300馬力のプジョーSUV・プラグインハイブリッド「3008 HYBRID4」が3つの駆動方式を持つ理由とは?

■200馬力のエンジンとフロント110馬力、リヤ112馬力のモーターを組み合わせた4WD

●前輪駆動と後輪駆動それぞれをメインとした走行モードも選べる

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試乗した3008GT HYBRID4のメーカー希望小売価格は565万円。パノラミックサンルーフはオプションで15万3000円高。システム最高出力は300PS、最大トルクは520Nmとなる

プジョーというブランドにどのようなイメージを持っているでしょうか。「205」のイメージが強い層にとってはオシャレなフレンチコンパクトかもしれません。

モータースポーツでいえばWRCで活躍した時期が印象深いという人もいるでしょうし、ル・マン24時間耐久での速さが忘れられないというファンもいるかもしれません。

はたまた近年でいえばパリダカでの3連覇(2016~2018)もプジョーのモータースポーツ史に残る偉業です。

そんなパリダカマシンのモチーフとなっていたのが、CセグメントのSUVである「3008」です。まさにマーケットの激戦区に投入されるプジョーの未来を担う中心的モデルといえます。そして2021年1月、日本にビッグマイナーチェンジを果たした3008が導入されました。

このマイナーチェンジでは、フロントマスクを一新したのが特徴です。とくにグリルをボディに溶け込ませるようにしたのは、来るべき電動化時代への布石といえる表現として注目です。もちろん、最新の3008は電動化にも対応しています。

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ボディサイズは全長4450mm、全幅1840mm、全高1630m。ホイールベース2675mm、最低地上高175mmとなっている

そうです、プジョーとして初のプラグインハイブリッド車である「3008 HYBRID4」を用意しているのです。

この電動モデルは、現行ラインナップでは唯一の4WDであり、またプジョーの市販車として最強となる300馬力を発するハイパフォーマンスカーでもあります。

プラグインハイブリッドですから、パワートレインは当然ながらエンジンとモーターを組み合わせたメカニズムになっています。

具体的には、フロントに1.6Lガソリンターボ(200PS/300Nm)と8速ATに内蔵した駆動モーター(110PS/320Nm)を積み、リヤタイヤは独立したモーター(112PS/166Nm)で駆動するという電動4WDです。システムとして発揮できる最高出力は300PS・最大トルクは520Nmというのが公表スペックです。

プラグインハイブリッドなので総電力量13.2kWhのバッテリーを積んでいることもあり、車両重量は1850kg(オプションのパノラミックサンルーフ装着車は1880kg)ですから、Cセグメントとしては軽いわけではありません。が、システム出力の高さを考えると、このカテゴリーとしては十分以上のパフォーマンスを発揮することは容易に想像できます。はたして、その走りはどのようなものなのでしょうか。

●3008 HYBRID4には4つのドライブモードが用意されている

3008 HYBRID4のドライブモードは次のようになっています。

ハイブリッド:デフォルトのモード。エネルギー効率重視の制御を行う
スポーツ:エンジン主体で走るダイナミクス重視の走行モード
4WD:前後の駆動力を常に最適化。前輪駆動をベースにする
EV:バッテリー電力を使いリヤモーターだけで走行する。JC08モードで69kmまで走行可

このドライブモードを見て気付くことはないでしょうか、3008は基本的にFFプラットフォームのモデルですが、EVモードを選んだときにはリヤ駆動の走りが味わえるというわけです。一方で、スポーツモードにするとフロント駆動メインで走るという風になっています。当然ですが、4WDモードを選ぶと四輪駆動です。

つまり、前輪駆動・後輪駆動・四輪駆動という3つのパターンが混在しているのです。一般に駆動方式とハンドリングには関係があるとされていますから、そこを考えると、ドライブモードによる走り味の変化幅が大きく、どこかアンバランスになっているのではと心配させられます。

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テップレザーとアルカンタラのコンビネーションシートは大柄な人にも余裕の意サイズ感。運転席は電動調整タイプ

しかし、それは杞憂でした。

ワインディングで確認してみたところ、デフォルトのハイブリッドモードでは、バッテリーが十分に充電されている状態ではリヤモーターメインで走りますし、そこからアクセルを踏み込んでいくなど、よりパワーを求める操作をすると4WDに切り替わります。そして、その変化にはほとんど気がつかないほどシームレスなのです。ハンドリングへの影響は、まったくないといっても過言ではありません。

フロント駆動メインのスポーツモードを選んでも、そうした印象は変わりません。計算上は最高出力発生時にはフロントタイヤだけで200馬力以上を受け止めているはずで、それだけの余裕があるということです。つまり日常レベルの速度域ではフロントタイヤが駆動力に負けてしまうような感触はまったくありませんし、舵角を残したままガソリンターボエンジンの過給圧が高まるようなアクセルワークをしても、トルクステアを感じることもないのです。

いずれにしても、ステアリングの操作に対して、リニアに反応する様はSUVとは思えないほどでした。

ただし、オフロードに行くと話は変わります。これほどの強大なパワーとトルクですから、スポーツモードで不用意にアクセル操作をすると、コントロールが難しい領域に入っていきそうな気配があります(実際にはESPが作動するので実際には問題ありませんが、多少挙動は暴れます)。

オフロードでは4WDモードを選んで、トラクション重視で慎重に走る必要があるといえるでしょう。そして、4WDにしておけば驚くほど高い走破性を見せます。

●モーターを活かした緻密な制御でオフロードの走破性も高い

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立体的な表示のメーター。右側にはパワートレインの状態を示すことができる

試乗車が履いていたタイヤは、ミシュラン・プライマシー4という舗装路メインの銘柄でしたが、通常のFFモデルではスリップして、最悪スタックしそうになるような悪路であっても、3008 HYBRID4ならばスルスルと何の問題もないかのように走り抜けることができるのです。

そのポイントは前後駆動力の適正化もありますが、電動ならではの緻密なトルク制御がポイントと感じます。なぜなら、オフロードでEVモードにしてみても、走破性の高さを実感することができたからです。路面のスリップを検知して、瞬時にトルクを最適化するという制御を実現しているかこその走破性といえるでしょう。すなわち、モーターを上手に使って電動車ならではの走りを実現しているというわけです。

プジョー初のプラグインハイブリッドであり、初めての電動4WDはハンドリングや走破性という面において高い完成度を示していることが、ワインディングとオフロードという異なるシチュエーションで実感できました。

また、オフロード向けに下り坂で速度を一定に保つヒルディセントコントロールという機能を持っているのですが、ヒルディセントコントロール作動中にシフトをD(ドライブ)からN(ニュートラル)に入れると、より速度を落とすという制御が組み込まれているのもユニークなポイントです。

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電動化時代を見据えて、ボディに溶け込むような意匠のグリルになっている

実際、最大斜度10度でガードレールもないスリリングなオフロードのダウンヒルでその機能を試してみました。Dレンジでのヒルディセントコントロールはメーター読みで12km/h程度の速度を保つ制御となっていますが、Nにシフトすると8km/h程度に速度が落ちるので安心感が違います。

SUVライクなスタイリングのプラグインハイブリッドではなく、まごうことなきSUVの走りを持つのが3008 HYBRID4なのです。

しかもドライブモード次第では排ガスを出さないゼロエミッション走行もできれば、ハイパワーターボ主体でエンジンを味わえる走りも楽しめるという具合に、多面的なキャラクターも持っています。

税込み565万円というメーカー希望小売価格は高価に思えますが、その内容を考えるとこの価格はまさしくリーズナブルといえそうです。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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