ヤリスクロス、試乗してわかったその乗り心地と悪路脱出性能!【TOYOTA Yaris CROSS試乗】

■国産車に見られなかったデザインとトヨタクォリティの融合

ヤリスクロス走り
ゆったりとした乗り心地をもつヤリスクロス

ヴィッツのフルモデルチェンジによってヤリスと車名を変更したトヨタのコンパクトカー。モータースポーツ色を強めたスポーティなGRヤリスの追加に続いて、SUVモデルであるヤリスクロスが追加されました。

ヤリスクロスはヤリスのプラットフォームを使い、SUVの要素をプラスしたモデル。1.5リットル3気筒エンジンを積むピュアエンジンと、モーターが組み合わされたハイブリッドの2種のパワーユニットをもっています。ピュアエンジンは120馬力/145Nmのスペック、ハイブリッドはエンジンは91馬力/120Nm、モーターが80馬力/141Nmとなります。

ヤリスクロスHVエンジン
ハイブリッドのエンジンルーム
ヤリスクロスピュアエンジン
ピュアエンジンのエンジンルーム

基本駆動方式はFFですが、ともに4WD仕様を用意。ピュアエンジンの場合はリヤに駆動を伝えるプロペラシャフトを備えるタイプ、ハイブリッドはリヤに5.3馬力/52Nmモーターが追加されます。

ヤリスクロスの最大の特徴といってもいいのが、その斬新なスタイリングです。最近のSUVやミニバンは威圧感のあるいかつい顔付きをしたモデルが多いのですが、このヤリスクロスはスッキリとしたおとなしめの顔付き。ヘッドライト(目)は切れ長でつり目となっておらず、グリル(口)も小さめで口角が下がっています。

ヤリスクロス正面
圧迫感の多いデザインが多い国産車のなかで、落ち着き感があるスタイリングを採用
ヤリスクロス真横
リヤハッチはかなり寝かされた配置。ブラックの樹脂パーツがSUVらしさを演出している

いかつい顔付きのクルマには乗りたくないという女性などにはとくにおススメしたいスタイリングと言えます。こうした優しいデザインとトヨタらしい安定の質感や走りのクオリティは、高い価値観を持っています。

2つのパワーユニットのうち力強い走りができるのはハイブリッドです。ハイブリッドはEV走行が可能で、試乗時は40km/h程度までEVで走ることができました。ハイブリッドモデルのトルクは強力で、アクセルを踏むとグッと前に押し出されるような感覚があります。

ヤリスクロスはヤリスよりも車重が約100kgほど重く、パワーユニットの出力は同じ、さらにタイヤも3ステップ太く、2インチ大径です。こうした要素が重なるため、そのままだとヤリスに比べてトルク不足を感じるはずですが、ヤリスクロスは減速比を下げているので駆動トルクはアップされ、力強い走りが得られるのです。

ヤリスクロスHV走り
より快適な走りを求めるならハイブリッドがおすすめ
ヤリスクロス エンジン車走り
ピュアエンジン車も出力的な不満はない

一方のピュアエンジンもハイブリッドと比べてしまうと力の差を感じますが、普段使いで不満の出ることがない十分な動力性能を備えています。

減速比ダウンはハイブリッドだけでなく、ピュアエンジンモデルにも実施されています。このためピュアエンジンでも走りに曇りは見えないのですが、どちらのパワーユニットも深めにアクセルを踏み込んで発進すると直後の段階で若干エンジンがブルッとする傾向があります。

減速比を下げたとはいえ、発進時にちょっと負荷が大きく、それを乗り越えるためにエンジンが頑張って振動が出るのかもしれません。またハイブリッドはEVモードからハイブリッド走行に変わる40km/h前後でも振動が発生するところが気になりました。

ヤリスクロスタイヤ
もっとも大径で太い215/50R18サイズのタイヤ

ヤリスクロスの乗り心地はかなり落ち着いた雰囲気で、ゆったりとしています。ホイールベースの延長はわずか10mmなので、さほど影響はないでしょう。それよりもトレッドの拡幅が大きく影響していると思われます。

ヤリスのトレッドはハイブリッドXで前/後:1490/1485(mm)ですが、ヤリスクロスは前/後:1525/1525(mm)とかなり広くなっています。4つのタイヤをグッと張り出して踏ん張ったディメンションに、ストロークがしっかりとあるサスペンションが与えられているため、ゆったりとした乗り心地が得られているのでしょう。

タイヤ径が大きいことは、段差乗り越えなどにも優位に働きますので、ヤリスよりも乗り心地がグッとよくなるわけです。

ヤリスクロスインパネ
2階建て構成のインパネはコンパクトカーらしさと高級感が共存
ヤリスクロス運転席
上級モデルの運転席にはパワーシートを備える。1モーター式としてコストを削減したが操作性がよくない

広いトレッドとワイドタイヤはコーナリングにも大きな影響を及ぼしています。コーナーに入っていくときのシャープさはヤリスよりも穏やかで、落ち着いた感じでロールが始まります。サスペンションストロークが長いので、ロールそのものはヤリスに比べると大きめですが、不安感はまったくありません。ロールが収まるとタイヤがグッと踏ん張るフィーリングがあり安心したコーナリングができます。コンパクトSUVのなかでは安定感は高いタイプと言えるでしょう。ヤリスのプラットフォームであるGA-Bはかなり鍛え上げられている感じがあります。

ヤリスクロスフルラゲッジ
定員乗車で390リットル。フルラゲッジでは1102リットルまで拡張可能
ヤリスクロスラゲッジ
デッキボードも6対4分割。片側を下段にすると、荷物を入れたときに安定させやすい

ヤリスクロスは4WD性能も重視したモデルです。ハイブリッド、ピュアエンジンともに走行モードを選べるセレクターを装備。

片側のタイヤが滑りやすい路面に乗って空転する状態を擬似的に作り出すために、右前後タイヤをローラーに乗せた状態での体験試乗をしました。このとき、ハイブリッドなら「トライアル」、ピュアエンジンなら「ロック&ダート」のモードを選ぶことで、空転しているタイヤのみにブレーキを作動させ空転を抑制し、接地しているタイヤに駆動力を伝達して脱出可能な体験をしました。

ヤリスクロスモーグル走行
対角線上のタイヤが浮くモーグル走行でも、独立ブレーキ制御のおかげで簡単にグリップを回復できる
ヤリスクロス走行モード
ピュアエンジン車の走行モード切替スイッチ。ハイブリッドも同じ位置に設定される

また片輪や対角線上のタイヤが接地を失うモーグル路での体験もしました。こちらも「トライアル」もしくは「ロック&ダート」モードを使えば楽々と脱出が可能。試しにもう少し駆動配分が緩やかなる「スノー」モードでも脱出でき、底力の強さを感じさせてくれました。

(文/諸星 陽一・写真/前田 惠介)

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
続きを見る
閉じる