元F1ドライバー・井出有治選手も初体験の全日本EV選手権。ドノーマルのMIRAIで完走するドライビングとは?【モーターファンフェスタ2019】

【ゆる~いと思ったらガチだった全日本EV選手権にスポット参戦!】

■F1に乗るとEVレースにも参戦できる!?

日本電気自動車レース協会(JEVRA)主催「ALL JAPAN EV-GP SERIES」の第1戦「全日本 富士EV 40kmレース大会」が、2019年4月14日(日)富士スピードウェイで行われた弊社主催「モーターファンフェスタ2019」(MFF)の中で併催されました。

MFF主催である我が三栄には社用車として水素自動車のトヨタMIRAIがあります。で、ひょんなことから「Motor Fan トヨタMIRAI号」としてスポット参戦することになり、ドライバーに起用したのは元F1レーサー・井出有治選手です。

「EVでのレースが袖ヶ浦フォレストレースウェイや筑波サーキットで行われていること自体は知っていました。面白そうだな!とは思っていたんですけど、まさか自分が参戦することになるとは!(笑)」(井出)

井出選手は水素自動車のMIRAIに「乗ったことが無い」とのこと。「なので、EVレースも水素自動車も初体験できると楽しみです!」(井出)

ドライビング・オファーを快諾して下さった井出選手ですがこのレース、過去には片山右京選手や中野信治選手なども参戦しているとか。F1に乗るとEVレース参戦が付いてくるのかも!?

■排気量?じゃなくモーター出力量と改造具合などで全8コにクラス分け

【EV-1】 モーター出力161kW以上
【EV-2】 モーター出力110kW以上161kW未満
【EV-3】 モーター出力61kW以上110kW未満
【EV-4】 モーター出力61kW未満
【EV-C】 市販車のモーターとバッテリーに変換した車両
【EV-F】 燃料電池車両
【EV-R】 レンジエクステンダー
【EV-P】 開発車両もしくはレース専用車両

クラス分けはこんな感じ。MIRAIで参戦するのは全3台。我ら「Motor Fan トヨタMIRAI号」はノーマルの水素自動車なので【EV-F】。NATS日本自動車大学校MIRAI号と同クラス…でもコチラはバッテリーの熱対策もしてあったり車高調も入っています。自動車評論家・国沢光宏さんのMIRAI号はド改造レース車両なので【EV-P】になります。

■予選は…ビリじゃない!けど、セーブモードに入ると危険!!

レース前に、同じMIRAIで参戦しているNATSの金井選手や海老原先生、また国沢選手に「敵に塩下さい!」と走らせ方の伝授を願いました。とにかく、40kmレース(9周)を全周全開したくても「絶対に無理!」とのこと。

「まず最初に言われたのが、熱の影響でセーブモードに入るので気を付けて、ということでした。まぁMIRAIは全開でガッツリ走るようなクルマには出来ていませんからね。なので、予選で初めてMIRAIをドライブした時にセーブモードに入る加減を確認したところ、70~80%のアクセル開度でいけばOKというのが分かりました。
ヘアピンとか小さいコーナーの出口では2~3秒ほど全開にするけど、多少スピードが乗ってきたら80%ほどのアクセル開度に戻す。また、バッテリーの充電としてエンジンブレーキでの回生とフットブレーキでの回生とをより長い時間かけるようにもやってみたんですけど…コレは思いのほか効果がなさげだったので、やらなくてもよかったかな?
なにせコクピット前方に表示される純正の充電メーターは大体のことしか分からないんです。レース用…があるかどうかは分かりませんけど、後付けメーターであればもっと細かく充電具合が分かったかも。でも国沢さん曰く『充電量が分かったところでなにも出来ず、減ってく、減った、あ~カラッポ…みたいな!』って。でも走り方の工夫で充電量を増やす余地はあるかな?」(井出)

予選は…2分33秒111、11位…ビリじゃない(嬉)!! でも同クラスのNATS・MIRAI号は2分27秒952。

「熱対策や車高調への変更でこれだけの差が出るんです。たとえアクセル全開でアタックしたとしても5秒も縮まらないでしょう。しかも改造クラスの国沢号は2分24秒640、どうあがいても追い付けっこないですよね!(笑)」(井出)。

■走り方をコツコツ工夫してノントラブル完走を目指す!!

決勝スタート! EVレースはフォーメーションラップ無しのスタンディングスタートです。なぜか? レースで使う電気や水素がその1周で減っちゃうから(笑)! スタートの上手い井出選手、今回もロケットスタート成功でしたか?

「ン~水鉄砲くらい? もうね、1コーナー入るときってけっこうみんなガチでいくんですよ。クルマがクルマだからもっとゆる~い感じかな?と思ったら、車間が詰まったまま3ワイド、4ワイドくらいで入って行って、しかもブレーキ遅らせてけっこう突っ込む人も! かといって当たりたくないのでボクは様子見しました。ボクの後ろだか横だかのリーフはえらい勢いで突っ込んでいましたよ! 1コーナー行くまでの間に皆さんヤル気満々な動きをしていたので、ゆる~いEVレースとは違ってドライバーはみんなガチなんだなって感じました」(井出)。

セーブモードに入れず完走するには、どんな走り方をしたんでしょう?

「予選の時、80%のアクセル開度や走りをしていたときに1回、セーブモードに入る前の警告が点いたので、それからちょっと落とした感じで走りました。アクセル開度80%以下をキープするのって足が攣りそうになるんですよ~(笑)!」(井出)

結果、総合9位のクラス2位(※2台中!)、それでもシングルフィニッシュなのでシリーズポイント『2』をGETです!

