スーパーフォーミュラのレースをもっと楽しむための基礎知識。開幕・第1&2戦 富士スピードウェイの「レース・フォーマット」

スーパーフォーミュラSF23、ニューエアロ投入、初実戦はどうなる?
ぶっつけ本番、1日での予選・決勝×2日間に焦点を合わせられるのは…

2022年には実車接近走行などを繰り返してデータを蓄積・解析して新しいエアロフォルムを生み出した。これが今季からの「主役」(写真: JRP)
2022年には実車接近走行などを繰り返してデータを蓄積・解析して新しいエアロフォルムを生み出した。これが今季からの「主役」(写真: JRP)

いよいよ日本国内も、サーキットレースのトップカテゴリーが4月8-9日の週末、スーパーフォーミュラの2連戦で「開幕」します。今年のスーパーフォーミュラはマシンがリニューアル。主骨格とサスペンション機構、エンジン(直列4気筒2リットル・直噴に燃料リストリクターを組み合わせて、今や必須の「高効率追求」がテーマのNippon Racing Engine。SFではホンダとトヨタの2社が供給します)は変わらないものの、以前も紹介したように「後続車両が接近、バトルを仕掛けられる」をテーマに実車実験から開発を進めてきた、新しいエアロフォルムをまとい、車両名称も「SF23」へとステップアップしたマシンが、このレースで初めて実戦を迎えます。
もちろん、今のレーシングマシンの”速さ”はエアロダイナミックスに依るところが大きい。車体の周りを流れる空気が生み出す「ダウンフォース」でタイヤを路面により強く押しつけることで強大な摩擦力を発生させて走っているのです。だから、空力設計が変われば、足まわりのセッティングも変わるし、とくに車体底面をできるだけ路面に近づけて走るのですが、その時に最適な車両姿勢も、路面との隙間も変わってくるので、その「最適値」を見出し、コースの重要な場所でその姿勢と隙間を保てるように、これも足まわりでピッチング運動をどうコントロールするかを見出す必要があります。
ところが、今季のシーズン前テストは3月初旬の鈴鹿2日間・4セッションのみ。空力計算や模型試験のデータは設計を担当したダラーラから送られてきていますが、やはり実車+実走で確認しないと、皆が同じ車体を使うだけに、F1以上に「重箱の隅を…」追いかけることになるセットアップの基本材料はそろいません。その空力特性確認には富士スピードウェイのストレートが良いのですが、日程上でそれができるのは開幕の土日2連戦直前、金曜日午後に用意されたフリー走行だけ、なのですが、当日の富士スピードウェイは雨+風。昼過ぎにはSF専有での走行セッションの「中止」がアナウンスされました。
ということは…。開幕戦の予選はまさに文字どおり「ぶっつけ本番」。決勝レースに向けても、ロングランのためのセッティングやタイヤ摩耗の確認などはできないまま臨むことになります。ここでいちばん大変なのは、マシンを組み立て、調整して送り出し、レース戦略も担当する各車のエンジニアリング・チーム。もちろんドライバーも大変ですが、走り出したらそこで最善を尽くすしかありません。一方、我々「観る側」にとっては、不確定要素が多ければ多いほどオモシロい。「これは何が起きているんだろう?」「きっとこんな状況なのでは?」などなど考えを巡らす楽しみも増えますし。もちろん、SF23の開発テーマである「接近戦」はどんなふうに演じられるのか、も含めて、興味が尽きない2日間になりそうです。

ウェット路面での走行は「空気流の”可視化”」、実車走行で空気がどんな振る舞いをするかを観察する最良の機会。SF23、タイヤ側面への乱流が少なく、その一方で車体中央下面から巻き上がる渦流の高さと強さが「ダウンフォース」の発生を示している。(写真: JRP)
ウェット路面での走行は「空気流の”可視化”」、実車走行で空気がどんな振る舞いをするかを観察する最良の機会。SF23、タイヤ側面への乱流が少なく、その一方で車体中央下面から巻き上がる渦流の高さと強さが「ダウンフォース」の発生を示している。(写真: JRP)

では、この「決着の2日間」はどんな段取り・競技内容で進められるのか、を紹介しておきましょう。

■全日本スーパーフォーミュラ選手権・第1戦&第2戦「レース・フォーマット」

●レース距離:第1戦<4/8(土)>第2戦<4/9(日)>とも:187.083km (富士スピードウェイ 4.563km×41周)
(最大レース時間:75分 中断時間を含む最大総レース時間:120分)
●タイムスケジュール:第1戦・4/8(土) 午前9時20分〜公式予選 午後2時15分〜決勝レース
第2戦・4/9(日) 午前9時00分〜公式予選 午後2時30分〜決勝レース

