■やっと乗れた♪ BMWのFCEV水素燃料電池「BMW iX5 HYDROGEN」
●電気と水素、両方を使うことにしたBMWの考え方
2014年にトヨタ初代「MIRAI(ミライ/JPD10型)」が登場したときから(実際には発売前から)、国際モータージャーナリスト・清水和夫さんは「水素燃料電池車が世界を救う」的に、FCEV(Fuel Cell Electric Vehicle)肯定派として自動車専門誌のみならず、経済誌などにも寄稿してきました。
そんな清水さんは2023年2月、念願だったというBMW初のFCEV「BMW iX5 HYDROGEN」をベルギーにて初体験。その模様を、YouTubeチャンネル「StartYourEnginesX」の臨時生LIVE配信「頑固一徹学校」で語りました。
BMWはiX5 ハイドロジェンを、2023年内には試験的に販売するといいます。
「トヨタ、ホンダ、ヒョンデに続く、FCEV第4のメーカーがBMW」(清水)とうことで、ドイツを経由し、試乗するベルギーへとウキウキ♪と向かいました。
非リケジョのあたしには???なFCEVシステム。でも、ジャーナリスト仲間の石井昌通さん(通称:ボン)と分かりやすくかみ砕き話してくれましたよ!
ちょ~っと音声がクリアではないけれど、清水さんとボンさんがお届けするBMW iX5ハイドロジェン話、聞いてみましょう!(永光 やすの)
●トヨタのスタックを使ってるけど、乗り味はまったく別物だった!
清水:BMW iX5ハイドロジェン、燃料電池の試乗会に行ってきたので話します。このiX5ハイドロジェンはトヨタのシステム(fuel cell stack)を使うってのはすでに発表していた。だからMIRAI(トヨタ・ミライ)の125kWくらいのスタックをX5のエンジンルームに入れて、そのままモーターと電気で走る。リヤモーターだけな。
iX5ハイドロジェンはセンタートンネルにどデカい縦長のタンクを入れている。でも、スタックだけがトヨタで、あとは全部BMWオリジナルになってたね。
ボン(石井昌通):乗った感じはどうなんですか?
清水:水素タンク2本で水素重量6kg。ちなみに、MIRAIは3本で6kg。だから、BMWのタンクのほうがデカい。気圧は一緒だけどね。それで、フロントにスタックがある。インバーターで昇圧して、そのままモーターに交流してもっていくわけだけど。出力は125kWかな。
BMWの凄いところは、リヤモーターが295kwとデカい! それは何でかっていうと、バッテリーが170kWのパワーを出す。170kW+スタックの125kWで、295kWのモーターを動かす。これ、400kW近い。
MIRAIがようやく0-100km/h=9秒くらい。MIRAIは2代目になって先代より良いクルマになったけど、基本はTHS II。トヨタはまだBEVベースでっていうのはないから、ハイブリッドベースでFCEV作っている。
MIRAIを調べると、スタック125kWでモーター130kWだから、バッテリーの持ち出しがほとんどない。
ボン:シリーズハイブリッドでも普通はバッテリーの持ち出しがあって、モーター出力が高いですよね。
清水:だから、トヨタはあくまでもTHSベースのFCEV。
ボン:技術をなるべく活用して、コストはあまりかけない、ということです。BMWはシリーズハイブリッドに近いかもしれません。
清水:シリーズというか、レンジエクステンダーかも。つまり、170kWのバッテリーとモーターで走って、バッテリーに電気を入れなきゃいけないから、チョロチョロってスタックからいくんじゃないかな。
ボン:スタックから行ったり、回生を取ったり、ということをしながらですよね。
●iX5ハイドロジェンはMIRAIより全開走行できる時間が長い
清水:MIRAIの田中さん(トヨタ)に聞いたら、まぁトヨタだけじゃなくてホンダもそうなんだけど、スタックって全開のパフォーマンスを30秒くらいしか続けられないんだよね。熱がどんどん上がっていっちゃうから。大体、フル加速って30秒も続かない。その時にバッテリーに電気があれば一緒に持ち出して400psで走る。
一定でアウトバーンとか、まぁベルリンは高速制限が120km/hなんだけど、そこはスタックもフルスペックじゃなくて済むから、80kWくらいでダ~っと流している。だからBMWは完全にEVベースでFCEVを作ったんだよね。
ボン:そうですね。
清水:レンジエクステンダーのi3になるのかな? どっちで言うか。
ボン:ン~。ボクはシリーズハイブリッドの結構スポーティな。
清水:シリーズだと、スタックで常時充電しなくちゃいけないじゃない。
ボン:でも、バッテリーが十分に貯まればスタックは休める。だから、シリーズハイブリッドでエンジンが止まっているとき、しょっちゅうあります。っていうことじゃないかと。
清水:だからなんかね、レンジエクステンダーはプラグインなのかという言い方も、上手く当てはまらなくなってきた。
ボン:いずれにしても話を聞くと面白そうだし。そうすればFCスタックを酷使しないでパワー、トルクがけっこう上手に使えるみたいな形なのかな?と。
清水:iX5ハイドロジェンは0-100km/h=6秒で、最高速は185km/h、航続距離500kmで、水素充填は5分くらいで終わる。まぁ水素ステーションさえあればいい。エアサスの乗り心地も良いし、速いし。
ボン:そうですね、日本でも使えますね。
清水:面白いことに、車両重量がBEVより軽い。PHEVくらい。2tくらいなのかな?
