【ライバル徹底比較】ルノー・カングーとシトロエン・ベルランゴの違いは? ベルランゴオーナーが長距離走ってみた

■日本で大人気のカングーの魅力はどこ?

●ライバル、シトロエン・ベルランゴと徹底比較

ルノー・カングー(左)とシトロエン・ベルランゴ(右)
ルノー・カングー(左)とシトロエン・ベルランゴ(右)

日本ではなんで商用車なのにそんなに人気があるのか、フランス人もビックリと言われるルノー・カングーですが、やっと日本でも最新モデルが走り始めています。

今回の日本仕様は、左右開きのリヤドアが日本専用設計であるなど、ルノー本体も日本マーケットを大事にしてくれていることからも、日本でのカングー人気の証明とも言えるでしょう。

しかし、先代カングーの頃、2019年にまったくの同ジャンルのライバルであるシトロエン・ベルランゴが日本上陸。ルノーよりもさらに個性的なシトロエンが人気を博し、日本でのシトロエン史上最大の、これまでにない登録台数を記録したそうです。

さて、そんなカングーとベルランゴですが、かなりの部分で似たようなところがありながら、違うところも多く存在しています。ベルランゴオーナーの私も、とても興味深いものがあります。それぞれの違い、あるいは同じ部分を見てみましょう。ベルランゴはロングでない5人乗りモデルを中心にお話を進めていきます。

ルノー・カングー(左)とシトロエン・ベルランゴ(右)
ルノー・カングー(左)とシトロエン・ベルランゴ(右)

外観は、これはもうお好みですね。ちょっと国産ミニバンにも似てなくもないカングーと、やっぱり欧州車の個性が感じられるベルランゴ。と思ったんですが、ベルランゴの顔もノアに似てなくもない。まあ、どちらかが真似たとは思いませんが。

●カングーが少し長いが、サイズ比較ではほぼ互角

サイズとしては、カングーの全長×全幅×全高=4,490×1,860×1,810mmに対し、ベルランゴは4,405×1,850×1,850mm。カングーのほうが85mm長くて、10mm幅広くて、40mm低いわけです。全長方向の駐車場に制限がある場合などを除いて、使い勝手の面でサイズはほぼ互角と言って良いのではないでしょうか。

ちなみに、カングーの最廉価グレードZENでは、ルーフレールがオプションとなっています。

ドアの開き方は、両車ともフロントサイドがバタフライ式、リアサイドがスライド式のドアとなっております。スライドドアはどちらも手動式のみで、日本のミニバンのように電動式は用意されません。どちらも、屈強な欧米人なら軽々と全開になったスライドドアをバタンと閉めることができそうですが、特にベルランゴの場合、一度開いたスライドドアを閉めるのに、けっこうな力とコツを要します。普通の女性や子どもには閉められないほどです。

ところが、先日乗ったフィアット・ドブロ(ベルランゴと基本が同じ骨格の車両)ではそれほど重くなかったので、もしかすると最新のモデルでは軽減されているのかもしれません。いずれにしても、特にファミリーユースなどの場合は頻繁に使用する部分なので、スライドドアの開閉は要チェックポイントだと思います。

もっとも、両車の違いがはっきりするのが、リヤドアの開き方ではないでしょうか。

●リヤドアの開き方がカングー、ベルランゴの最大の違い!

ベルランゴは一般的な開き方である、バンパーの上部からガバ〜っと上に開くのに加え、ガラスハッチ部分だけでも開けることができます。リヤゲートはそれなりの開閉重さもありますし、後方に余裕がないときは開けることができないことも。そんなときは、ガラスハッチだけ開けて荷物の出し入れも可能です。特殊な用品を用いれば、工夫次第では、換気のためにちょっとだけ開けておく、なんてこともできそうです。実際使ってて、結構便利です。

対してカングーは左右に開く観音開きタイプで、左右に6:4くらいの分割式。まず、左側の「6」を開いて、続けて右側の「4」を開けます。もちろん、「6」だけを開けて荷物の出し入れも可能です。開閉に力は要せず、便利ではあります。

しかし、ガラス部分ももちろん2分割になっているため、バックミラーからの後方視界でその柱部分が気になるのです。特に、高速道路で制限速度内で走っていても、後ろから白いセダンがついてきてたりすると、「あー、覆面のクラウンじゃないのかなぁ」というときの確認がやりづらいことがあります。慣れれば気にならないかもしれませんが…これも要チェック部分だと思います。

●カングーは2:1、ベルランゴは1:1:1で後席の分割の仕方が違う

内装を見てみましょう。

フロントシートはどちらもゆったりめのサイズで疲れにくく、余裕のある走りに寄与してくれます。カラーなどはそれぞれのバリエーション、ラインアップがありますので、こちらもお好みで選んでいただければと思います。

その中でももっとも違うのが、セカンドシートのセンター部分でしょう。ベルランゴは後席3人分のシートが3分割で、それぞれバラバラに折りたたむことができますが、カングーのリヤシートは2名/1名の2分割式。室内側からの荷物の出し入れ、大きな荷物の積み込み方のバリエーションなどで、ベルランゴが有利になります。

