ダイナミックに前進する姿をカタチにする。新型アウトランダーの威風堂々なデザインとは?【特別インタビュー】

■商品コンセプト「威風堂々」を形に

アウトランダー・メイン
よりSUVらしく進化したダイナミックなボディ

10月28日に発表された三菱自動車の新型「アウトランダー」は、先代で設定したPHEVシステムに加え、スタイリングも大きく刷新されました。

そこで、その新しいデザインの意図について、チーフデザイナーである秋田氏にお話を伺ってみました。

●ボディのカタマリ感とドライバーの気持ち

── はじめに、今回のデザインコンセプトである「BOLD STRIDE(ボールド・ストライド)」の内容について教えてください。

「大きくは2点でしょうか。まず、三菱車全体のデザイン哲学としては「Robust & Ingenios(ロバスト・アンド・インジニアス)」を設けていますが、その上で、アウトランダーの商品コンセプトである「威風堂々」を表現するカタマリ感や、ダイナミックに前へ前へと進むイメージを作ることがひとつ。また、ドライバーの気持ちよさを後押しすること、ポジティブな気持ちを引き出すことがもう1点です」

アウトランダー・スケッチ
デザイン開発中のスケッチから

── 先代比で全長15mm、全幅60mm、全高とホイールベースが35mm(広報資料より)と、それぞれ拡大しています。このパッケージの狙いはどこにありますか?

「初期段階からスタディを重ねてきたところですが、やはり三菱のフラッグシップとして、商品コンセプトにあるように堂々としたカタマリ感やボリューム感が欲しい。また、室内的には乗員同士の距離感も適度な余裕を確保したいし、たとえばセンターコンソールにしっかりした幅を与えるなど、相応の空間も必要でしたね」

── 広報資料には三菱独自の「DYNAMIC SHIELD(ダイナミック・シールド)」が新世代に入ったとありますが、どう変わったのですか?

「新世代というより、現時点でもっとも理想的な表現ができたということでしょうか。「ダイナミック・シールド」は「顔」の造形がコンセプトですが、今回はそこにとどまらず、シルエット全体を水平基調でどっしりとした存在にするところまで取り組んだ。第2章というよりは理想形です」

アウトランダー・フロント
新世代に進化した「ダイナミック・シールド」

── 一方で「ダイナミック・シールド」は要素がとても多く、顔が煩雑になりませんか?

「要素が多いのは確かです。ただ、たとえばランプは3つに分かれていますが、メインのヘッドランプは歩行者に眩しくないように、逆に上部のターンランプはしっかり見えて欲しいなど、機能面での必然性が前提なんです。決して単なるグラフィック表現ではありません」

── 実車を見るとフロント左右をかなり絞っていますが、堂々さを出すにはもっと角張らせる方法もあったのでは?

「はい、そこは試行錯誤を重ねた部分です。新型はボディの断面をしっかり前後に通すことを意識していますが、しかし単に角張らせると重く感じてしまう。それよりも、筋肉質な力強さ、肉感的な張りで堂々とした表現を出したかったわけです」

●カタマリを削いでソリッドさを出す

アウトランダー・サイド
水平基調のキャラクターラインは前後で変化する

── 新型は水平基調を特徴としていますが、キャラクターラインは前後で折れています。とくにリアはフェンダーまで回り込ませていますね。

「はい。もちろんシンプルに前後へ抜いたラインもあり得ますが、今回はソリッドなカタマリ感、力が凝縮されたようなイメージを狙いました。先代は前後に抜けたラインでしたが、それがある種のエレガントさを生み、SUVというよりワゴン的に見られてしまったんです。ちなみに、リアフェンダー部のラインは空力的な効果もあります」

── ホイールアーチの円弧形ラインはかなりグラフィック的です。サイズ的にもっと面で見せてもよかったのでは?

「いえ、フレアはしっかり出しているんです。その上であたかも削いだような、工業製品として頼りがいのある面を作りました。三菱車の面構成には「SCULPTED SOLIDITY(スカルプテッド・ソリディティ)」というコンセプトがあって、まず最初にカタマリがあり、それを削ぐことでシャープさとソリッドさの両面を見せたい。ここにはそうした意図があります」

アウトランダー・リアフェンダー
リアフェンダーに回り込むキャラクターライン

── 新型の特徴であるDピラーとフローティングルーフですが、「威風堂々」というよりは軽快さを感じます。

「そうでしょうか?(笑)。ここは飛行機の垂直尾翼がモチーフですが、私たちはダイナミックに前へ進んで行くイメージを持っています。前に進む力を後ろからグッと押し出す、そういう『動きを出したかったのです」

── リアデザインのアイデンティティである「HEXAGUARD HORIZON(ヘキサガード・ホラインズン)」とはどのようなものですか?

「元々は『パジェロの背負いタイヤがモチーフです。ヘキサゴンとして6角形の面を表現し、ホライズンはリアランプなどで水平を表現する。6角形の上半分は安定感を、下半分はリフトアップしたSUVらしさを意図していて、上下で1本のタイヤを表現しました。リアランプは横向きのT字形に発光し、車幅の視認性を上げています。これは今後の三菱車にも展開する表現です」

アウトランダー・リア
タイヤのモチーフを取り入れたリアパネル

●レースの知見をインテリアにも

── 評判のインテリアですが、ここでも「HORIZONTAL AXIS(ホリゾンタル・アクシス)」というコンセプトが掲げられています。

「基本的にはインパネに関する考え方です。ここは人間工学部門と一緒に進めてきたのですが、インパネのいちばん見やすいところに水平ラインを引く。それによって、荒れ地でクルマが傾いた際に直感的にそれが判断できます。ある種計器のような働きですね。実はダカールラリーなどのフィードバックでもあるんです」

アウトランダー・インテリア
シンプルでありつつ大幅に質感を上げたインテリア

── メッキやアルミ調など、かなり光りモノが多いですね。

「はい。ただしあくまでも適材適所です。たとえば暗い中でもスイッチの場所が分かるなど、必要な部分には使い、無駄な部分には置かない。今回、スイッチ類の細かい形状を始め、メーターのフォントも変更したんです。すべて機能を伴った表現です」

── 最後に。今回進化した「ダイナミック・シールド」ですが、今後は各車種の持つ個性とどのように両立させて行きますか?

「具体的な話はできませんが(笑)、あくまでも各車種のコンセプトに合った見せ方が基本です。「ダイナミック・シールド」の黒い部分は「ランサーエボリューション」などのグリルを、シルバーの部分はパジェロなどのバンパーから発想しています。今後は市場の指向やクルマのサイズなどにより、その両者のバランスを常に変化させ、同時に進化させて行くことになります」

── つまり「プロテクト」の表現をどう塩梅するかですね。本日はありがとうございました。

【語る人】
アウトランダー・デザイナー三菱自動車工業株式会社
デザイン本部
プログラムデザインダイレクター
秋田 直輝 氏

(インタビュー・すぎもと たかよし

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この記事の著者

すぎもと たかよし 近影

すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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