時代に流されたのではない、アルトゥーラはドライバー・プレジャーのためハイブリッドを選んだ【McLaren Artura】

●チーフエンジニア曰く「電動化でない選択肢もあったかも…」英国とリモートインタビュー

マクラーレン・アルトゥーラ
マクラーレン・アルトゥーラのフロントビュー

さて、元気をもらったところで、英国MTC(McLaren Technology Centre)アルトゥーラ のチーフエンジニアリングである Geoff Grose氏へリモートインタビューのチャンスを頂きましたのでマクラーレンやアルトゥーラについていくつかの質問をさせていただきました。

── マクラーレンという特別なハイパーカー、スーパーカーメーカーでも、やはり世の電動化の流れに乗るのは必要だったのでしょうか?

Grose:確かに、世界的な流れとしての電動化に乗らなくていいという選択肢もあったかもしれません。しかし、ドライバーが新たなパフォーマンスを楽しみ、エンゲージメントする機会があるのではないかという技術的興味がわきました。

すでにP1から基礎開発を始め、継続的に研究開発を進めて参りました。そして、P1やスピードテールのようなアルティメットシリーズ(限定生産モデル)ではなく、よりアクセスしやすいモデルでも、我々が望むパフォーマンス、重量バランスなどの実現が見えてきましたので、このアルトゥーラを開発、発表するに至りました。

── GroseさんはP1の開発も担当していらっしゃいますが、その影響はあったのでしょうか?

Grose:かつてP1の頃とはバッテリーもモーターも大きく進化していますが、先程も申しましたように、継続して開発が引き継がれたことが大きなレガシィだと思います。

── ハイブリッドと言うとエコな自動車はイメージしやすいのですが、ハイパフォーマンスカーにおけるハイブリッドカーのイメージはどのようなものだったのでしょう?

マクラーレン・アルトゥーラ
マクラーレン・アルトゥーラのインパネ

Grose:プロジェクトはドライバー中心に進められてきました。ドライバーにどのような機会を与えられるのかがポイントです。

そこで、ハイブリッドとしてEモーターと内燃機関のコンビネーションを常にセットとして考えると、とてもエキサイティングな結果が導き出されます。ハイブリッドならではのスロットルレスポンスなどもパフォーマンスのアドバンテージになるかと思いますし、フルパワーが必要ではないときには、バッテリーへ充電するなども一般のハイブリッドモデルと同じです。

年々厳しくなるレギュレーションにもマクラーレンらしくスマートに対応していくことが重要です。また、アルトゥーラはEVモーターのみでの走行が可能です。

我々のお客様はビジネスの第一線で活躍する方々ですので、都市部では静かに低エミッションで走ることができ、郊外ではフルにパフォーんマンスを発揮してもらうのも、お客様にとっての楽しみになると確信してます。

── アルトゥーラのこれまでのラインアップでの位置づけは?

Grose:GTシリーズ、スーパーカーシリーズ、アルティメットシリーズがありますが、この中でアルトゥーラは、720S、765LTとともにスーパーカーシリーズにラインアップされています。ハイパーカーレンジ市場も電動化にコミットしているので、我々もそこに打って出ることになります。

── アルトゥーラはひと目見てマクラーレンであるデザインに仕上がっていると思いますが、ハイブリッド化がデザインに与えた部分はありますか?

マクラーレン・アルトゥーラ
マクラーレン・アルトゥーラはカーボンでキャビンが包まれる

Grose:エンジニアチームとデザインチームが密接にやりたいことを理解しながら連携し、開発を進められたことが非常に重要だと考えます。特に初期段階でエンジニアがデザイナーの表現したいことを理解し、デザイナーがエンジニアの抱える要件やターゲットを理解する事が重要でした。

具体的な例では、ハイブリッドの冷却システムに影響を与えています。バッテリーの冷却は、室内のエアコンと一体化してしています。キャビンとバッテリーの冷却は同じ冷媒で行っているのです。また、これらはエンジンの冷却とは別の水冷系統で温度管理されています。こうした積み重ねによって、ひと目見てもわかるマクラーレンらしさを実現できたと言えます。

── そのマクラーレンらしいデザインはどこから来ているのでしょう?

マクラーレン・アルトゥーラ
マクラーレン・アルトゥーラの運転席

Grose:マクラーレンらしいデザインとは、ドライバーからスタートしているところが所以になっています。

特に、ドライバーからの視界が良いことも重要な要素です。フロントウインドスクリーンは低いですが、それでも前方視界は良くて、ピラーは細くサイドもよく見えるなど、デザインへの工夫があります。そのような条件を満たすことでひと目見てマクラーレンであるというデザインができあがっているのです

。これはアルトゥーラだけでなく、すべてのモデルに共通している重要なことなのです。

── まだまだアルトゥーラを運転したことがある人は少ないはずですが、アルトゥーラをドライブさせた印象を聞かせて下さい。

Grose:すべてのマクラーレンには常に感覚がライブであること、アジリティに優れることが重要です。そのためには車重が軽いことを追求して、アルトゥーラでも実現しています。

それに加え、アルトゥーラの場合、すべて新しいパワーユニットによるスロットルレスポンス、特にEモーターによる大トルクにより「おお、速いな!」と感じてもらえると思います。そしてEVモードもクールに感じてもらえることでしょう。

古き良きクルマ好きも含め、すべてのクルマ好きに喜んでもらえるでしょう。ぜひ、運転する機会があれば、フィードバックを聞かせて下さい。

── そんなチャンスがあれば、喜んで! 楽しみにしてます。今回はありがとうございました。

(文・写真:クリッカー編集長 小林和久

この記事の著者

小林和久 近影

小林和久

子供の頃から自動車に興味を持ち、それを作る側になりたくて工学部に進み、某自動車部品メーカへの就職を決めかけていたのに広い視野で車が見られなくなりそうだと思い辞退。他業界へ就職するも、働き出すと出身学部や理系や文系など関係ないと思い、出版社である三栄書房へ。
その後、硬め柔らかめ色々な自動車雑誌を(たらい回しに?)経たおかげで、広く(浅く?)車の知識が身に付くことに。2010年12月のクリッカー「創刊」より編集長を務めた。大きい、小さい、速い、遅いなど極端な車がホントは好き。
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