「スズキのマー坊」は45万円で金はないけど目立ちたい若者にアピール【ネオ・クラシックカー・グッドデザイン太鼓判「個性車編」第4回】スズキ・マイティボーイ

■マイティボーイはスペシャルティ生まれのピックアップ

80~90年代の日本車のうち、チョット変わった個性派のデザインを振り返る本シリーズ。

第4回は、商用車規格を利用し、「力強い少年」を名乗ったスズキの若者向けピックアップ・2シータースポーツ、マイティボーイに太鼓判です。

マイティボーイ・アイキャッチ
1983年に登場したのがマイティボーイ

初代アルトのヒットによって軽の可能性を広げたスズキは、スペシャリティカーであるセルボの2代目にもそのノウハウを投入。さらに新しいユーザーを獲得するべく、同車をベースとして1983年に登場したのがマイティボーイです。

セルボの後部ルーフを取り外し、当時軽唯一のピックアップスタイルとしたボディは、セルボと同一の3195mmの全長に独自の2シータースタイルを構築しました。

フロントは、セルボの角型ランプを丸型にするなど明確に簡素化。ただし、グリルを左右非対称として車名のエンブレムを置くなど、商用車規格を逆手に取ったカジュアルな工夫が見られます。

マイティボーイ・フロント
簡素ながらカジュアルなフロントグリル

サイドビューは、ボンネットからAピラーへの流麗さがセルボと同一ですが、短い後部ルーフを外したことで、何とも尻すぼみなフォルムとなりました。しかし、660mmの荷台長は実用上決して不足はなかったといいます。

その尻すぼみスタイルを補うように、Bピラーにはスリット状の2本ラインを加えて適度なアクセントに。また、荷台両端にフィン形状のブラックパネルを置くことで、疑似クーペルックを作り出しているのもユニークです。

一方、ボディの前後を走る明快なキャラクターラインもセルボ譲りで、ここはサイド面の質感を確保するのに役立っています。ただし、ブラックのサイドプロテクターは上級グレードのみの設定が残念なところ。

●自慢はファッション性の高さ?

リアでは、荷物を風雨から守り、かつ精悍な後ろ姿を演出するデッキカバーを上級グレードに設定。先のブラックパネルと合わせて、セルボのクーペルックを想起させるアイテムです。逆3角形のランプもセルボと共用ですが、意外にも違和感はありません。

マイティボーイ・リア
サイドのブラックパネルがクーペを想起させる

インテリアは、基本的に初代アルトのインパネを流用。小さなメーターパネルと横基調のダッシュボードは極めて質素ですが、機能的なレイアウトとシンプルな造形で不思議と貧相に感じません。

アルトで成功した商用車規格を最大限に活用し、45万円という価格を実現。「金はないけど目立ちたい」をコピーに、若者をターゲットにした発想は実にスズキらしいところ。

ピックアップによる2シーターを「ファッション性の高さ」と公言してしまうのもまた同じです。

「スズキのマー坊」という愛称で一時は話題になりましたが、残念ながら息の長いヒット作にはなり得ませんでした。ただ、それはデザインの問題ではなく、ピックアップ市場を含めた商品企画自体に理由があるのかもしれません。

■主要諸元

マイティボーイ PS-A(4MT)
形式 M-SS40T
全長3195mm×全幅1395mm×全高1320mm
ホイールベース 2150mm
車両重量 510kg
エンジン 543cc 直列3気筒SOHC
出力 28ps/6000rpm 4.2kg-m/3500rpm

(すぎもと たかよし)

この記事の著者

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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