トヨタとBMWがスポーツカー、FCV、リチウム空気電池などでの協業する狙いとは?

トヨタとBMWが愛知県の同社名古屋オフィスビル(ミッドランド・スクエア)で共同記者会見を開催し、BMWとの共同開発で正式契約を締結したと発表しました。会見にはトヨタ自動車の内山田竹志副会長、BMWのヘルベルト・ディース上級副社長らが出席。 

会見で握手を交わすトヨタの内山田副会長とBMW首脳陣

以前に「トヨタがBMWへのHV・燃料電池車技術供与に動いた訳とは?」でお伝えしたとおり、トヨタは2011年12月にBMWからディーゼルエンジン調達と次世代リチウムイオン電池の共同研究での協業を発表、2012年6月にはBMW と覚書を交わしています。 

内容としてはトヨタがHV車やFCV(燃料電池)車の技術をBMWへ供与する代わりに、BMWが炭素繊維を使った高強度と軽量化を両立させる技術をトヨタに供与するというものでした。

そして覚書調印から半年強の期間を経た2013年1月24日、両社は「燃料電池システム」、「スポーツカー」、「軽量化技術」、「ポスト・リチウムイオンバッテリー技術」の4つの共同開発で正式契約を締結。 

共同記者会見で内山田副会長は現在の自動車産業にとって最も大きな課題は「環境問題」と「エネルギー問題」とした上で、「今回の4つのプロジェクトはそれに真正面から取り組むもの」と強調しました。

今回の会見で発表された具体的な内容は以下となります。

▽燃料電池システム開発について
トヨタは現在までに「省エネルギー」と「燃料の多様化」に向けて、HV、PHV、EVと用途に合わせたエコカーを市場に投入して来たが、「FCV」についても「究極のエコカー」として大きな期待をかけている。

その最大の理由は「FCV」は燃料とする水素と空気中の酸素を結合させて発電しながら走行する技術で、排気口からは水しか出て来ないだけで無く、一回の水素充填での航続距離をガソリン車並、もしくはそれ以上とすることが可能な点。

更に充填時間についてもガソリン車並の素早さで、ユーザーの利便性に於いてはガソリン車と何の遜色もないエコカーと言える。 ただ、普及には大幅なコストダウンが必要で、単独では膨大な開発費と開発時間が必要。

今後、FCV基本システム全般の共同開発で両社の英知を結集させることにより、FCV普及に向けて大幅にスピードアップを図ることが可能になると共に、インフラ整備についても両社の協力が大きな推進力になっていくものと期待している。

2020年を目処に、更なる普及を目的としたFCVシステムをBMWと共同開発、その技術を織り込んだ新型FCVを市場導入したい。 

▽スポーツカー開発について
エキサイティングで「ワクワク・ドキドキ」する走りや最先端を感じさせるデザイン、最高レベルの環境性能などを満足させ、「これぞ、21世紀のミッドサイズ・スポーツカー」と言えるクルマを目指し、自動車の魅力、走る楽しさを次の世代にも伝えて行きたい。年内に具体的な仕様等を決める予定なので期待して欲しい。 

▽軽量化技術について
「軽量化」は燃費や走行性能、安全性の向上に、直結する技術であり、両社で開発する強化樹脂技術が低コストで提供出来ればクルマの未来は変わって行くと思う。前述のスポーツカー開発にも取り入れて行く予定。 

▽ポスト・リチウムイオンバッテリー技術について
リチウムイオン電池のエネルギー密度や容量の面での大幅な性能向上を狙っており、技術的にはリチウムと空気中の酸素の化学反応を電力とする「リチウム空気電池」を予定。

内山田副会長は最後に「先端技術とクラフトマンシップに長けたドイツと日本、その中で育てられたBMWとトヨタの両社の協業に期待して欲しい」と付け加えて締め括りました。  

【会見後の内山田副会長のコメントより抜粋】

・BMWとの今後について
今回の両社の4つの契約事項はどれも開発を伴い、単なるOEM供給の類では無い。そこでまず重要となるのは両社の強みを持ち寄って、「もっといいクルマ」が作れるかどうか。もう一つは開発が長期に渡る上に相互の技術開示も必要となることから、長期に渡って信頼出来るパートナーであるかどうか。