「レース自体は難しかったですね。トップ2台(タイサンのテスラ)は楽しそうに走っていたけど、ボクは自分のクルマとの戦いって感じ。途中からほぼ単独になっちゃったから、効率よく充電や回生をさせるいい乗り方ないかな?っていろいろ工夫しながら走っていました。
細かくブレーキ踏んで充電させるか?とかもやったんですけど、何も変わらなかったですね。60~70%くらいのアクセル開度から先は、全開にしてもしなくても変わらない感じ。スピードも出そうと思えば出せるけど、出せば電気も使っちゃうし充電も間に合わない。スピードが無い分、そういうところでコツコツやるしかないんですよね。
ボクは、あのトップ2台のようにライバルとの駆け引きとかスピードどうのこうのって感じではなかったので、ノーマルMIRAIなりの、この9周という周回数の中でやれるだけのことはやったって感じ」(井出)。

まったくのフルノーマルは井出号のみでしたね!

「全日本戦のレースですからね、皆さんのようにやれることはしっかりと対策するのが当たり前。逆にフルノーマルで走る方がおかしいんです(笑)!」(井出)

タイヤだけは純正BSエコピア(215/55R17)からADVANスポーツV105(225/50ZR17)と、インチアップはせず扁平率だけをチョイ下げ。

「お蔭様でタイヤだけはしっかりと剛性感がありコーナーで倒れかけるようなこともありませんでした。エア圧はもうちょっと上げておいても良かったかも(2.3kgくらい)。ただ、MIRAIは重たい(車両重量=1850kg)!
FCスタック(燃料電池)や高圧水素タンクを低位置に配置して重量配分58:42とSPEC上はバランスが良さげな感じですけど、乗った感じは超フロントヘビー! だからかえってリヤタイヤは気にならなかったし、どちらかといえば硬すぎるくらいでした。とにかくフロントが重さに負けちゃうんですよね。まぁそれだけのものがフロント側に詰まっているというのもあるけど。
でも、レースカーとして何も対策しなかったのにコレといって問題なく走れるMIRAIって、ラップタイムは別として良くできているクルマですね!」(井出)

とにかく、全開で攻めることが出来ない我慢のレースは初めてだったそう。フラストレーション溜まっちゃいました?

「いや、逆にゆっくり過ぎてフラストレーションも溜まりませんでしたヨ。この難しさを楽しんでいた感じ。でもね、誰にも抜かれていないんですよ! ノーマルなのにエライでしょ(笑)!? でも最後の周、バックミラーにトップを走っているテスラが見えて『ヤバイ…周回遅れになる!! 』ってBコーナーから全開にしたんだけど、思いのほかテスラが速くて間に合わず、あと200m!ってところで周回遅れにされちゃいました(笑)!」(井出)

■EVレースは未来あるレース!

今回、初めてのEVレースを体験してみた上で、今後このレースに対してやエントリーをしたいと思っている方へのアドバイスをお願いします!

「MIRAIやテスラ、リーフなどのEVレースはこれからだと思いますね! でも、車高調入れたりバッテリー冷却対策とかをしている時点でチューニングクラスだと思うんです。ボクみたいなド・ノーマルクラスを作ってくれたらエントリー台数も増えると思いますヨ。
出力変えたら1クラス、車高調と軽量で2クラス、タイヤ変更だけのド・ノーマルで3クラスとか。『ノーマル』の定義がちょっと曖昧すぎるかな。もし次があれば。車高調入れてリヤシートも助手席も内装も引っぺがして軽量化! 重量配分対策もして、メーカーも抱き込んだヤル気満々な体制でトップ狙いに行きたいです!(笑)」(井出)

このEVレース参戦、実はレース前日に修行のような作業があり(ステッカー貼り作業!)「ソッチのほうが辛かった(笑)!」(詳しくはコチラを参照! by井出) だけど、「EVレースは貴重な体験でもあり楽しかったです!」(井出)と言っていただけました(感涙)。ガムテープ購入から始まったという『即席ポンコツレーシングチーム』なんかで走っていただき、大感謝!

【協力感謝!】

ヨコハマタイヤ・トラスト・トライボジャパンMoty’s・TETSUエンジンサービス・チーム国沢・NATS日本自動車大学校

(前日から一番苦労したドライバー:井出 有治/文&お気楽チームマネージャー:永光 やすの/言い出しっぺチーム監督:鈴木 慎一(三栄・モーター系編集局長)/画像:前田 惠介・栗原 淳・MotorFan Web)

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https://clicccar.com/2019/04/17/742808/

この記事の著者

永光やすの 近影

永光やすの

「ジェミニZZ/Rに乗る女」としてOPTION誌取材を受けたのをきっかけに、1987年より10年ほど編集部に在籍、Dai稲田の世話役となる。1992年式BNR32 GT-Rを購入後、「OPT女帝やすのGT-R日記」と題しステップアップ~ゴマメも含めレポート。
Rのローン終了後、フリーライターに転向。AMKREAD DRAGオフィシャルレポートや、頭文字D・湾岸MidNight・ナニワトモアレ等、講談社系車漫画のガイドブックを執筆。clicccarでは1981年から続くOPTION誌バックナンバーを紹介する「PlayBack the OPTION」、清水和夫・大井貴之・井出有治さんのアシスト等を担当。
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