新型スズキ・スペーシアを公道試乗。スペーシアとスペーシアカスタムは想像以上に「キャラが別」だった【週刊クルマのミライ】

■スタイリングからして従来型の正常進化を表現

国際輸送を支える大型コンテナをモチーフとしたスタイリングはワクワク感に満ちている。
国際輸送を支える大型コンテナをモチーフとしたスタイリングはワクワク感に満ちている。

ジャパンモビリティショー2023にて、プロトタイプをお披露目していたスズキの軽スーパーハイトワゴン「スペーシア/スペーシアカスタム」は、ショー閉幕直後にフルモデルチェンジを発表。2023年11月22日から発売が始まっています。

軽自動車のメインストリームであるスーパーハイトワゴンの人気モデルとして、スズキの国内販売をリードするスペーシア/スペーシアカスタム。

新型モデルに公道試乗することができたので、その印象をお伝えしようと思います。

あらためてプロフィールを整理すると、新型スペーシア/スペーシアカスタムはこのモデルで3世代目。スタイリングのモチーフは、海上輸送を支える大型コンテナということです。先代モデルが旅行に使うスーツケースでしたから、モノを運ぶという意味では正常進化、確実に成長していることを感じさせます。

基本的なアーキテクチャーは従来モデルのブラッシュアップといえるものですが、新型スペーシア/スペーシアカスタムには、これまでにない画期的な機能がついています。それが後席に備わる「マルチユースフラップ」です。

後席座面のフラップを調整することで体格に合わせることができる。写真は身長165cmの筆者が合わせた状態。
後席座面のフラップを調整することで体格に合わせることができる。写真は身長165cmの筆者が合わせた状態。

百聞は一見に如かず、ですので実車で確認して欲しいのですが、マルチユースフラップは、後席座面の先端に角度や位置を調整できるクッションを付けたといえるもの。構造的にはヘッドレストに似たものといえます。

アイデアは、後席に置いた荷物を簡易的に動かないようにするにはどうすればいいのか、ということからスタートしたといいます。実際、フラップを上に向けて回転させると荷物ストッパーとして機能します。

話題の「マルチユースフラップ」は、荷物ストッパー/レッグサポート/オットマンと3つのモードで活用できる。
話題の「マルチユースフラップ」は、荷物ストッパー/レッグサポート/オットマンと3つのモードで活用できる。

後席に乗員が座る場合には、フラップの位置を前後に動かすことで、膝裏をしっかりと支えることができます。合わせてフラップの角度も調整すれば、様々な体格の乗員に合わせることができるので、大人から子どもまで誰もが満足できる後席に仕上がっているのは、新型スペーシア/スペーシアカスタムのストロングポイントといえるでしょう。

ただでさえ空間的には広い軽スーパーハイトワゴンですが、リクライニング機構や左右独立アームレスト、前後スライドなどを備えていることもあり、新型スペーシア/スペーシアカスタムの後席は非常に快適な空間となっています。

さらに、停車時にはオットマンモードとして利用することも可能。習い事の送迎での待ち時間などを快適に過ごすことができるのも、新型スペーシア/スペーシアカスタムの進化ポイントです。

●NAエンジンの標準系は街乗りスペシャルの印象

HYBRID Xは標準系の上級グレード。FF車のメーカー希望小売価格は170万5000円。撮影車の仕様にすると220万9460円となる。
HYBRID Xは標準系の上級グレード。FF車のメーカー希望小売価格は170万5000円。撮影車の仕様にすると220万9460円となる。

グレード構成は、標準系とカスタム系の2本立て。従来モデルではクロスオーバースタイルの「スペーシアギア」も人気でしたが、ひとまずはラインナップには存在していません。なお、2022年に誕生した商用バン仕様のスペーシアベースは継続販売されます。

パワートレインは全車がマイルドハイブリッド仕様。標準系は新世代のR06D型エンジン(NA仕様)だけとなり、カスタムの最上級グレードにはターボエンジン(R06A型)も設定されます。

まずは、NAエンジンの標準系から乗ってみます。試乗したのはHYBRID Xグレード。NAエンジンの最高出力は36kW、アシストするモーターの最高出力は1.9kWで、トランスミッションはCVTです。

NAエンジンは最新世代のR06D型になった。マイルドハイブリッド仕様でリアル燃費も期待できる。
NAエンジンは最新世代のR06D型になった。マイルドハイブリッド仕様でリアル燃費も期待できる。

このスペックだけ見ると、背高のっぽのスーパーハイトワゴンには力不足と感じるかもしれませんが、新型スペーシアの車重は880kgと、ボディ形状からすると軽く、街乗りの発進加速で不満に思うことはありません。

