世界をリードするニッポンの自動運転を公道で体感してきた「SIP自動運転 試乗会」【週刊クルマのミライ】

■加速やブレーキングの滑らかさは標準ドライバーのレベルを超える

●日本は自動運転で遅れているというのは間違った認識

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世界初のオープンソース自動運転ソフトウェア「Autoware」によって制御されている

アメリカや中国から入ってくる自動運転についてのチャレンジングな情報を見ていると、「日本は自動運転分野で遅れている。世界に置いていかれているのは心配だ」と考えてしまいがちですが、そこまで悲観することはありません。

企業が実験しているのと社会的に自動運転を許容するのは別のフェイズの話で、自動運転の普及に向けた保安基準の作成や法整備など政府レベルで見ると、日本は世界的に見てもかなり進んでいるほうだからです。

高速道路の渋滞時という限定的なシチュエーションですが、世界で初めて自動運転レベル3を実現したホンダ・レジェンドが発売できたというのは、そうした整備が進んでいる証拠です。また国際的な規格作りにおいても、日本はリーダーシップを発揮しています。

そうした背景には、内閣府総合科学技術・イノベーション会議が司令塔となって進めるSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の課題のひとつとして、自動運転(adus)に関するプログラムが実施されていることが挙げられます。

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日本を代表する自動運転スタートアップ企業「ティアフォー」はトヨタJPNタクシーをベースに実験車両を製作している

しかも、単に政府が旗振りをしているだけではありません。SIP-adus主導による公道における実証実験も行われているのです。

舞台となっているのは、東京お台場を中心とした臨海地区です。具体的には、自動運転に必要となる信号情報(信号灯の色や残秒情報)をITS専用周波数帯の760MHzを利用して車両に伝えるシステムを構築しているほか、臨海エリアの高精度3Dマップを製作して、自動運転のベースとする実験が行われています。

その実験は2019年度から始まっていますから、すでに日本の公道(一般道)を自動運転実験車は日常的に走っているというわけです。

2021年10月19日~20日にかけて、その成果をメディア向けに発表するSIP-adus実証実験プロジェクト試乗会が開催されました。

その試乗会において、日本を代表する自動運転スタートアップ企業であるティアフォーの実験車両に乗ることができました。同社は、大学から生まれたベンチャーとして2015年12月に設立され、世界初の自動運転のオープンソースソフトウェアである「Autoware」の開発を主導していることでも注目を集めている企業です。

●日本代表ティアフォーの自動運転は高いレベルに仕上がっている

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メインとなるセンサーはルーフ中央のライダーで、死角をカバーするためにセンサーが追加される

はたして、Autowareによる自動運転はどのような仕上がりなのでしょうか。今回は、自動運転レベル4のタクシーを疑似体験するというスタイルで試乗プログラムが組まれていました。まずは、専用アプリの入ったスマートフォンでタクシーを呼び出し、目的地をセットすることから始まります。

トヨタJPNタクシーにライダー6個、カメラ8台のセンサーを追加するなどして作られた実験車両の後席に座ると、クルマは自動で走り出します。運転席と助手席にスタッフが座っていますが、システム監視をしているだけで操作はしていません。

目的地の日本未来館では路肩で止めるのではなく、しっかりと車寄せに入っていき、入口の前でしっかり止まるところまで確認できました。

右左折時のハンドル操作はカクカクとしていてぎこちなさは残っていますが、挙動としてはスムーズで目をつぶっていると自動運転であるとは感じられないレベル。とくに、停止時にカックンとしないブレーキングのうまさには感心させられます。この点については、すでに数多のタクシードライバーを上回っているかもしれません。

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フロントバンパーの左右にはDJIのコンパクトなライダーを配置する

加速についても同様です。自動運転の実験車両というと、安全マージンをとってゆっくりと走るようなイメージを持っているかもしれませんが、少なくともティアフォーの自動運転タクシーは40km/hの指定速度までスパッと加速する様が確認できました。実測で40km/hをターゲットとしているため、メーター表示は少し上回っているほどでした。加速時に乗員が揺すられるようなことはなく、非常に上手なアクセルワークとなっています。

これならば安心して乗っていられるという走りに仕上がっていました。

●信号はカメラで認識。交差点での振る舞いに驚いた

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路肩に駐車している車両を検知すると、安全によけることも可能。リアルワールドで鍛えられた自動運転の実力を感じることができた

冒頭で記したように、今回の実験に使われているエリアでは33個の信号機に情報発信装置が取り付けられ、自動運転車両はその情報を利用できるのですが、ティアフォーの車両ではカメラによる判断を優先しています。それは情報発信のインフラが整備されていない地域でも安全に走るためですが、その際の振る舞いが驚くほどスマートなものでした。

この記事の最後に動画でも紹介していますが、信号機が赤から青になったからといってそれだけは発進しません。しっかり前方のスペースが空いていることを確認してから発進します。この動画では信号の先が詰まっている状態だったので、青信号になっても様子を見ながら発進しているのが確認できるでしょう。

空いている道を自動で走ることができるというのは当然で、もはや混雑した状況においてスマートかつ安全に走れるようになっているのです。これも、SIP-adusによる実証実験の成果といえるのではないでしょうか。

もちろん、まだまだ課題はあります。たとえば、交差点で右折するときに対向車を認識すると対向車がいなくなるまで待つという制御になっているそうですが、ティアフォーの自動運転タクシーが向かい合う状況になって、それぞれが右折しようとしているときにはにっちもさっちもいかなくなる可能性もあるようです。

いずれにしても、そうした課題を克服するためにも、こうした公道での実証実験が果たす役割は大きく、リアルワールドでの経験をさらにシミュレーションに落とし込むことで、自動運転プログラムはどんどん成長していることは間違いありません。

動画の後半ではスムースに車線変更をしている様子も確認できますが、このあたりの動きは四方の状況を同時に検知して、並列的に処理しているからこその動きと感じました。人間が前を見て、それから横を確認してというよりもずっと正確で素早いという印象で、自動運転タクシーの運転がベテランドライバーのそれを上回る日もけっして遠くはないといえそうです。

自動車コラムニスト・山本晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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