開されていることがよくわかる
テーマが明快に表現された初期スケッチ。ダーナミックシールドがボディまで展開されていることがよくわかる

── フロントですが、今回はダイナミックシールドの表情をどのように考えましたか?

「単なる飾りではなく、実際のプロテクション感を重視しています。また、初期スケッチにあるとおり、今回は『顔』だけでなく車全体として考えていて、前後のブリスター、フロントフェンダーからドア下部へのラインなどもプロテクションの一部と捉えているんです」

── ランプの構成もかなり凝っていますが、どのような表情を意図したのでしょう?

「個人的に『ハンサムビースト』と呼んでいたのですが(笑)、単に整った顔でなく、100m先からでもこの車とわかる特徴を与えたかった。デイタイムラニングライトを鷹の目のような横型の3連とする一方、メインランプはT字の3連としました。当初の設計案では2連だったのですが、より広域に光を当てることと、個性的な表情の両立としてデザイナー側から提案したものです」

フードからつながる立体的なグリルと、3連タイプのランプを組み合わせたフロントの表情。ブラックのプロテクションが引き締め役になっている
フードからつながる立体的なグリルと、3連タイプのランプを組み合わせたフロントの表情。ブラックのプロテクションが引き締め役になっている

── ボディ側面では厚みを感じさせるドア面が特徴です。

「そこは初期スケッチの段階でも大きな流れが表現されていました。車の前後を走るラインを感じるよう、ショルダー部をギリギリまで張り出させています。同時に、ドア下部を大きく絞ることで上部の強さを引き出しました。ちなみに、サイドステップ表面のパターンはパジェロと同じモノで、水の流れがよく、凍りにくいモノになっているんです」

●変わりつつあるデザイナーのマインド

── テールランプは先代より大型になっていますね。

「はい。立派に見えることと、もちろん視認性を意識したものです。内部のグラフィックのT字形は社内的に『Tシェイプ』と呼んでいますが、ボディのワイド感と同時に、実際の車幅を知らせる役目を持っています」

ドアの厚みと大型のテールランプがよくわかるリアビュー。ブリスター調のフェンダーも迫力がある
ドア面の厚みと大型のテールランプがよくわかるリアビュー。ブリスター調のフェンダーも迫力がある

── ボディカラーでは、鮮やかな「ヤマブキオレンジメタリック」が印象的ですが、有彩色ではこれを含めた赤系のみの設定ですね。

「カラーに関しては、現デザイン本部長(渡辺誠二氏)が強いこだわりを持っていまして(笑)、新色はバンブルビー=蜂のイメージで行こうと。黄色と黒という、特徴的で誰もが想起しやすい色ですね。色味ですが、実は欧州向けにはブルー系も用意しているんです。日本ではこのオレンジとソリッドのレッドの赤系が市場に合っていると判断されたワケですね」

── インテリアでは立体的な造形に加え、メタリック調のパーツが多用されているのが特徴ですね。

「今回は飛行機のコクピットをモチーフとし、三菱独自のコンセプト『HORIZONTAL AXIS(水平な軸)』をより強化しています。車の傾きに対し、デバイスではなく直感で姿勢判断できる造形ですね。また、空調回りの金属調パーツは、気温が高いアセアン市場で涼しさを感じさせる意図もあるんです」

厚く立体的な造形が水平に構成されたインパネ。ソフトパッドを使ったことで「モダン」というユーザからの声もあるという
厚く立体的な造形が水平に構成されたインパネ。ソフトパッドを使ったことで「モダン」というユーザからの声もあるという

── 最後に。アウトランダー、デリカミニ、新型トライトンと、最近の三菱デザインは方向性が明快になってきたように見えますが、デザイン部では何か変化があるのでしょうか?

「前デザイン本部長(國本恒博氏)が敷いたレールに、現本部長がいい流れを作ったと言えるかもしれません。デリカミニもそうですが、欧州スタジオが手掛けたエクスフォースも高い評価をいただいていますね。ユーザーにリーチするカッコよさとは何か? そうした純粋でパワフルな志向がデザイナーのマインドを変えてきているのかもしれません」

── デザイン部が共通の目標を持てているワケですね。本日はありがとうございました。

(インタビュー:すぎもと たかよし)

この記事の著者

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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