正しいタイヤ空気圧で走ることの大事さを実感!【ライターのマイカータイヤ交換記・後編】

●「味見」でミシュランPS4の魅力を最大限引き出す!!

筆者のクルマ(シトロエンDS3スポーツシック)に装着したミシュランパイロットスポーツ4のファーストインプレッションは上々。

前編でレポートしたように、フレッシュタイヤによる恩恵以外にもサイドウォールが柔らかく、粘りのあるグリップ感のステアリングフィールは素晴らしく、ミシュランPS4の魅力を感じたポイントです。

後編となる本稿では、このPS4のポテンシャルを最大限引き出し、筆者好みのセッティングにするため、「クルマ業界のご隠居」両角岳彦氏の指導の下、「タイヤの味見」を実施した様子をレポート。

「タイヤの味見」の手順をご紹介しつつ、最適と感じたポイントについて、レポートしていきます。

■空気圧違いで変わる性能を実感する

3月中ごろ、天気は晴れで気温15度(山頂は10度)、場所は小田原周辺の高速道路や市街地の道、箱根新道、山間のワインディングなど、様々な道でテストを行いました。

左から、小林和久氏(クリッカー編集長)、筆者、両角岳彦氏

「タイヤの味見」とは、具体的には「空気圧違いで変わる性能を実感する」ということ。タイヤには、自動車メーカーが決めた空気圧の設計値があり(運転席ドアを開けると見えるBピラー付け根や、燃料給油口の蓋にシールが貼られていたりします)、一般的な乗用車だと、空気圧の設計値は、220~250kPa(キロパスカル ※2.2~2.5kg/cm2)が多いです。

タイヤの空気圧は、乗り心地、燃費、加速性能、コーナリング性能、高速直進性、据え切り操舵力など、様々なバランスを見たうえで決定されていますが、「指定空気圧は1車種に1種類」というわけではありません。

指定空気圧表示
燃料給油口の蓋裏にある指定空気圧表示の例

後席への乗員人数や荷室荷重などに応じて、荷重要件毎の指定空気圧を分けているクルマも一般的です。

今回のシトロエンDS3の指定空気圧は、前後輪とも240kPa。ここからスタートして、性能の変化を確かめ、最適なポイントを見出していきます。

■空気圧変更は、車両運動性能を大きく変える

「空気圧を変える」といってもタイヤメーカーが想定した範囲を越えることはNG。今回は、乗用車の一般的な指定空気圧の範囲である、220kPaから260kPaまでで実験。上限と下限で大振りして探ったのち、その中間を確認していきました。

シトロエンDS3スポーツシック
冷間時の空気圧 走行直後だとタイヤ温度上昇によって内圧は上がるが、全て冷間時の空気圧を想定して合わせこんでいる(※前後220kPaはサイドウォールのつぶれが大のため諦めた)

結論としては、仕様③(前250kPa/後250kPa)が、最も筆者好みの仕様でした。ベース仕様(前240kPa/後240kPa)よりも、キビキビ感を感じられながらも、ミシュランPS4がもつ柔らかさを活かしたフロントのグリップインフォメーションの濃さも感じられました。

このバランス以外の仕様では、ベース仕様よりもいずれかの性能が変化し、ベストバランスとは言えなくなりました。特に、仕様④では、さらにキビキビ感の向上を狙いましたが、リア追従性が悪化したように感じました。

シトロエンDS3が、前後同じタイヤ空気圧のバランスでセッティングされているということも考えられますので、前後で違う空気圧というのが合わなかっただけかも知れないです。リア追従性の低下をカバーする改良が、タイヤ以外でできるのであれば、仕様④もよかったかな、と思います。

シトロエンDS3スポーツシック
タイヤ内圧ゲージで測定中の両角氏 タイヤは空気圧が大事 タイヤとしての特性も空気圧で全く違うものになる

■お金をかけずにクルマを自分好みに

今回の実験はタイヤ空気圧を変更することで性能向上を目指すことが目的ではなく、タイヤが持つポテンシャルの中で、トレードオフとなる性能のバランスを変えながら、好みのポイントを探ることが目的。

お金をかけずに自分好みに仕上げたり、少し違う乗り味を試したりと、楽しむことができます。ぜひ皆さんも、ご自身のクルマで「タイヤの味見」をしてみてください。面白い世界が開けるかもしれませんよ。

<筆者の仕様ごとの試乗インプレッション>

ベース(前240kPa/後240kPa)…しっとりとしたハンドリング、NVHや乗り心地が快適

NVHや乗り心地は満足いくレベルにいる(これ以上はタイヤだけでは無理だろう)。ハンドリング性能はしっとりとしたフィーリングになり、タイヤ交換前の「キビキビすぎる」感は薄まっている。

ステアリング操舵入力のあと、ごく一瞬タイヤがたわむ瞬間を経て、フロントタイヤがコーナリングフォースを発生させているように感じる。他の性能を悪化させずに、キビキビ感を出していければパーフェクト。

仕様①(前260kPa/後260kPa)…キビキビ感は出たが、乗り心地への跳ね返りが大きすぎる

ロードノイズやインパクト音が、やや高めの周波数の音になった。路面継ぎ目でのショックが増し、ギャップでも跳ねるようになり、乗り心地は悪化。ただしフロントの遅れは少なく、切った直後からタイヤのたわみの間がなく、即時コーナリングフォースが立ち上がる印象。「キビキビ」した方向にはなっている。

仕様②(前230kPa/後230kPa)…乗り心地はダンピングが悪化、ハンドリングはダルダルに

ロードノイズとインパクト音はベースと同等で悪くはない。乗り心地はソフトになったが、ボディの左右方向への揺れが大きく、まっすぐ走っていても揺れている印象がある。ハンドリングは一気にダルになり悪化。外輪タイヤのたわみが増え、フロントタイヤがコーナリングフォースを出すまでの遅れ時間が大きくなっている。

仕様③(前250kPa/後250kPa)…NVHはベースと同等、コーナリングは程よいキビキビ感がある

ロードノイズ、インパクトノイズはベースと同等。乗り心地は突起ショックレベルがやや強いが、ボディモーションは小さくなった。ハンドリングはキビキビ感が出ている。サイドウォールのたわみを感じながら、コーナリングフォースも遅れずに出るため、路面インフォメーションがつかみやすくて心地が良いコーナリングができる。

仕様④(前260kPa/後250kPa)…NVHは悪化、キビキビ感はあるがリア追従性が悪く、運転がしにくい

ロードノイズ、インパクトノイズはベースよりも悪化。乗り心地は前輪でのショックが強め。ハンドリングはキビキビ感が強くなるのだが、相対的に、リアの追従性が遅れてしまい、クルマの向きが急激に変わる印象。バランスが悪く乗りにくくなった。

(文:自動車ジャーナリスト吉川賢一・写真:エムスリープロダクション鈴木祐子)

この記事の著者

Kenichi.Yoshikawa 近影

Kenichi.Yoshikawa

日産自動車にて11年間、操縦安定性-乗り心地の性能開発を担当。スカイラインやフーガ等のFR高級車の開発に従事。車の「本音と建前」を情報発信し、「自動車業界へ貢献していきたい」と考え、2016年に独立を決意。
現在は、車に関する「面白くて興味深い」記事作成や、「エンジニア視点での本音の車評価」の動画作成もこなしながら、モータージャーナリストへのキャリアを目指している。
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