それだけでなく、3分割シートはセンターの掛け心地も優秀です。後席1名乗車でも、センターに着座すれば前方視界も良好なのと、後席空調がない車種なので、その点でも恩恵はあります。

●カングーの内装

●ベルランゴの内装

●走りは軽やかなカングー、しっとりのベルランゴ

パワートレインはカングーにもベルランゴにも1.5リッターのディーゼルターボが用意され、ガソリンが選べるのはカングーのみです。

ディーゼル同士で比較した場合、実用上気になるような差も、それほど大きなアドバンテージも感じられませんが、加速感や動きとしてはカングーのほうが軽やかで機敏に感じます。カングーのガソリンと比べれば、その軽さ感は顕著です。ただし、ベルランゴが鈍重かというそうではなく、しっとりと落ち着いた動きに感じられます。

車両重量はカングーのガソリンが1,560kg、同ディーゼルが1,650kg。ベルランゴは1,600kg(17インチタイヤ/ホイールのXTRは1,630kg)と、ディーゼルで比較するとベルランゴのほうが意外にも軽いのです。

ただ、長距離を走った印象では、どちらも疲れることなく移動が可能でした。よく通う片道200km、往復400kmほどの道のりでは、乗り心地、直進安定性など、ちょっとしたロングドライブにありがたい性能は、カングーもベルランゴも互角と感じました。ただし、今や高速道路での走行に必要不可欠となったACCについては、デビューが新しいカングーのほうが、より使いやすいと言えそうです。

外観デザインや内装の雰囲気、カラーなど、個人の好みによるものと、上記の主な装備の違い以外で、何を決め手に両車を選べば良いのかというと、やはり、最後の項目に書いた走り味の違いだと思います。

加速するとき、減速しているとき、曲がり始めや曲がっているときなど、いずれもカングーのほうが軽やかに加減速したり、向きを変えたりしてくれます。いわゆる乗用車的に感じるので、もし、今乗っているクルマがセダンやステーションワゴンなどからの買い替えを検討しているなら、カングーのほうが違和感が少ないのでは、と思います。

ただし、上でも述べたように、ベルランゴが曲がらないとか、加速しないとか、もっさりしているという印象ではありません。カングーと比べると、どっしりとした印象で、むしろ車両のキャラクターやサイズ、重さを考えると、その動きは自然にさえ感じられます。

カングーと夜景
カングーと夜景

それは乗り心地も同様で、ベルランゴのほうがどっしりとゆったりした安定した動きであり、特に後席の同乗者には好ましく感じられる場合も多いのではないでしょうか。とは言え、カングーの乗り心地が良くないとか、安定していないわけではありません。

もはやこれは好みの問題としか言えないでしょう。ボックス型ながらキビキビした動きでないと許せない人はカングーを、ゆったりとした移動を楽しみたいならベルランゴを選ぶ、というのが基本になりそうです。

カングーと夜景
カングーと夜景

いずれにしても、その感じ方はその人次第。ぜひ、両車を乗り比べて、最終的な判断をされることをオススメします。

ちなみに燃費は、今回カングーはガソリン車で、468kmほど高速メインの走行で、満タン法、メーター表示の燃費計ともに15.6km/Lでした。このサイズのガソリン車では健闘しているんじゃないでしょうか。ディーゼルのカングーならさらに燃費はよかったでしょう。

私のベルランゴでは、恐らく同様な走りをすれば経験上、およそ16〜17km/L(もちろんディーゼル)と予想されます。

●ルノー・カングー クレアティフ(ガソリンモデル)主要諸元

全長×全幅×全高:4490×1860×1810mm
ホイールベース:2715mm
車両重量:1560kg
エンジン:直列4気筒ターボ
総排気量:1333cc
最高出力:131ps(96kW)/5000rpm
最大トルク:240Nm/1600rpm
駆動方式:FWD
トランスミッション:7速AT
サスペンション:前マクファーソン 後トーションビーム
タイヤ:前後205/60R16
車両本体価格:395万円

●シトロエン・ベルランゴ SHINE 主要諸元

全長×全幅×全高:4405×1850×1850mm
ホイールベース:2785mm
車両重量:1560kg
エンジン:直列4気筒ターボ(ディーゼル)
総排気量:1498cc
最高出力:130ps(96kW)/3750rpm
最大トルク:300Nm/1750rpm
駆動方式:FWD
トランスミッション:8速AT
サスペンション:前マクファーソン 後トーションビーム
タイヤ:前後205/60R16
車両本体価格:422万7000円

(文・写真:クリッカー編集長 小林 和久

この記事の著者

編集長 小林和久 近影

編集長 小林和久

子供の頃から自動車に興味を持ち、それを作る側になりたくて工学部に進み、某自動車部品メーカへの就職を決めかけていたのに広い視野で車が見られなくなりそうだと思い辞退。他業界へ就職するも、働き出すと出身学部や理系や文系など関係ないと思い、出版社である三栄書房へ。
その後、硬め柔らかめ色々な自動車雑誌を(たらい回しに?)経たおかげで、広く(浅く?)車の知識が身に付くことに。2010年12月のクリッカー「創刊」より編集長を務める。大きい、小さい、速い、遅いなど極端な車がホントは好き。
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