スペーシアのリヤシートは、軽自動車の常識を超えて「ユーザーに寄り添う」【週刊クルマのミライ】

■新型スペーシア/スペーシアカスタムだけが持つ装備とは?

スペーシアカスタムの最上級グレード「HYBRID XS TURBO」。FWDのメーカー希望小売価格は207万3500円。
スペーシアカスタムの最上級グレード「HYBRID XS TURBO」。FWDのメーカー希望小売価格は207万3500円

振り返ってみれば、2023年は軽スーパーハイトワゴンの当たり年でした。

年始の東京オートサロンでその姿を見せた三菱・デリカミニ、夏にフルモデルチェンジを発表したホンダ・N-BOX、そして年末にはスズキ・スペーシアが3代目へと進化しました。

そのスペーシアについては、先日の当コラムにおいて「NAエンジンの標準車とターボエンジンのカスタムは完全に別キャラに仕上がっている」と走り味を中心とした報告をさせていただいたのですが、新型スペーシア/スペーシアカスタムのトピックスは走りだけじゃありません。

たしかに、走りのレベルは軽スーパーハイトワゴンとして磨き上げてきたのは明らかですが、それ以上にオンリーワンの機能を新型スペーシア/スペーシアカスタムは得ています。

それが上級グレードの後席に標準装備となる「マルチユースフラップ」です。

●リヤシートを3つのモードで活用することができる

リヤシート座面先端に備わるのが「マルチユースフラップ」。
リヤシート座面先端に備わるのが「マルチユースフラップ」

スズキ初採用、筆者の知る限り国産車でも初めてとなる後席「マルチユースフラップ」は、座面の先端部分を前後方向と角度調整ができる可動式としたものです。

ティザー情報をもとに「オットマンモードを持つ軽自動車!」としてバズったことも記憶に新しいところですが、そもそもマルチユースフラップが生まれた経緯は、オットマンありきではないといいます。

そもそもオットマンモードは前席を前に動かすなどしてスペースを作らないと満喫できないモードです。原則として停車時にリラックスするためのシートアレンジです。

フラップを上に向けると、リヤシートに置いた荷物が滑り落ちるのを防ぐ「ストッパーモード」となる。
フラップを上に向けると、リヤシートに置いた荷物が滑り落ちるのを防ぐ「ストッパーモード」となる

マルチユースフラップには、そのほか「荷物ストッパーモード」と「レッグサポートモード」があります。

荷物ストッパーモードは、フラップを上に向けて、まさしくストッパーとすることでリヤシート座面においた荷物が転がり落ちるのを防ぐというアレンジです。スライドドアの軽スーパーハイトワゴンにおいては、買い物などの荷物を後席に置いておきたいというニーズが高く、そうしたシチュエーションにおける利便性を高めるのが、このモードです。

フラップが上に向けられるだけでなく、前後方向に4段階で調整できますので、荷物のサイズに合わせてフィットさせられるのも親切な設計といえるでしょう。

フラップの位置は、ヘッドレストのように伸ばすこともできる。リクライニングと組み合わせれば「オットマンモード」にもできる。
フラップの位置は、ヘッドレストのように伸ばすこともできる。リクライニングと組み合わせれば「オットマンモード」にもできる

そして大本命といえるのが「レッグサポートモード」です。前述したようにフラップの位置は前後方向で4段階、ストッパーモードを除いても標準位置を含めて3段階に角度調整ができます。

そうしてうまく膝裏を支えるようにフラップの位置を調整すると、あら不思議。後席が体にフィットするよう感じられてくるのです。

軽スーパーハイトワゴンに限った話ではありませんが、ラゲッジの使い勝手を考えると、どうしても後席シートを小ぶりに設計したくなるものです。しかし、それでは、とくに大柄な乗員にとっては「リヤシートが小さい」という不満につながってしまいます。

スズキが新型スペーシア/スペーシアカスタムで採用した、マルチユースフラップはそうした不満を解消するものです。

フラップの位置は前後方向に4段階、角度は2段階に調整できる。膝裏を支える位置に合わせれば自分専用シートのような一体感が味わえる。
フラップの位置は前後方向に4段階、角度は2段階に調整できる。膝裏を支える位置に合わせれば自分専用シートのような一体感が味わえる

驚いたのはフラップを前に伸ばした際に生まれる隙間が座り心地の面ではまったく気にならないことです。意識しなければ、単純に座面が長くなったように感じるのです。

また、小柄な乗員でもフラップの角度を調整して膝裏との密着度を上げると、より体を支えやすくなるため、長時間の乗車での疲労軽減につながるともいいます。

まさに軽自動車の後席快適性を上げる革命的アイデアといえるでしょう。

せっかくのナイスなアイデアですので、スペーシアに限らず、ワゴンRやハスラーなどスズキの軽自動車全般に横展開してほしいと思います。

●痒い所に手が届く気配りアイテムにも注目

ラゲッジ開口部に自転車を載せるためのガイドを設けているのは従来モデルから続く美点。
ラゲッジ開口部に自転車を載せるためのガイドを設けているのは従来モデルから続く美点

そのほかリヤシート周りでは、シートバックテーブルが新形状に進化しているのも見逃せません。

展開時にタブレットやスマートフォンを立てかけやすいよう3本の溝が入れられているのは、まさに現代的ニーズに応えたデザインといえます。

さらにドリンクホルダー部分も新設計で、500ml紙パックや両手持ちタイプの幼児用マグカップなども入れられる新形状となっています。

こちらもマルチユースフラップと同じく、標準系・カスタム系とも上級グレードに標準装備となります。

シートバックテーブルは、幼児用マグカップなどに対応すべく形状を見直されている。
シートバックテーブルは、幼児用マグカップなどに対応すべく形状を見直されている

マルチユースフラップを採用した理由として、後席をコンパクトに格納できることを挙げましたが、新型では後席格納時の床面がフラットになり、さらに従来モデルに対して40mmも低床になっています。

こうしたラゲッジ性能における進化は、とくに自転車の積載性を向上させています。従来同様、自転車を積み込む際の目安となるガイドを開口部に設けているのもスズキらしい親切設計といえるでしょう。

もちろん自転車を積んだ状態でも助手席に座れますから、自転車で出かけた子どもを迎えに行って、自転車も積んで連れて帰るというニーズを満たしてくれるわけです。

助手席前のインパネトレーはコンビニ弁当がそのまま置けるほど余裕のサイズ。
助手席前のインパネトレーはコンビニ弁当がそのまま置けるほど余裕のサイズ

さらに新しいニーズにも対応しています。

賛否両論あるでしょう、いま日本ではレジ袋が有料になっています。そのためコンビニなどで弁当を買った際に「そのままで」といってむき出しで持ち帰る人が増えているといいます。もし弁当の置き場がなければ、運転中に転がって悲惨なことになってしまいかねません。

そこで新型スペーシアでは、従来モデルではリッド付きだった助手席前の収納スペースを大型インパネトレーへ変身させました。そのサイズは「コンビニ弁当がそのまま置ける」ことを意識しているということです。

まさしくユーザーに寄り添う、スズキらしい開発姿勢が感じられるエピソードではないでしょうか。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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