ボン:iXが2.5tくらいですね。
清水:MIRAIが1.9tくらいでしょ。だからそれよりは重いと思うから2.2tくらいかな。
●なぜBMWはFCEVなのか?
清水:BMWは何で水素なのか?っていう話をしてくれたんだけど、BEVだけだとどうしても、ひとつはレアメタルの問題、リサイクルの問題があると。レアメタルってやっぱりいろんなところの国から調達しなきゃいけないから、強靭性みたいな、地政学的な問題も出てくる。水素燃料電池は白金だけは使うんだけど、レアメタルはほとんど使わないから、リサイクルもしやすい。
あと、BEVだけでいったとしたら、もの凄い充電ステーションを数多く増やして、止まっている時間が長いから、それがもう何万台となったら、もう埋め尽くされちゃうんじゃないか。それは社会コストが非常にかかるから、それはBEVだけでいったら無理だと。
なので、FCVとバッテリーEVの2本立てでカーボンニュートラルを達成しながら、2050年の1.5度、最初にヨーロッパのOEMでコミットメントしたっていうのが、BMWのメッセージ(※EUの気候変動対策計画)。
ボン:正しいと思いますけどね。よくFCVとバッテリーEVが対決軸で語られることがあるんですけど、そうじゃなくて、両輪で行くというか、適材適所なのか。
清水:エンジンベースで作ったFCだとBEVとの対立になりやすいんだけど、今回BMWを見ているとほとんどBEVだからね。
ボン:そうですね。だってFCだってEVで、XEV(電動車)の中のそれがバッテリーなのかFCなのか、っていうことですものね。
●経済誌は「FCV」。でも時代は「FCEV」なんだよね~
清水:ある経済専門誌でボクは「FCEV」って書いたら、編集で「FCV」って直された。FCVっていうのはトヨタの言い方。
ボン:いや、でももう変わったんじゃないですかね、
清水:三菱自動車はPHEVを「PHV」じゃなくて「PHEV」。
ボン:トヨタも「PHV」だったのを、プリウスから「PHEV」と書いているし、多分FCも今「FCEV」になっているんじゃないかな?
清水:経済専門誌ともあろう媒体が、まだ昔の社内の校閲にかかると「FCEV」って書いたのを「FCV」と直されたから、これはもう時代が違うんだから、「今はFCEVでしょ?」って編集者とやり取りしたんだけどね。
ボン:たしかホンダも「FCEV」。
清水:ホンダがこの間発表したCR-Vで、「プラグインハイブリッド」って言ってたけど、あれもプラグインって言っちゃうとなんかよく分かんなくなるけど。
ボン:メルセデス・ベンツもそうですよね。
清水:メルセデスは本当にプラグインだったよね。エンジンのプラグインがあったから。
ボン:それと、FCにもバッテリーとプラグイン、GLCの。
清水:あれは完全にディーゼル車、エンジン車のプラグインハイブリッドだったから、そのエンジンのところをスタックにしたというものだったけど。どうもホンダのシステムは、オレは違うんじゃないかと。中身はまだ分かんないけど。言い方をプラグインというかレンジエクステンダーというか。でもいずれにしてもホンダは、給電と充填と充電ができる。電気を充電できて、水素ガスを充填できる。
ボン:でもまぁ便利でしょうね。水素ステーションがちょっと遠いという方でも電気でいけばいいし、毎日充電して使えば、プラグインハイブリッドと同じように、その時は電気だけでいけると。
●余った電気で水素を作る、というEUの考え方
清水:あとね、水素っていうと、絶対そんなもんあり得ない!っていう人がいるんだけど。ヨーロッパで再エネ(再生可能エネルギー)やってると、発電された電気って直流なんだけど、これを交流にしないと遠くにもっていけないじゃないですか。だから必ず交流に変換しているんだけど、その変換システムに上限があるから、春の暖かい、太陽がいっぱい出ているときはガンガン発電しちゃうんだって。すると、制限がかかっちゃう。せっかく発電できているのに電気がもったいない。それだったら、余った電気は水素にまわしたほうがいいから。
ボン:その再生可能エネルギーの安定的じゃないところを水素に。
