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■たぶん多くの人が潜在的に思っていることを確かめてみた!
普及に時間がかかりそうな水素自動車とは、燃料電池内で水素と酸素を化学反応させ、そこで生まれた電気エネルギーでモーターを回して走るものです。
水素と酸素の反応で生じるのは、中学の理科で習ったとおり、2H2+O2→2H2O、つまり水です。
必要なエネルギーを取り出すと同時に、副産物として出てくるという意味では、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンの排気ガスと同じなのですが、ひとまず無害なのでクリーンだとされているわけです。
ところで水を出すのは何も水素自動車に始まったことではありません。あなたのクルマも水素自動車よりもはるか前から水を垂れ流して走っています。
さあ、何のことでしょう?
●エアコンの水は、いったいどれくらい出ているのか?
答えはエアコンの水です。
エアコンをつけたクルマで停車中、ふとクルマの下を見ると水が流れていたのがわかります。筆者は、コンビニエンスの駐車場などで地面を濡らしているクルマのエアコンの水を見るにつけ、「なんだかおしっこみたいでかっこ悪いなあ」と思っていました。
見ればポタポタとしずくで垂れているのですが、クルマをわずかな時間でもほったらかしているだけで、水の流れができるほどの量が落ちているのです。
前回はかたーい話の終わり方をしたエアコン絡みの実験、今回は本当にバカバカしい「誰かがやらなきゃわからないバカ実験」の続編!
お題は「クルマのエアコンの水、どれほどの時間でどれだけの量が出ているのか?」を調べてみました。
●方法
水を採った方法は次のとおりです。
1. クルマの下のエアコンの水が落ちる部分に1Lの計量カップを置く。
2. エンジンをかけてエアコンを入れる(外気導入・温度最低・ファン最強)。
3. 計測は、水が100cc増えるごとの時間を測る、10分ごとに増えた量を測る、のふたとおり。
4. 1000cc溜まった時点でひと区切りとする。
これだけです。車両は旧型のジムニーシエラ。マニュアルエアコンなので、温度設定はできません。
ところでこのクルマの場合は少し細工が必要でした。他のクルマなら1ヵ所から水がポタポタ落ちるところ、このクルマの場合はジムニー特有の、フロントサスペンション左のトレーリングアームをも伝わるため、散らばって落ちてしまうことで正確な水の量が測れません。
そこで手を加えました。
ジムニーの場合、室内エバポレーターが発した水は、バルクヘッド(キャビンとエンジンルームを隔てる壁)を貫くドレーンから出て、ラダーフレーム、サスペンションアームを伝って落ちるのですが、ドレーンホースの先を延長し、1箇所に落ちるようにしました。これで計量カップに一点集中で貯めることができます。
さあ、エンジンをかけてスタートです。
●意外なことに…
エンジンをかけ、ファンスイッチを入れてA/Cボタンを入れると、「ゴンッ!」という音の後に「プシューーーーーッ」というコンプレッサーの音が鳴り始めます。
「ゴンッ!」はコンプレッサーの電磁クラッチが入った音、「プシューーーーーッ」はエアコンガスのコンプレッション音(圧縮音)です。このクルマはオートエアコンではなく、マニュアルエアコンで、オート式と異なり、いわば頭脳を持たないので、風の温度が一定なら電磁クラッチは入りっぱなし。
温度調整の他にコンプレッサーのON/OFFも自動で行うのがオートエアコンです。今のクルマは、マニュアル式であれオート式であれ、「固定容量式コンプレッサー」が使われていますが、いわゆるバブル景気=ウハウハにお金がかけられた頃の時代の、あるクラスから上のクルマは、電磁クラッチはONのまま圧縮量のほうを調整する「可変容量式コンプレッサー」が使われていました。
電磁クラッチON時の「ゴンッ!」は、何だか壊れそうなイヤ~な音で、内部で圧縮量を変える可変式のほうが、「ゴンッ!」が一度だけで済むぶん壊れないような気がしていたのですが、トータルでの故障率は可変式のほうが高いようです。
余談さておき、エアコンを入れれば水がすぐに落ちてくるかと思いきや、ふだん見るあの水たまりのイメージとは裏腹に、待てど暮らせど水が出てくる気配はありません。
まあ、エアコンONの直後から出るとも思ってはいませんでしたが、いよいよ水が滴り始めたのが、エアコンONから8分42秒も経ってからだったのは意外でした。
それも出始めは一挙に「バシャッ!」と吹き出すような感じで、車内のエバポレーター下部でがまんにがまんを重ね、いよいよこらえきれなくなって「出たァーッ」という感じなのです。
その証拠に、出始めて12秒後にはいきなり50ccも溜まりました。冒頭で「おしっこ」と書きましたが、まさに子どもがおしっこをがまんしていたかのよう。まあ、ある程度溜まり、重さがかかることで流れ始めたのだと思われます。
これは停車中での実験観察であり、走行中とでは条件が違いますが、やはり走行中も、エアコン稼働当初はこのような感じなのでしょうか。機材を揃えられるなら、車両腹下にCCDカメラを仕掛け、走行中での事象を観察したいところです。
●考察
「方法」のところで述べていますが、この実験ではふたとおりの記録を取りました。ひとつは「10分ごとにどれくらいの量が出ているのか」、もう一方は「100cc増えるごとの時間を測る」というものです。
それを表とグラフにまとめたものがこちらです。
表が2つありますが、左の「10分ごとの増水量」をグラフ化しました。
グラフにすると一目瞭然でしょ?