高速道路に行っても、フラットな道である限りはパワー不足は感じません。ただし、負荷のかかる登り坂になるとエンジンは唸りますし、タイヤが燃費志向の14インチを履いている影響なのか、高速での直進安定性については物足りない部分もあります。

ただし、65扁平のタイヤは当たりが柔らかく、乗り心地の面では優れています。

そのあたりの特性を考えると、街乗りメインで使うことを想定しているユーザーに向いているのが、新型スペーシアの標準系といえるでしょう。

●ターボのカスタムは高速ツアラーのポテンシャルあり

スペーシアカスタムHYBRID XSターボ(FF)のメーカー希望小売価格は207万3500円。撮影車の仕様は253万9460円となっていた。
スペーシアカスタムHYBRID XSターボ(FF)のメーカー希望小売価格は207万3500円。撮影車の仕様は253万9460円となっていた。

反対に、165/55R15サイズのタイヤを履き、最高出力47kWのターボエンジンに、最高出力2.3kWのハイブリッドモーターを組み合わせたスペーシアカスタムHYBRID XSターボの走りは、高速クルーザーといえるものです。

正直、街乗りではタイヤの硬さを感じる部分もありますが、高速道路に入るとしっかりと直進安定性は出ていますし、インターチェンジの大きなコーナーなどでの四輪接地感も抜群で、安心して走り、曲がることができます。

ターボエンジンの余裕は、高速道路での振動の少なさや静かさにもつながっています。ターボ車にはダッシュパネル付近の遮音材も追加されているというのも快適性を高めてくれています。

ターボエンジンはレスポンスがよく、ゼロ発進から元気が感じられる。
ターボエンジンはレスポンスがよく、ゼロ発進から元気が感じられる。

前述したように、タイヤ由来の硬さは市街地走行では標準系に比べて乗り心地がよくないと感じさせるのですが、ターボエンジン+マイルドハイブリッドのパワートレインにネガは感じません。

極低速でもターボチャージャーはしっかりと仕事をはじめてくれるので、アクセル操作に合わせたリニアな加速が体感できます。そのため、不用意にアクセルを踏みすぎることなく、市街地をスムーズに走行できるのです。

握りやすいステアリング形状も相まって、どこか”ワークス”を思わせるテイストを感じさせるのが、スペーシアカスタムHYBRID XSターボです。

●市街地~高速でのリアル燃費は期待以上

使いやすさとスタイリッシュを両立したインパネ。握りやすいレザーステアリングはヒーター機能付き。
使いやすさとスタイリッシュを両立したインパネ。握りやすいレザーステアリングはヒーター機能付き。

まとめると、新型スペーシア/スペーシアカスタムについては、標準系とカスタム系においてエクステリアやインテリアの違いだけでなく、走り味についても明確な差別化がされています。

単純に、価格帯が上になるカスタム系が高級というのではありません。シンプルに表現すると、カスタム系はハイウェイクルーザー的キャラ、標準系は街乗りスペシャル的キャラになっているといえるでしょう。

いずれにも共通しているのは、マイルドハイブリッドによる好燃費です。

デジタル表示の速度計と4.2インチのインフォメーションディスプレイを組み合わせている。
デジタル表示の速度計と4.2インチのインフォメーションディスプレイを組み合わせている。

今回の公道試乗では、市街地から高速道路、さらにワインディング的な道までをぐっと凝縮したルートで、小一時間ほど走ってみたのですが、メーターの区間燃費表示は、標準系で21.9km/L、カスタム系ターボで17.3km/Lとなりました。

それぞれカタログスペックのWLTCモード燃費は、NAエンジン車が23.9km/L、ターボ車は21.9km/Lとなっています。とくにNAエンジン車については、期待以上のリアル燃費だったといえるのではないでしょうか。

もちろん、リアル燃費というのはシチュエーションによって変わるものですが、ことNAエンジン車についてはよほど荒っぽい乗り方をしない限り、20km/Lをコンスタントに超える走りができそう。こうした経済性のよさも、新型スペーシアのアドバンテージといえるかもしれません。

新型スペーシア(左)とスペーシアカスタム。ルックス以上に走り味も異なっている。
新型スペーシア(左)とスペーシアカスタム。ルックス以上に走り味も異なっている。

なお、ADAS(先進運転支援システム)や衝突被害軽減ブレーキに代表される先進安全機能についても、新型へのフルモデルチェンジに合わせて、ミリ波レーダーと単眼カメラを併用する「デュアルセンサーブレーキサポートII」へレベルアップしています。

高速道路で役立つACC(追従クルーズコントロール)については、カスタム系全車に標準装備。

標準系ではHYBRID Xグレードにセーフティプラスパッケージとして付加することができます。オートホールド機能付きEPB(電動パーキングブレーキ)も備わるので、高速道路での渋滞から市街地での信号待ちまでサポートしてくれるのもうれしい進化ポイントです。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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