日産自動車が高齢ドライバーなどの安全走行を評価できる「有効視野計測システム」のプロトタイプを発表

■北里大学と「交通安全未来創造ラボ」において「有効視野計測システム」を開発

2021年3月15日(火)、日産自動車は「有効視野計測システム」のプロトタイプを発表しました。日産が2021年3月に産学が連携してネットワーク上に創設された「交通安全未来創造ラボ」の研究成果のひとつとして、北里大学の川守田 拓志准教授が中心になって開発されたシステムです。

日産自動車
実環境に近づけた高負荷による有効視野計測

「交通安全未来創造ラボ」とは、日産が新潟大学、北里大学、相模女子大学と連携し、2021年3月に創設されたバーチャル研究所。

交通死亡事故ゼロを目指し、交通弱者といわれる高齢者や高齢ドライバー、子ども、訪日外国人、過疎化による公共交通機関の縮小などで移動に不安や不自由を抱えている人々に寄り添うことを掲げていて、交通社会におけるダイバーシティ(多様性)の実現に向けた研究が推進されています。

日産自動車
コンピューターグラフィック画面での計測結果確認

今回、発表された「有効視野計測システム」のプロトタイプは、ドライバーの有効視野を簡便に計測できる最先端システム。

ドライバーの眼は、生理的視野(両眼で左右約180度、上方向に約60度、下方向に約70度)の中心付近に注視点を設ける際、その数度(約2~10度)の中心視野の周辺から有効に情報を獲得して処理できる範囲があります。

これが有効視野で、実際見えている生理的視野よりも狭く(約20~30度)、明るさや走行シーンの複雑さなどの条件による揺れ幅が大きく、周囲が暗くなったり、複雑な作業中は当然狭くなります。

ドライバーが安全走行を行う際は、単に見えているだけでは足りず、この有効視野を使い、見えている情報を適切に運転操作に反映させる必要があります。なお、海外の研究では、交通事故は、運転免許試験場や眼科の視力検査の結果よりも有効視野の低下との関係が強いとの報告もあるそうです。

日産自動車
北里大学と共に開発された「有効視野計測システム」

同システムでの計測は、実際の運転環境を想定し、注意を分散した状態での有効視野の範囲と、眼に情報が入り、運転操作が開始されるまでの反応時間が測られます。

同システムの特徴は3つあります。

まず、「ドライバーの運転行動評価と眼科領域における視野検査の知見を組み合わせた点」、次に「明るさや大きさなど日常生活環境に近づけた絵を用いた有効視野に着目したこと」、そして「動画や視線探索、手足と眼の共同運動を通してより多く注意を分散させたこと」です。

3つの特徴を通し、より実環境に近い運転シーンにおける有効視野の計測結果を、理解しやすい数値やCGによるビジュアルで示すことで、ドライバーが自分の状況を自覚しやすくなっているそうです。

さらに、有効視野計測システムは、3つのステップから構成されています。

ステップ1は、シンプルな条件として、モニター画面で中心視野を利かせながら、画面に次々出てくる記号を判別し、ボタンやブレーキに移る動作の反応時間や正答率を計測。これで有効視野の広さが分かります。ステップ2は、ステップ1で計測された反応時間や正答率の結果から、運転時に急な歩行者の横断があった場合、どれくらいの速さで反応してブレーキを踏むことができていたかをコンピューターグラフィック画面で体感。ステップ3は、より複雑な判別作業や運転操作を加えて、有効視野がさらに狭くなる条件が作られ体験するものです。

日産自動車
実環境に近づけた高負荷による有効視野計測の様子

上記の3ステップで得られた結果は、「運転中に何か視覚的に注意を取られると、見落としや運転操作の遅れにつながる」ことをドライバーに認知してもらうことに使われ、いわゆる「メタ認知」といわれるものです。

そして、自身の視覚の特性を理解した上で、視覚的な安全確認や安全運転を行うなどのドライバーの行動変容を促すことを目的に開発されています。

このプロトタイプは、ドライバーに与える運転負荷量など様々な条件で調査が行われ、どういった条件が有効視野や反応時間に影響を与えているかを検証しながら開発されたそうです。

現在、高齢ドライバーによる実験を準備中で、今後は研究条件とデータ数を増やしていくことでエビデンスを積み上げ、システムをさらに発展させていく予定だそう。研究成果は、「交通安全未来創造ラボ」のホームページにて随時公開するとしています。

塚田 勝弘

この記事の著者

塚田勝弘 近影

塚田勝弘

1997年3月 ステーションワゴン誌『アクティブビークル』、ミニバン専門誌『ミニバンFREX』の各編集部で編集に携わる。主にワゴン、ミニバン、SUVなどの新車記事を担当。2003年1月『ゲットナビ』編集部の乗り物記事担当。
車、カー用品、自転車などを担当。2005年4月独立し、フリーライター、エディターとして活動中。一般誌、自動車誌、WEB媒体などでミニバン、SUVの新車記事、ミニバンやSUVを使った「楽しみ方の提案」などの取材、執筆、編集を行っている。
続きを見る
閉じる