フランスチームがいたからこそ私たちも頑張ることができたby松下宏【水素満タンMIRAIで1000kmチャレンジ】

「日本を代表する自動車メーカーであるトヨタの水素燃料電池車MIRAIで、水素満タンでの航続距離最長記録1003kmをフランスチームが打ち立てたのは日本人としてクヤシイ!」という自動車ジャーナリスト国沢光宏さんの声がけにより、結成された世界記録に挑む日本チーム。結果は見事1040.5kmと世界記録を更新し、豊田章男さんからも感謝状もいただきましたが、およそ1000kmを走るため各人100kmほどを担当した10人からなるドライバーによる、後日談エッセイ。今回はスタートドライバー国沢光宏さんからバトンを受け取った、第8スティント担当の松下宏さんです。

■初代MIRAIの同志である国沢さんに共感

●燃費走行で夜間の高速を巡航するのは?

交通量の多い時間帯を走らせる松下宏さんドライブのMIRAI
交通量の多い時間帯を走らせる松下宏さんドライブのMIRAI

フランスでミライが満タンで1000㎞走行を達成というニュースを受け、国沢さんが「ミライを作った日本で記録を破りたい。手伝ってくれる人はいませんか」とSNSで発信したとき、真っ先に反応したのが私でした。私はすでに自動車評論家を引退した身ですが、逆に言えばその分時間はたっぷりあるので手伝うのも容易と考えたからです。

吉田由美さんからバトンを受け取った松下宏さん
吉田由美さんからバトンを受け取った松下宏さん

その前に、私と国沢さんは初代ミライを発売前にほとんど同時に注文し、ほとんど同時に納車を受けて自分のクルマとして乗っていた同志でもあります。国沢さんはなんと初代ミライをラリーカーに改造されましたが、私は普通に乗っていました。

そんなこんなで具体的な計画も知らずに手伝うことにしたのですが、出発地が福島と聞いたときに懸念を感じて確認をしました。「高速道路を時速60kmで走るようなことはしないよね」と。夜間の空いた高速道路を時速50~60kmで走るのは違反でも何でもなく、エコランに最適かも知れません。でも、そんな危険なことをするのはダメだからです。「福島からは一般道を走ってくる」との返事を受けて安心して参加することができました。

明け方の予定が7時位のスターとなった松下宏さん
明け方の予定が7時位のスターとなった松下宏さん

私の担当は8番手で、当初は明け方の4時~6時の時間帯でした。でも、だんだんに押せ押せになって7時~9時の時間帯になってしまいました。信号のない首都高都心環状線(C1)を走ることにしたのですが、この時間になると交通量が増えて一部では渋滞に近い状態になっています。しかもこの日は雨が降っていて、一部には水溜まりもできていました。

必ずしもマイペースで走れる状態ではなかったのですが、前後左右の走行車両に注意しながら、制限速度の時速50kmを極力維持して走ります。C1は案外アップダウンがあるので、上り坂の部分では少し手前からアクセルに軽く力を入れて速度が落ちないように注意し、下り坂では逆に早めにアクセルを抜いて惰性で走らせるようにします。この切り換えを相当に神経質にやらないと良いエコランができないのです。

C1のアップダウンにはなかなか手強いところがあって、見た目は下り坂のように見えてもほとんど平らでアクセルを緩めると車速が下がってしまう区間があります。逆に下り坂が急な部分では速度が上がりすぎることに注意が必要ですし、前方に車両がいて惰性を利用できなくなることもしばしばでした。

●走行中の水素消費走行燃費は195〜196km/kg

MIRAI走行後の動画撮影でコメントする松下宏さん
MIRAI走行後の動画撮影でコメントする松下宏さん

走行中に燃料消費のデータを見ると、195km/kgと196km/kgの間を行ったり来たりしています。100kmほどの距離を走る間に、少しでも数字を向上させて引き継ぎたいと思ったのですが、残念ながらほぼ現状維持で引き継ぐことになりました。まあ、数字を悪くして皆さんの足を引っ張ることがなかったのは良かったと思います。

「環境は悪い中、なんとか燃費をキープできました!」
「環境は悪い中、なんとか燃費をキープできました!」

今回のチャレンジでは、最終的にフランスチームよりも長い走行距離を記録することができました。でもフランスチームのデータも立派なもので、大いに尊敬に値します。そもそも彼らがいたからこそ私たちも頑張ることができたのです。

(松下 宏)

松下宏
松下宏

●松下 宏
元自動車評論家。1951年群馬県前橋市生まれ。自動車専門誌記者、クルマ雑誌編集者を経て独立。自動車評論家として30年以上、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を25年務めた後、65歳になったのを契機に引退・廃業して呑気な隠居生活中。映画鑑賞、博物館・美術館鑑賞、食べ歩きなどの毎日。