この2つに於いてBMWはトヨタの期待を十分満たしていると共に、一年以上一緒にやって来て協業に携わって来たメンバーも楽しんで取り組んでいることから大いに期待している。但し、資本提携は考えていない。(BMWのヘルベルト・ディース上級副社長も資本提携や株の持ち合いは必要ないとの見解)

・スポーツカー開発について
開発イメージとしては「21世紀のミッドサイズ・スポーツカー」。今後両社のチーフエンジニアが具体的な構想を纏めることになるが、スポーツカーに相応しいパワートレーンやプラットフォーム、更にはドライビングポジションなどもなるべく共用して両社で使えるようにして行きたい。スタイリングについては両社のidentityを守っていく予定。 

・リチウム空気電池について
リチウムイオンバッテリーは負極(-側)にカーボンを使用、正極(+側)にリチウム系化合物を使って両極間を電解液で埋めるのに対して、「リチウム空気電池」では逆に負極にリチウムを使い、正極に「空気」を使用。そのメリットはバッテリーのセル内を負極で満たせ、容量の大きいバッテリーを作れる可能性を秘めている点。

・ボーイング787のバッテリー不具合に関連して
トヨタは電動化に伴う大容量バッテリーを車両に搭載するという点で世界の自動車会社の中でも一番長い経験と実績を積んでおり、リチウムイオンバッテリーについても既に一部の車種で搭載している。 品質の安定性と制御システムに関するノウハウを組み合わせて対応しており、大容量バッテリーを上手に品質管理しながら生産、適切な制御で今後も使って行く予定。 

・燃料電池車開発の発売時期について
トヨタとしては2015年の市場投入を予定しており、既存のHV開発の経緯と同様、その後もBMWと共同で技術改良を重ねて行く予定で、開発リソーセス増によるスピードアップと性能アップを期待している。  

(取材後記)
今回の会見で注目されたのはトヨタとBMWが燃料電池車開発で手を組む事になった背景と今後の協力形態。協力関係の背景には発表内容の他にも、カリフォルニア州に於けるZEV(Zero Emission Vehicle)規制(州内販売台数が6万台/年以上の自動車メーカーに対してEV車やFCV車などの販売を義務付け)の強化で2018年モデルから2万台/年以上のメーカーに拡大される話しが有るようで、現在はBIG3(GM、フォード、クライスラー)、トヨタ、ホンダ、日産の6社が対象ですが、規制が強化されるとBMW等も対象に入る模様。

米国の他の州でも同様な規制が有り、BMWが秘伝のスポーツカーに関するノウハウを提供してまでトヨタと手を組む背景にはこの分野で先行するトヨタの技術を必要とする実情が有ったからと推定されます。 

一方で両社共に今後も「資本提携は無い」としており、その理由は会見では具体的には語られませんでしたが、恐らくこれは、資本提携の成功事例が日産/ルノー位しか無く、三菱/クライスラー/ダイムラーやスズキ/VWの例が示すように、資本提携が上手く行かなければ逆に経営の足かせになりかねない為と推測されます。

トヨタが次世代バッテリーとして予定している「リチウム空気電池」は同じ容積に多くのリチウム搭載を可能にする技術とあって、軽量・省スペースが求められるエコカーには今後必須の技術となって行きそうで大いに注目されます。 

そしてBMWとの共同開発で最も興味深いのはやはり両社によるスポーツカー開発ではないでしょうか。トヨタがスバルと共同で実現した「走りが楽しい」スポーツカー「トヨタ86」の事例も有り、BMWが持つ秘伝のノウハウが更にそこへ交わることで、一体どんなシナジー効果が生まれるのか、筆者も想像しただけでも何だか早くもワクワクして来ます。

 今後もトヨタ、BMW両社の動きに益々要注目です。

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 (Avanti Yasunori) 

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この記事の著者

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Avanti Yasunori

大手自動車会社で人生長きに渡って自動車開発に携わった後、2011年5月から「clicccar」で新車に関する話題や速報を中心に執筆をスタート、現在に至る。幼少の頃から根っからの車好きで、免許取得後10台以上の車を乗り継ぐが、中でもソレックスキャブ搭載のヤマハ製2T‐Gエンジンを積むTA22型「セリカ 1600GTV」は、色々と手を入れていたこともあり、思い出深い一台となっている。
趣味は楽器演奏で、エレキギターやアンプ、エフェクター等の収集癖を持つ。
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