マツダのロータリー発電エンジン搭載電気自動車「MX-30 Rotary-EV」は売れてほしい!

■ロータリーエンジン復活の意義は?

●ロータリーエンジンとは?

マツダMX-30 Rotary-EV Natural Monotoneジルコンサンドメタリック2トーン
マツダMX-30 Rotary-EV Natural Monotoneジルコンサンドメタリック2トーン

ついに、ロータリーエンジン搭載車が復活しました。いやー、良かったです。

マツダMX-30 Rotary-EV Natural Monotoneジルコンサンドメタリック2トーン
マツダMX-30 Rotary-EV Natural Monotoneジルコンサンドメタリック2トーン

しかし、ロータリーエンジンを直接タイヤの駆動力に使用するのではなく、発電機として利用し、モーターでタイヤに動力を与えます。

これまでのロータリーエンジンのイメージでは、ル・マン24時間レースでの優勝に象徴されるようなスポーツカー向きのエンジンで、良く回り、速く走れるのが長所であり、往復運動するレシプロエンジンに比べ、回転運動故に振動が少ないというメリットも。

ゆえに「静かな車に仕上げることができます」がウリになった車種でもありますが、特に後年はそう言ったアピールはありませんでした。

8Cロータリーエンジンの主要部品を見るとシンプルでコンパクトなのがわかります
8Cロータリーエンジンの主要部品を見るとシンプルでコンパクトなのがわかります

それに、燃費が良くないイメージもありました。けれど、速く走るためならば、ガソリンをたくさん燃やすのは仕方ないこと、いや、むしろ燃費が悪い=速い、といった極端な認識の時代もあったような…。

ともかく、ロータリーエンジンに「速い」「気持ちいい」「スムーズ」という印象はありますが、「環境に優しい」イメージは正直あんまりありません、個人的に。

しかし、今回MX-30に搭載されるパワーユニットはロータリーエンジンを発電機、駆動モーターと同軸上に配置しているのは、とても理にかなっているように見えます。

さて、そんなロータリーエンジン発電機を積んだシリーズハイブリッド方式のPHEVであるマツダMX-30は売れるのか?と問われると、決してたくさん売れるとは思えません。少なくとも日本では。

●MX-30ってどんな車?

マツダMX-30 Rotary-EV Natural Monotoneジルコンサンドメタリック2トーン
マツダMX-30 Rotary-EV Natural Monotoneジルコンサンドメタリック2トーン

なぜなら、現状でもMX-30は、マイルドハイブリッドとBEVを発売中ですが、どうやら月に100台程度の登録台数で、今のところかなり売れてない車種であることに間違いありません。

なぜでしょうか?

マツダMX-30 Rotary-EVのリヤ周り
マツダMX-30 Rotary-EVのリヤ周り

ひとつはデザインにあると思います。いや、MX-30単体で見てカッコ悪いとは思いません。けど、マツダラインアップの中で、魂動デザインのひとつとは言われていますが、誰がどう見たって違うシリーズに見えますよね。

シンプルなのはいいとして、どうにもクーペSUVの一種と言っていいでしょうけれど、車好きには「おおカッコいい!」とは目に映らない気がします。個人的にはあーいうマツダ車もあっていいと思うし、シンプルに見えて複雑な面の構成は悪くないなと思っていますが。

マツダMX-30 Rotary-EV左からEdition Rマローンルージュメタリック2トーン、Natural Monotoneジルコンサンドメタリック2トーン、Natural Monotoneソウルレッドプレミアムメタリック2トーン
マツダMX-30 Rotary-EV左からEdition Rマローンルージュメタリック2トーン、Natural Monotoneジルコンサンドメタリック2トーン、Natural Monotoneソウルレッドプレミアムメタリック2トーン

カラーバリエーションも、ソウルレッドなどの他車と同じものは辞めて、ソリッド系のアースカラーをもっと増やしてくれたらいいんだけどと思います。他のマツダデザインと違うんですよ。車好きじゃない人が買っていいんですよ、という主張になると思います。

マツダMX-30主査の上藤和佳子さん
マツダMX-30主査の上藤和佳子さん

もちろん、塗装は設備面からバリエーションを増やすのはかなり大変だと聞きますが、MX―30開発主査の上藤和佳子さんは、塗装関係の生産技術を担当されていたとお聞きしていますので、きっとクリアしていただけることと期待しています。

