もっと美しいクルマを世の中に。「日本カーデザイン大賞」が目指す自動車デザインの向上とは?

●もっとシンプルに、直感で「イイ!」と思えるデザイン・スピリッツが欲しい

クルマを対象とした賞はさまざまありますが、デザインのみに特化して選考を行うのが「日本カーデザイン大賞」です。今年も1月19日に第40回の表彰「C&T meeting 2019」を終えたばかり。そこで、実行委員を務める「CAR STYLING」編集長・松永大演氏に同賞について話を聞いてみました。

── まず最初に。この賞はどのような経緯で始まったのでしょうか?

「カーデザイナーが海外に進出し始めた1970年代、年に一度、そうしたデザイナーとの交流の場を設けようと、当時オペルに在籍していた児玉英雄氏と「CAR STYLING」初代編集長・藤本彰が会(C&T meeting)を設けたんですね。さらに1984年にカーデザインの向上を目指して賞を制定した。C&Tとは「CAR STYLING」と会を支援されている「Tooグループ」の頭文字ですね」

── これまで、賞の内容にはどのような変遷があったのですか?

「そもそもが交流会的な始まりでしたから、当初は「新ジャンル開拓賞」「ネーミング賞」といった、かなり緩いものだったようです。集いの場として、皆が共感できるような内容ですね。面白いのは、現行の「ゴールデン・マーカー」に対して「ブラック・マーカー」的な賞があったこと。いわゆるワースト賞ですね」

── 選考委員にも変化はありましたか?

「以前はジャーナリストや大学教員がほとんどでした。デザイナーには自社の仕事に厳しく、他社には甘い傾向があるんです(笑)。ですので、デザイン事務所を含め、メーカー絡みのデザイナーは少なかった。現在はデザイン関係者も多くなりましたね」

── 選考はCOTY(日本カー・オブ・ザ・イヤー)のような投票制なのですか?

「合議との併用ですね。該当の1年間に国内で販売されたクルマをノミネート。まず投票によって上位の7〜8台を選びます。その上で、可能な限り実車を見ながら議論を交わす。この話し合いが重要だと思います。その上で最終的な採決を行うかたちですね」

── この賞は、デザイナーやメーカーのデザイン部署に影響を与えていると感じられますか?

「認知は大きいですね。1990年のコンセプトカー賞はピニンファリーナのミトスだったのですが、その当時外国でもかなりこの賞が知られていて、同社の社史にも記録されているんです。現在でも国内外で目標とされていて、各メーカーの博物館などでも受賞トロフィーが展示されているようですね」

── では、メディアや世の中(ユーザー)に対しての意義はどうでしょう?

「私見ですが、クルマの選択基準の第一はやはりデザインだと思っています。きっと多くの人も同じだろうと。であれば、この賞の役目は大きいですよね。デザイン視点からのパッケージやエンジニアリングも含め、作り手はもっとデザインについて考えなくてはいけません」

── これまでで、記憶に残っている受賞車はありますか?

「旧いところではトヨタのWiLL VS。逆説的ですが、デザイン視点だけで見ていると、たとえばCOTYのように世間一般の見方とは大きくズレることがあるんだなあと。最近ではシトロエンのC4カクタス。同社のデザイナーは常に2CVが原点になっていて、当初C4もダッシュボードをなくす案があったとか。内側にそういうアバンギャルドな発想を秘めているのが興味深かったですね」

── この40年間、カーデザインはどのように変化したと感じますか?

「近年は、空力だけでなく安全性や環境など機能的な要件がかなり増えました。その点は大きく進化していますが、一方でそれに潰されてしまった面もある。具体的には過剰でムダを感じる表現が多くなった。もっとシンプルに、直感で「イイ!」と思えるデザイン、スピリッツのようなものが欲しいですね」

── では最後に。松永さんがいま注目しているデザインを教えてください

「ひとつは新型センチュリー。ドアに映る人が歪んで見えないようにといったオーナー視点や、コンセプトの「式年遷宮」など歴代の精神性を引き継いだ点が面白い。もうひとつは新しいアウディ。各社のデザインが、それこそ近年の同社のようなシンプル路線に向かう兆候がある中、半回転逆でラインを増やしつつある。これがどうなるか注目したいですね」

── たしかに、アウディの変化は興味深いですね。本日はありがとうございました。

[第40回 C&T meeting 2019・日本カーデザイン大賞]
ゴールデン・マーカー賞 コンセプトカー部門 ルノーEZコンセプトシリーズ
ゴールデン・マーカー賞 量産車部門 ボルボXC40
ゴールデン・クレイ賞 トヨタ・センチュリー

[語る人]
株式会社三栄書房 第三制作局
モーターファン・アーカイブ制作室 室長
カースタイリング編集長・松永大演氏

(インタビュー・すぎもと たかよし)

この記事の著者

すぎもと たかよし 近影

すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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