【自動車用語辞典:吸排気系「触媒」】酸化還元反応によって排出ガスを浄化する仕組み

■最近は排気温度や空燃比の制御も

●コスト低減が最大の課題

排気系システムの重要な役目として、触媒を利用した排出ガス低減があります。ガソリンエンジンであれば三元触媒、ディーゼルエンジンでは酸化触媒とDPF、さらに最新の排出ガス規制のためにはNOx触媒が搭載されています。

ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの触媒システムと機能について、解説していきます。

●触媒の役目

排出ガスが通過する触媒の断面は、円形あるいは楕円形です。内部は、ハニカム形状のセラミックなどから成り、その表面には貴金属微粒子を担持した触媒コート層が塗布されています。触媒コート層の表面上を、有害な成分COやHC、NOx、PMが通過すると、化学反応によって無害な成分に浄化されます。

初期の触媒は、排気系に搭載するだけの簡単なものでした。最近は、より高い効率で排出ガスを浄化するために、排気温度や空燃比(燃料と空気の質量比)などを高精度に制御する必要があります。

触媒の構造
触媒の構造。排出ガスが通過する触媒コート層には貴金属微粒子が塗布されている
三元触媒の浄化効率
空燃比によって触媒の浄化効率は大きく変わる

●ガソリン用三元触媒

三元触媒の触媒コート層には、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)などの貴金属微粒子が担持されています。この表面を排出ガスが通過すると、COとHCはPtとPdによる酸化反応、NOxはRhの還元反応によって、有害な3成分が同時に浄化されます。

・COの酸化  2CO + O2 → 2CO2
・HCの酸化  4CxHy + (4x + y)O2 → 4xCO2 + 2yH2O
・NOxの還元 2NOx → xO2 + N2

この3つの反応を同時に進行させるためには、エンジンの空燃比を理論空燃比14.7近傍に設定する必要があります。そのため、排気管に装着した酸素(O2)センサーによってフィードバック制御し、空燃比を精度良く理論空燃比に設定します。

O2センサーの出力特性
排気管に装着したO2センサーで空燃比を制御する

●ディーゼル用NOx吸蔵触媒

ディーゼルエンジンの燃焼は、ガソリンと違って希薄(リーン)燃焼です。したがって、ガソリンエンジンのように三元触媒が使えず、希薄燃焼下でNOxを下げるNOx吸蔵触媒や尿素SCRが必要です。

NOx吸蔵触媒には、貴金属微粒子に加えてBa(バリウム)などの吸蔵材が担持されています。

NOx吸蔵触媒は、まず排出されたNOをNO2に酸化して触媒の吸蔵材に吸蔵します。十分に吸蔵した時点でリッチスパイク(定期的にリッチ燃焼にする)を行いHC、CO、H2を供給します。これらが還元剤となり、吸蔵したNO2をN2に還元するという手法です。

NOx吸蔵触媒の浄化イメージ
NOx吸蔵触媒の浄化イメージ
DPF+NOx吸蔵触媒の後処理システム
DPF+NOx吸蔵触媒の後処理システム

●尿素SCR(選択還元触媒)

尿素SCRシステムは、尿素を高温の排気ガス中に噴射し加水分解によってアンモニアを生成し、アンモニアを還元剤として、NOxをN2に還元する手法です。

NOx吸蔵触媒よりも、浄化効率は高いですが、システムが複雑でコストは高くなります。

また、NOx吸蔵触媒は還元剤として燃料を余分に供給するため、燃費悪化やCO2の増加を伴います。一方、尿素SCRではアンモニアを還元剤とするため、燃費悪化やCO2が増加しないというメリットがあります。

DPF+尿素SCRの後処理システム
DPF+尿素SCRの後処理システム

●DPF(ディーゼルパーティキュレート・フィルター)

粒子状物質PM(Particulate Matter)については、セラミック製のウォールフロータイプのDPFで浄化します。内部は、ハニカム状の通路を互い違いに目封じした構造で、表面には触媒コート層が塗布されています。

排出ガス中の煤を主にしたPMは、DPF内部の多孔質のフィルタで捕集されます。規定量のPMが堆積すると、再生制御(エンジンで定期的に高温に制御)によって、PMは燃焼して除去されます。現在は、ほとんどのディーゼル車にDPFが搭載されています。

DPF
DPF(ディーゼル・パテュレート・フィルター)の構造

ディーゼル用の触媒は、排ガス規制が強化される中で、浄化効率を高めるために触媒容量および高価な貴金属量が増えました。

触媒コストだけで10万円を超える場合も珍しくなく、現在は貴金属を極力使わない触媒などコスト低減が最大の課題です。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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