いすゞ FL-IRは、サメをモチーフに将来の新しい輸送スタイルを提示した近未来トラック【東京モーターショー2019】

10月24日から11月4日まで開催された東京モーターショー2019。各メーカーから出品されたコンセプトカーや市販予定車から、注目車について担当デザイナーに速攻インタビューを敢行。第8回目は「Create with you」を企業のコンセプトワードとするいすゞブースから「FL-IR」に注目!

■ドライバーの働き方改革をデザイン部主導でカタチに

LR-IR・メイン
速さと力強さから見出したモチーフは「サメ」。しかし同時に美しさも持つ

── まずはじめに。造形上のコンセプトから教えてください。

「将来の自動運転もそうですが、ドライバーの働き方改革の一環として、いすゞが考えているのが「中継輸送」という発想です。輸送路を分割して1台のクルマが長距離を走るのではなく、荷物を次のクルマにパスしていくイメージですね。そうなると車内での寝泊まりはなくなるし、走りは高速主体となります。そうした条件を集約し、デザイン主導で作り上げたのがこのクルマです。非常に派手なスタイルですが、決してカタチ遊びをしているわけではありません」

── 魚類の中でも、なぜ「サメ」をモチーフにしたのでしょうか?

「いすゞデザインの特徴として、まずしっかりモチーフを設定した上で造形をまとめようという姿勢があります。同時に、ユーザーさんにもそのメッセージがちゃんと伝わることも重視しながらデザインを進めているんです。今回は、先のとおり高速主体として空力がよく、かつ力強さを持ったモチーフとしてサメを選びました」

── 紫色のボディもまたサメのイメージなのですか?

「そうですね、サメの表皮の独特な質感をモチーフにしています。また、サメは怖いイメージがありますけど、実は横から見ると非常に美しいフォルムをしている。それをこのクルマのサイド面にも生かしています。従来のトラックではそうした「速さ」を強調することはあまりなかったのですが、そこにもチャレンジしたかったのです」

FL-IR・フロント
非常に広い面と「二枚の牙」が組み合わさったフロントビュー

── フロントの中心、グリル下のパネルが面が非常に広いのが特徴ですが、何か意図があるのですか?

「現行の量産車に比べて思い切りグリルの位置を上に持って行くことで、たとえば高速道路を走っているとき、遠くから見てもいすゞ車であることをしっかりアピールできるのがひとつ。もうひとつは、グリルだけで表情を作るのではなく、トラックらしいボリューム感をプレーンな面でも見せたかったんです」

■新しいフロントグリルは「二枚の牙」

── 外側の白いパネルとの二重構造的な表現は、前回2017年出品の「FD-SI」にも似ていますが、狙いは?

「ひとつは、先のとおり今回は空力がテーマなので、空気の制御板のような表現をしようと。もうひとつは、二重構造であることで、軽やかさと同時にボリューム感も表現できる手法であることです。実際、フロント左右のスリットは空気を通すことを想定しているんです」

FL-IR・サイド
白いパネルとの二重構造は空力機能にも関与

── 先のフロントグリルですが、従来とは意匠が変わっていますね

「これは、先日発表された新型DーMAXから採用しているもので「ワールドクロスフロー」と呼んでいます。従来は「シックスフォール・コンチネンタルグリル」として六大陸を表現してたのですが、それを進化させ、縦と横の流れでクルマを包み、世界中をつないで行くイメージですね。社内では「二枚の牙」と呼んでいます」

一見派手であっても、フロントやサイドなど、非常にプレーンな表現であることにいすゞらしさを感じますね。本日はありがとうございましした。

【語る人】
いすゞ自動車株式会社
デザインセンター プロダクト 第一グループ
矢島 幹生 氏

FL-IR・デザイナー

(インタビュー・すぎもと たかよし)

この記事の著者

すぎもと たかよし 近影

すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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