スタートから8分42秒~8分54秒のたった12秒間で噴出して以降、グラフでいうところの「10分後」からエンジン停止の「60分後」まではほぼ正比例。10分毎にほぼ均等に200cc前後ずつ増量していることがわかります。
この日は実験のスタートから終わりまで、割と風がありながらも気温が高いままという天候でした。「外気導入」なら湿気のある外気を四六時中取り入れて冷房しているわけですから、常に一定量の水を生み出しているのはあたり前のことなのです。
それにしても、見ているとじれったく感じるのですが、気づくとあっという間に100cc単位で増えているものです。
エアコンをつけたままクルマを10年も置きっぱなしにしていたら、「雨垂れ石を穿(うが)つ」のことわざそのままに、アスファルト面に穴を開けてしまうのではないか…、そんな思いを抱きながら見つめた1滴、1滴のしずくでした。
そんなこんなで、結局この日に1000cc、1L溜まるのにかかった時間は、スタートから57分02秒後。
ということは、天候にもよりますが、エアコンをつけっぱなしにしての2時間、3時間の真夏のドライブなら2~3Lの水を垂れ流して走っていることになります。
さて、1L溜まるのに何分かかるかという目的は達せられたので、60分経ったところでエンジンを止めました。水の出始めまでに時間がかかったことはすでに書きましたが、当然エンジンを止めたところで水がすぐに停止するわけではありません。
ただ、止めた後、すぐに水量は減り、10分ごとに200cc前後ずつだった水量はいきなり約50ccずつ(計量できるのは1000ccまでのため、それ以上は推測するしかない)にまで減りました。それは、それまで100ccを吐き出すのにかかった時間がおよそ5分前後だったのに対し、50cc落ちるのに13分弱もかかる様になったことが表からわかると思います。
結局、水滴が落ちなくなるまでにかかった時間は、スタートからおおよそ80分後。約1150ccから目に見えて増えることはなくなったので、ここで実験観察終了としました。
●何かないか? エアコン水の活用法
筆者が前々から考えていた、エアコンが作った水の有効利用法があります。それは、エアコンの水のドレーンの先にバルブ付きのホースを加え、ウォッシャー液のタンクに接続する!
夏だから液は多少薄まってもかまわないし、空っぽになって困るよりはまし。オーバーフローしそうになったときこそ、途中のバルブから垂れ流す…。
われながらいいアイデアで、自分のクルマにその仕掛けを施し、特許を取ろうかとさえ思ったのですが、無理なことがわかりました。普通、ドレーンの先はクルマの下方にあります。いっぽう、ウォッシャー液は補給しなければなりませんからタンクはエンジンルーム内の上部にあります。
高いところから低いところへ流れるのは電流も水も同じ。決して低い場所から高い場所へ流れることはありません。というわけで、やめることにしました。
それにしても、いままで路面に垂れ流していたものが、たった1時間弱で1L溜まるほどのものだったとはもったいない。何か有効な活用法を考えたいところです。エアコンユニットのコンデンサーまたはエンジンラジエターに噴射して、走行風圧や電動ファンにまかせていた冷却の助けにする、モーターポンプでウォッシャータンクに送る、満量になったら初めて捨てる…など。
というわけで、誰の役に立つのかわからないこの実験レポート、これにて終了。でも、やればやったなりにわかったこともありました。
前回の「車内温度の上昇観察実験」は「決して行わないで」と書きましたが、この実験は行ってみてもいいと思います。
水の1滴、1滴が静かに落ちる様を見つめてみるのも、心が静まっていいものでした。ただし、炎天下で行う場合は、どうか水分補給を怠りなく。
(文・写真・グラフなど:山口 尚志)