清水:iX5 ハイドロジェンは港のアントワープ(ベルギー)でやってたんだけど、ソコは船がいっぱい走っていて、そこで別のワークショップがあった。港で水素ステーションを経営している社長のワークショップもあったんだけど、「今ソコ走っている船はディーゼルエンジンで水素だよ」って。
ボン:日本も水素とアンモニアはもうかなり進んでいます、発電部門で。
清水:大型船はアンモニア使っているって言ってたな。アンモニアって強毒性があるから小さい船には使えない。
ボン:石炭発電にはアンモニアを入れると、大分CO2が減ります。
清水:でもヨーロッパの場合は、水素にグリーン水素とグレー水素とブルー水素と色分けしてる。たとえば、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage/二酸化炭素回収・貯留技術)でカーボンキャプチャーストレージすると、ブルー。そのまま高効率の石炭発電で水素を作ると、グレー。あと、原子力発電のブラウン水素ってのもある。ヨーロッパでは、グリーンとブルーとグレーがあるけど、投資対象になるのはグリーン水素のみ。だからグレーとブルーはダメ!みたいな言い方してたな。だから、完全に再エネベースでいくと。
BMWがなんでそこまで踏み切ったかっていうと、ロシアのお陰なんだよね。ノルドストリーム(Nord Stream/ロシアからドイツまで走る海底天然ガス・パイプラインシステム/2022年9月に4本中3本が損壊)で天然ガスが来ないから、来ないんだったら分かったよと、本気で再エネにいくぞ!みたいなことを、BMWの担当者が言ってた。
ボン:グリーンだと太陽光発電とかもそうですし、風力、水力。
清水:ノルウェーもあるから、ノルウェーのエネルギー生産率って750%くらいあるから、余った電力は水素で。アイスランドも水素経済社会だしね。
ボン:スウェーデンの水力発電も凄いですね。
清水:一番有力なのは、北アフリカ。北アフリカってヨーロッパに依存している地域があって、そこに物凄い太陽光とか風力発電を作って、パイプラインで水素を送る。ノルドストリームの水素版。アフリカは今、「グリーンアフリカ」という言い方をしていて、ヨーロッパの投資が入っている。
●日本のFCEVはどうなる?
清水:ボクはエンジン派! なんだけど、いろんな意味でBEVをちゃんとやんないとダメだなと。高出力のバッテリーとか、高性能なモーターとかがあれば、FCをやってもMIRAIのスタックを使っても400psのBMWが作れる。その発想が今のトヨタには無い。
(今日の話をまとめると)BMW iX5ハイドロジェンはトヨタの燃料電池スタックを使っているけど、走りが全然違う。それは、トヨタの技術があるか無いじゃなくて、考え方の違い。MIRAIはあくまでも省エネ。だから、水素重量が同じ6kgでもBMWは500kmしか走れないけど、MIRAIは600km。だから、ガス比はMIRAIの勝ち。でもMIRAIはセダンで作っちゃったから。SUVでやれば、ヒョンデのネッソみたいにアメリカでも売れるんじゃないかと。
銀座のとあるバーから緊急生LIVEで届けられたBMWのiX5ハイドロジェン試乗報告。FCEVは世界の燃料事情を救うのか?
やっぱり…ちょっと…だいぶ難しい話だったけど、近未来の自動車社会を想像してみると、やはりFCEVは絶対要素、ということですね。
BMW iX5ハイドロジェンの全ての清水さん報告は動画 ↓ ↓ ↓ でどーぞ!
(解説:清水 和夫、石井 昌通/動画:StartYourEnginesX/アシスト:永光 やすの)
【関連リンク】
StartYourEnginesX
https://www.youtube.com/user/StartYourEnginesX
清水和夫「自動車のいまと未来」(NHK 解説委員室)
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/480152.html?fbclid=IwAR0_2JFf-sc5phNzznWciKpzt2fIkO31Cc4e9duNRxksZ-cNeR2DodkmW4M
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