●予選・第1戦:計時予選方式 / 金曜日に予定されていた専有走行が荒天で中止されたため変更
・45分間の予選時間の中で各車、任意に走行。それぞれ最速の1周ラップタイム順に予選順位を決定
●予選・第2戦:ノックアウト予選方式 / Q1はA,B各組11車→各組上位6車・合計12車がQ2に進出
・公式予選Q1のグループ分けは、第1戦決勝終了時のドライバーズランキングに基づいて、主催者(JRP)が決定する。ただし参加車両が複数台のエントラントについては、少なくとも1台を別の組分けとする。
・Q2進出を逸した車両は、Q1最速タイムを記録した組の7位が予選13位、もう一方の組の7位が予選14位、以降交互に予選順位が決定される。
・Q2の結果順に予選1~12位が決定する。

●タイヤ:横浜ゴム製ワンメイク ドライ1スペック:今季の仕様は骨格を形作るゴム層に天然素材を配合。ウエット(現状品は昨年までと同じ)1スペック

モータースポーツも「カーボンニュートラル」へ。タイヤのCN化はとても難しいが、まずは骨格の素材に天然ゴムを混錬。サイドウォールにはグリーンの帯が描かれた。(写真: JRP)
モータースポーツも「カーボンニュートラル」へ。タイヤのCN化はとても難しいが、まずは骨格の素材に天然ゴムを混錬。サイドウォールにはグリーンの帯が描かれた。(写真: JRP)

●決勝中のタイヤ交換義務:(第1戦、第2戦ともに)あり〜ただしドライ路面でのレースの場合
・スタート時に装着していた1セット(4本)から、異なる1セットに交換することが義務付けられる。
・先頭車両が10周目の第1セーフティカーラインに到達した時点から、先頭車両が最終周回に入る前までに実施すること。(富士スピードウェイの第1SCラインはピットロード分岐・本コースとの間に入るゼブラゾーンの起点、減速用S字カーブ手前で、本コースまで横切る白線で示されている。)
・タイヤ交換義務を完了せずにレース終了まで走行した車両は、失格。
・レースが赤旗で中断している中に行ったタイヤ交換は、タイヤ交換義務を消化したものとは見なされない。ただし、中断合図提示の前に第1SCラインを越えてピットロードに進入し、そこでタイヤ交換作業を行った場合はOK。
・レースが(41周を完了して)終了する前に赤旗中断、そのまま終了となった場合、タイヤ交換義務を実施していなかったドライバーには競技結果に40秒加算。
・決勝レースでウェットタイヤを装着した場合、タイヤ交換義務規定は適用されないが、決勝レース中にウェットタイヤが使用できるのは競技長が「WET宣言」を行なった時に限られる。

●タイヤ交換義務を消化するためのピットストップについて
・ピットレーン速度制限:60km/h
・ピットレーン走行+停止発進によるロスタイム:富士のコースでは、長いストレートの途中でピットロードが分岐、S字状の速度抑制部を抜けた先から速度制限区間が始まる。その手前の手前の屈曲部で減速開始、出口側の速度制限区間が終わったところで、ストレートを走ってきた車両の速度は250km/hを越えようとしているところに合流する。その結果、ピットインにおけるピットロード走行+停止・発進のロスタイムはかなり大きく、28〜30秒と見積もられる。これにピット作業のための静止時間、現状のタイヤ4輪交換だけであれば7〜8秒を加え、さらにコールド状態で装着、走り出したタイヤが温まって粘着状態になるまで、路面温度にもよるが半周、セクター3にかかるあたりまでのペースで失うタイム、おおよそ1秒ほどを加えた最小で35秒、若干のマージンを見て40秒ほどが、ピットストップに”消費”される時間となるわけです。

現在の富士スピードウェイのコース・レイアウト。下の凹凸線は標高(左から右へ)。2.7〜8km地点、すなわちダンロップコーナー入口が最も低く、そこからの「セクター3」が曲がりくねるだけでなくきつい登りになっていることがわかる。(図:富士スピードウェイ)
現在の富士スピードウェイのコース・レイアウト。下の凹凸線は標高(左から右へ)。2.7〜8km地点、すなわちダンロップコーナー入口が最も低く、そこからの「セクター3」が曲がりくねるだけでなくきつい登りになっていることがわかる。(図:富士スピードウェイ)

●タイヤ使用制限
●ドライ(スリック)タイヤ
・金曜日・専有走行〜第1戦(土曜日):新品・3セット、持ち越し(シーズン前テストから)・3セット
・第2戦(日曜日):新品・2セット、持ち越し(前日の第1戦から)・4セット
土曜日の第1戦に関しては、(ドライ路面であれば)まず新品2セットを予選に投入。Q2に進んだ12台に関してはその2セットが「1アタック品」となりますが、決勝レースのスタートには新品を履いて臨めます。タイヤ交換義務を消化したレース後半に履くタイヤが新品になるか、1アタック品になるかは、Q2に進出したか(Q1止まりならば新品が1セット残る)に加えて、3月初旬の鈴鹿テストで供給された新仕様のドライタイヤ6セットのうち、何セットを新品状態で残していたか、金曜日の専有走行で新品をどこでどのように使ったか、で変わってきます。
さらに、日曜日の第2戦に向けては、新品の供給は2セットのみなので、Q2まで進出するとこの2セットは使ってしまう。そこでテストからの持ち越しタイヤ、金曜日のタイヤ・ローテーションを工夫して、決勝レースのスタートに新品を残しておきたいところ。
●ウェットタイヤ:1大会・2レース制の場合は最大8セット