それと、パワートレインがマイルドハイブリッドとBEVのみという点。一般的な売れ線の「普通のガソリン」が存在してないのです。

シンプルなデザインに似合うのはマイルドハイブリッドでなく、単純なICEが特に似合うと。ですので、シンプルにガソリンまたはディーゼルエンジンを搭載してほしかった。

MX-30はどうやら旧来の車好きでなく、ライフスタイルにこだわりがあって、ごちゃごちゃしたものが嫌いという必要十分とかミニマルとかが好きな人向けのように感じます。だったらシンプルなパワーユニットがあってほしかった。

●BEVの航続距離が短い

で、シンプルな動力源がBEVで電気モーターとバッテリーの組み合わせなのでしょうが、35.5kWhのバッテリーを搭載するMX-30EVのカタログ上の一充電走行距離は256km。ちょうど同じバッテリー容量のHonda eでは同じく259kmと拮抗していますが、こちらも売れているとは言えませんね。

実質的には満充電で200kmくらいでしょうか。できればプラス50km程度あったらいいんじゃないかなぁ、と思います。都内から大体片道100kmくらいに一般的なドライブスポットを多く感じます。往復で200kmということは、かつかつの走行距離で帰りはヒヤヒヤです。真夏の渋滞にハマってもエアコンを消すべきか、とか悩むかもしれません。そうでなくともバッテリーは劣化しますし。カタログ航続距離300kmくらいで250km走るだろう。200kmなら余裕だな、というくらいに走っていけるような航続距離が欲しいです。

けれど、このMX-30 EVモデルは走りが非常にいい。車にとって軽さはすべてにおいて善といえるでしょう。足まわりをやってるマツダのあのエンジニアさんとかの理想に最も近いマツダ車なんじゃないかな?と思うくらいです。

個人的には長距離用にもう一台持っているなら普段使い用にMX-30 EVを選択するのは非常にありだと思ってます。セカンドカーとして使うには、税金や燃料(電気)代の面でかなり有利ですもんね。

●フリースタイルドアは便利かもしれない

マツダMX-30 Rotary-EVの特徴的なフリースタイルドア
マツダMX-30 Rotary-EVの特徴的なフリースタイルドア

それから、やっぱりあのドアの開き方。いわゆる観音開き型で、マツダではフリースタイルドアと呼んでいます。

「使ってみると便利なんだけどね〜」というのは同様のRX-8に乗ってきた人の多くから聞こえてきます。確かに、私もカメラが入った大きなカバンなどを転がらないように後席足元に置くことが多いのですが、フリースタイルドアならば運転席を開けて、後ろに回らずその場でリヤドアを開けて荷物を放り込むことができます。

ただし、構造的にセンターピラーが無いため、剛性確保には不利だという弱点もありますが、他にはない使い勝手を選ぶならそこは仕方がないのかもしれません。ただ、実際にMX-30に乗っても剛性がないという印象はありませんでした。

といった特徴だらけのMX-30にロータリーエンジンによるPHEVを搭載するわけです。なんかもう、飛び道具だらけの車種になってます。ヒットしてもしなくても、どの部分が良かったのか悪かったのか、人の心のパーセンテージが厳密に数値化されることができないなら、永遠にわからないかもしれません?

それでも、ヒットして欲しい。マツダはそのためにロータリーエンジンの火を消さずに生産を続けてきました。

●ロータリーエンジンを日本の国機に!

今回のまったく新しいロータリーエンジン「8Cエンジン」には、アルミを採用したサイドハウジングの溶射処理に代表される新たな工法と、生産を続けてくれた職人さんたちの匠の技が、合わさってできているのだといいます。

そして、ロータリーエンジンに魅了されてマツダを選んだ社員もたくさんいることでしょう。その人たちのモチベーションを保つことにも繋がります。これから入社を考えているエンジニアを目指している学生さんなどにも、培ってきたものを大事にしてくれるということは、人も大事にしてくれるんだということにも繋がり、就活にも影響するのではないでしょうか。

レシプロエンジンを開発し、存続させてきたのはマツダも含んだ世界中の自動車メーカー、自動車以外のエンジン付き乗り物、発電機や工業機械、ラジコンなどのホビーなどなどを作る会社や、大学そのほかの研究機関など、世界中のあらゆる場所で研究、切磋琢磨されて現在のカタチに出来上がってきたのです。

ロータリーエンジン、実際にモノにできたのは日本のマツダ一社です。これは日本が誇るべきではないでしょうか。

ここで、国蝶、国技、国鳥のようにロータリーエンジンを日本の「国機」に指定してはいかがでしょう。

日本の朱鷺(トキ)は国鳥ではありませんが、国を上げて保護して、純国産は絶滅したようですが、見事に絶滅を免れています。ちなみに日本の国鳥は朱鷺でなく雉(キジ)とされてます。でも、雉鍋などで国鳥を食べる国は珍しいとか?

