●初代のイメージを踏襲しつつ80年代らしい質感を得た、ルノー5
80〜90年代輸入車のグッドデザインを振り返る本シリーズ。第5回は、フランスの風景を変えたという初代のイメージを残しつつ、大幅な現代化を果たした個性的コンパクトハッチに太鼓判です。
ルノーのFF化戦略に乗り、1972年に発表されるやいなや大ヒット作となった初代。保守的だった当時のルノーのイメージを一新した偉大な初代の名前とイメージを引き継ぎ、1984年に発表されたのがシュペール・サンクこと2代目の「5」です。
全長と全幅を拡大しつつ全高を下げたモデルチェンジは、面白いことに最近の手法に近い発想。ただしそれぞれの差はわずかで、10年以上の経過を考えれば、初代のプロポーションはほぼ踏襲されたといえます。
モデルチェンジの肝は面質の現代化。フラッシュサーフェスを施したボディパネルは、初代が持つ鉄板の厚さや堅さ感は失ったものの、80年代らしい質感を獲得しました。とりわけ、太くなったB・Cピラーがクラシックから「ネオ」への進化を感じさせます。
もともと革新的な樹脂バンパーを持っていた初代ですが、さらに前後パンパー間を太いプロテクターで一直線に結んだ新型は、ボディサイドの要素が整理されると同時に、圧倒的な安定感を得ます。
面一化されたフロントグリルに準じ、リアでも平滑なパネルを分割するラインが見所。ランプの幅に合わせてカットされたリアピラーは別パネルとなり、さらにランプの下端を結ぶラインがリアハッチにアクセントを与えています。
インテリアは、曲面を持ったトレイ状のインパネが近未来感を演出。整然と並んだ空調口や操作スイッチも機能性を感じるものです。後の「バカラ」ではシートなどに高級素材が与えられますが、それに対応し得る質感を備えたものでした。
デザインを担当したマルチェロ・ガンディーニは、BXでシトロエンの方向性を一気に変えましたが、ここでは初代のイメージを残しつつ大幅な現代化を果たしました。偶然なのか、リアピラーに施した「別パネル」が両車で共通しているのが興味深いところです。
初代に次いでヒット作となった新型もまた、10年以上に渡って生産されました。1世代、たったひとつのボディで10年もの時間に耐えるのには相当なポテンシャルが必要です。日本ではターボの走りに話題が集中しますが、いま一度デザインにも再注目したいものです。
●主要諸元 ルノー5 GTターボ 3ドア(5MT)
全長3600mm×全幅1600mm×全高1360mm
車両重量 850kg
ホイールベース 2405mm
エンジン 1397cc 直列4気筒OHVターボ
出力 120ps/5750rpm 16.8kg-m/3750rpm
(すぎもと たかよし)