●走行前のタイヤ加熱:禁止 ●決勝レース中の燃料補給:禁止

●燃料最大流量(燃料リストリクター):90kg/h(121.8L/h)
燃料リストリクター、すなわちあるエンジン回転速度から上になると燃料の流量上限が一定に保持される仕組みを使うと、その効果が発生する回転数から上では「出力一定」となる。出力は「トルク(回転力、すなわち燃焼圧力でクランクを回す力)×回転速度」なので、燃料リストリクター領域では回転上昇に反比例してトルクは低下していきます。一瞬一瞬にクルマを前に押す力は減少しつつ、それを積み重ねた「仕事量」、つまり一定の距離をフル加速するのにかかる時間、到達速度(最高速)が各車同じレベルにコントロールされる、ということになります。

●オーバーテイク・システム(OTS)
・最大燃料流量10kg/h増量(90kg/h→100kg/h)
・作動合計時間上限:決勝レース中に「200秒間」
・一度作動→オフにした瞬間からの作動不能時間(インターバルタイム)は、昨年までどのコースでも100秒間でしたが、今季、富士スピードウェイでは120秒間、次の発動まで待たなければならなくなりました。
●OTS作動時は、エンジン回転7200rpmあたりで頭打ちになっていた「出力」、ドライバーの体感としてはトルク上昇による加速感が、まず8000rpmまで伸び、そこからエンジンの「力」が11%上乗せされたまま加速が続く。ドライバーが体感するこの「力」はすなわちエンジン・トルク(回転力)であって、上(燃料リストリクター作動=流量が一定にコントロールされる領域)は、トルクが10%強増え、そのまま回転上限までの「出力一定」状態が燃料増量分=11%だけ維持されますので、概算で出力が60ps近く増える状態になリます。すなわちその回転域から落ちない速度・ギアポジションでは、コーナーでの脱出加速から最終到達速度まで、この出力増分が加速のための「駆動力」に上乗せされるわけです。

⚫︎ステアリングホイール上のボタンを押して作動開始、もう一度押して作動停止。
⚫︎ロールバー前面の作動表示LEDは当初、緑色。残り作動時間20秒からは赤色。残り時間がなくなると消灯。
⚫︎一度作動させたらその後100秒間は作動しない。この状態にある時は、ロールバー前面のLED表示は「遅い点滅」。なお、エンジンが止まっていると緑赤交互点滅。また予選中に「アタックしている」ことをドライバーが周囲に知らせたい場合、このLEDを黄色に点滅させる「Qライト」が使えます。
●今季に向けた大きな変更は、OTS作動時にロールバー前面と、車両後端のレインライトとリアウィング翼端板後縁のLEDを点滅させていたのが廃止されたこと。前後のドライバーがそれぞれに接近戦を展開している相手がOTSを使ったのを視認できたので、対抗してOTSを作動させ、結局ポジションが変動しない、という状況が多く生まれたために、「目で見て知る」ことができないようにしました。
●ということは観る側もOTS作動をLED点滅で確かめることができなくなる。ここは、全車のオンボード映像と車両走行状態をほぼリアルタイムで視聴することができるアプリ、「SFgo」なら”見る”ことができます。運転操作などと合わせて、OTSの作動、残り時間、インターバルタイムの経過が、表示されるので。さらに今季からはドライバーとチームの無線交信も聞けます。ここまで踏み込んでの観戦には「必須」のツールと言えるでしょう。チームもこのアプリを駆使するようになっていますので、「○○、OTS撃ってるよ」「残り秒数は?」といった無線交信が増えることと思われます。

これもウェット路面テストの一瞬。クリアな大気、後方からの光という条件で、SF23の車体底部から周辺へ、そして後へと「巻く」空気の動き、渦が鮮やかに捉えられている。空気力学を考え、思い描く最良の映像。(写真: JRP)
これもウェット路面テストの一瞬。クリアな大気、後方からの光という条件で、SF23の車体底部から周辺へ、そして後へと「巻く」空気の動き、渦が鮮やかに捉えられている。空気力学を考え、思い描く最良の映像。(写真: JRP)

これらを踏まえつつ、スーパーフォーミュラ今季開幕2連戦、富士スピードウェイで、新しいSF23×22台が繰り広げる2日間の濃密な自動車競争を、リアルでも、オンラインでも楽しんで下さい!

(文:両角 岳彦/写真:JRP、筆者)

この記事の著者

両角岳彦 近影

両角岳彦

自動車・科学技術評論家。1951年長野県松本市生まれ。日本大学大学院・理工学研究科・機械工学専攻・修士課程修了。研究室時代から『モーターファン』誌ロードテストの実験を担当し、同誌編集部に就職。
独立後、フリーの取材記者、自動車評価者、編集者、評論家として活動、物理や工学に基づく理論的な原稿には定評がある。著書に『ハイブリッドカーは本当にエコなのか?』(宝島社新書)、『図解 自動車のテクノロジー』(三栄)など多数。
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