いずれにしても、今後新たな内燃機関の方式が出てくるとは思えず、日本独自の工芸品、文化のひとつとして国を挙げてロータリーエンジンの火を絶やさずに続けて行ってほしいものです。マツダさんにはCX-30やCX-5などの売れ筋の車種にこの8Cエンジンを使用したパワーユニットを搭載してほしいと切に願います。

●マツダMX-30 Rotary-EVは買いか?

マツダMX-30 Rotary-EV左からNatural Monotoneソウルレッドプレミアムメタリック2トーン、Edition Rマローンルージュメタリック2トーン、Natural Monotoneジルコンサンドメタリック2トーン
マツダMX-30 Rotary-EV左からNatural Monotoneソウルレッドプレミアムメタリック2トーン、Edition Rマローンルージュメタリック2トーン、Natural Monotoneジルコンサンドメタリック2トーン

さんざん言いたいことを言ってきましたが、MX-30 Rotary-EV、実は買いなんじゃないか?と思えてきました。

というのも、MX-30 Rotary-EVを購入時にはCEV補助金55万円(ちなみにBEVモデルは51万2000円とこれより低い)プラス自治体の補助金、たとえば東京都なら45万円が付いてくるのです。CEV補助金は、BEVモデルは51万2000円なので、Rotary-EVより少ないのです。

東京で買うならいきなり100万円引きです。そのほかに自動車税非課税、重量税免税、など特典いっぱい。(CEV補助金は申請時期が予算額に達した場合は受付終了となります)

ざっくりとですが、補助金、減税、免税を考えるとCX-30のディーゼルモデルとおおよそ同じくらいの価格レンジと言えるでしょう。

それで新しいパワーユニットが手に入り、見慣れた魂動デザインと少し違って、使い勝手のいいドアが付いてて、普段は家庭で充電することを想定するとランニングコストも低く抑えられます。

これは、ミドルクラスSUVを考えているのであれば、「変わった車」と一蹴せず、ぜひ検討の一台に加えるべきでしょう。

●マツダ MX-30 Rotary-EVスペック

モデル名 マツダ MX-30 Rotary-EV
型式 3LA-DR8V3P
全長✕全幅✕全高 4395x1795x1595mm
ホイールベース 2655mm
乗車定員 5名
車両重量 1780kg
エンジン型式 8C-PHI
エンジンの種類 水冷1ローター
エンジン最高出力 53kW<72ps>/4500rpm
エンジン最大トルク 112Nm<11.4kgfm>/4500rpm
モーター型式 MV型
モーター種類 交流同期電動機
モーター定格電圧 355V
モーター定格出力 60kW
モーター最高出力 125kW<170ps>/9000rpm
モーター最大トルク 260Nm<26.5kgfm>/0-4481rpm
動力用主電池種類 リチウムイオン電池
動力用主電池電圧 355V
動力用主電池容量 50Ah
動力用主電池個数 96個
動力用主電池総電力量 17.8kWh
最小回転半径 5.3m
ハイブリッド燃費(国交省審査価) 15.4km/L
市街地モード(WLTC-L) 11.1km/L
郊外モード(WLTC-M) 18.5km/L
高速道路モード(WLTC-H) 16.4km/L
充電電力使用時走行距離 107km
EV走行換算距離 107km
使用燃料・タンク容量 無鉛レギュラーガソリン・50L
タイヤ&ホイール 215/55R18 95Hタイヤ&18×7インチアルミホイール
製造事業者 マツダ株式会社

●マツダ MX-30 Rotary-EV価格

ベースグレード 423.5万円
Industrial Classic 478.5万円
Modern Confidence 478.5万円
Natural Monotone 478.5万円
Edition R 491.7万円

(写真:前田惠介/文:小林和久)

この記事の著者

編集長 小林和久 近影

編集長 小林和久

子供の頃から自動車に興味を持ち、それを作る側になりたくて工学部に進み、某自動車部品メーカへの就職を決めかけていたのに広い視野で車が見られなくなりそうだと思い辞退。他業界へ就職するも、働き出すと出身学部や理系や文系など関係ないと思い、出版社である三栄書房へ。
その後、硬め柔らかめ色々な自動車雑誌を(たらい回しに?)経たおかげで、広く(浅く?)車の知識が身に付くことに。2010年12月のクリッカー「創刊」より編集長を務める。大きい、小さい、速い、遅いなど極端な車がホントは好き。
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