■フォルクスワーゲンがドイツで市街地でのレベル4自動運転にチャレンジ。電動ゴルフを走らせる
自動運転の開発は、自動車メーカーの生き残りをかけた熾烈な競争となっています。日本では運転支援システムに分類される「アダプティブクルーズコントロールと車線維持ステアリング」の組み合わせは自動運転レベルではレベル2に相当するもので、すでに実用レベルであり、普及段階になっています。
そこで、いまは自動運転レベル3(条件付き自動運転)の実用化に注目が集まっています。レベル3の自動運転になると、システムが働いている間はドライバーはまったく運転操作をせずに済みます。そのため本を読んだり、スマートフォンで情報を集めたりといったことが可能になるのです。そうなると、移動中の車内での過ごし方は根本的に変わる可能性が高く、運転時間がフリーになることで新たなビジネスの創出も期待されるわけです。日本でも、レベル3自動運転に合わせて道路交通法が改正されたことが先日話題となりました。
さて、レベル3の上にあるのが「特定条件下における完全自動運転」レベル4の自動運転です。メーカーによっては「レベル4自動運転」をキャンセルして、さらに上のレベルである完全自動運転(レベル5)にチャレンジすると公言しているところもありますが、やはり順を追ってステップアップしていくことを考えているメーカーが多数といえるでしょう。そうした中、フォルクスワーゲンがドイツ・ハンブルグの市街地においてレベル4自動運転のテストを開始したことを発表しました。
高速道路や駐車場内といった周囲の交通状況が計算しやすいところからレベル4は実用化になるという見方もありましたが、フォルクスワーゲンは、都市部での自動運転にチャレンジするというわけです。非常にハードルは高くなりますが、いずれにしても市街地での自動運転を実現しないことには、将来的な目標であるレベル5の自動運転にたどり着きません。混合交通であり、歩行者や駐車車両なども存在する都市部で安心して使える自動運転技術へのトライは間違いなく将来につながるチャレンジです。
32のセンサーを搭載した自動運転車のデータ量は1分間で5ギガバイトにも及ぶ
テストカーは電気自動車「e-GOLF」をベースとしたもので、自動運転のセンサーとしては11基のレーザースキャナー、7基のレーダー、14台のカメラ、合計32のデバイスを搭載しています。こうしたセンサーにより周囲の状況を把握、そこから様々な演算をすることで自動運転を実現しようというものです。発表されている数値では、1分あたりのデータ通信量は最大5ギガバイト、そうした多量のデータをミリ秒単位で人工知能が判断することで、ドライバーの操作がまったく不要な自動運転を目指しています。
フォルクスワーゲンのテストカーは、公道試験ということで監視ドライバーが運転席に座り、緊急時には介入するということで「レベル4」に分類されていますが、その内容からすると、制御的にはほぼレベル5の自動運転といえる内容になっているはずです。こうして公道試験を繰り返して、人工知能を鍛えることにより、ハンドルやペダルを不要とするレベル5自動運転車の完成に向かおうというのが、フォルクスワーゲンの狙いでしょう。
さらに、ハンブルグでの公道テストでは5台の「e-GOLF」を投入して自動運転のデータ取りを行なうということです。複数台を用いるということは車車間通信の実験もあるでしょうし、交通インフラを整備することで路車間通信も考慮したテストとなる模様です。
自動運転の開発でIT企業が先行しているように見えるのは安全に対する配慮のレベルが昔からの自動車メーカーとは異なるため、少々の危険よりもイノベーションを優先する企業文化にあるという見方もあります。ですから、世界一の規模を誇るフォルクスワーゲンが、市街地での自動運転開発を始めたということは、自動車メーカーとしての安全に対する考え方を満たす自動運転技術に目途がたったと考えることもできます。
誰もが完全自動運転を享受できるのは2050年以降というのは、多くのロードマップが示している目標です。しかし、2019年にこれほど高いレベルの公道テストをフォルクスワーゲンが実施するということは、レベル5自動運転が登場するまでの時間が、少し短くなったかもしれません。
(山本晋也)