新型キックスは日産の救世主となるか!?【新型車インプレッション・車両概要編】

●日産に漂う、嫌な空気を一変させることができるか

2020年6月24日に発表された日産キックス。久々の新型コンパクトクロスオーバーSUVの登場ということもあり、販売店は張り切っているようだ。

8月末時点での販売台数だが、日産によると受注台数は発売開始から約3週間で9000台を超えたという。ただ、国内登録台数は、7月が50位ランク外、8月にとどまっている。これは、キックスの製造国であるタイの工場が一時閉鎖されるなど、輸入台数が滞ったためだという。

多くの販売台数が狙える車種を他国からの輸入のみとした弱みが、ここぞというところで出てしまったのは、やはり日産はついていない。

だが、キックス本来の実力が見えてくるのはこれからだろう。新型キックスは、日産の周りを漂う、嫌な空気を一変させることができるだろうか。

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■2グレードのみは是か非か
■全長が短く、取り回しが楽
■プロパイロットの出来は上々、だがひとつ忘れ物がある
■まとめ

■2グレードのみは是か非か

キックス
2020年6月30日から発売したキックスは8月上旬までの受注累計が1万台突破と好調な滑り出しを見せている

キックスは、「X(税込275万9900円)」と「Xツートーンインテリアエディション(税込286万9900円)」の2グレードでの展開だ。日産によると、購入の内訳としては、2トーンインテリアが約4割、2トーンボディカラーが約3割、アラウンドビューミラー&スマートリアビューミラーの装着は約9割の方が選択されているそうだ。

全グレードe-POWER、プロパイロット標準装備、E-PKB標準装備、本革ステアリングや先進安全技術も標準搭載されるなど、実質的には上級グレードの1スペック販売だ。生産国のタイで販売されるキックスには、装備品を絞った廉価グレードも用意されているが、日本仕向けには、現時点は設定されていない。

キックス
リアデザインもまとまり感があり秀逸。小さなエクストレイルにも見える。

新型キックスのライバルとなるホンダ・ヴェゼルやトヨタ・C-HRには、ガソリンエンジン仕様のエントリーグレードが用意されている。ヴェゼルには、211万円のガソリンエンジン仕様の廉価グレード(ハイブリッドは250万円~)が、C-HRにも236万円のガソリンエンジン仕様のエントリーグレード(ハイブリッドは273万円~)が、といった具合だ。

日産の営業マンからは「250万円を切る廉価グレードが欲しかった」という意見が聞こえる。筆者も、廉価グレードは必要だと考える。

日産の営業マンは、新型の登録車を何年間も待ち望んでいた。「さあ、ここからバンバン売るぞ!」というときに、売りやすい価格のクルマがない、というのは、営業マンとしてはがっかりしたことだろう。

日産の戦略として「電動車に絞りたい」というものがあるのだろうが、今こそ販社を守るときではないだろうか。しかし今後、「販売現場からの意見に応え…」という形で設定される可能性は、ゼロではないだろう。

キックス
「新型」キックスと謡ってはいるが、もともとは南米市場向けに2016年から販売されていたコンパクトSUVだ 現在でも、ブラジルでは、1.6リッターガソリンエンジン仕様が販売されている

■全長が短く、取り回しが楽

ボディサイズは、全長4290×全幅1760×全高1610mm。トヨタC-HR(4385×1795×1550mm)や、ホンダヴェゼル(4330×1770×1605mm)と比べると、全長は40~95ミリ短く、車幅も10-35ミリ狭く、ヤリスクロス(4180×1765×1590mm)と比べると、やや全長が長い。

キックスは日本人が好みそうな「コンパクトSUV」にぴたりと当てはまり、日本市場では丁度良いサイズ感だ。

またキックスは、非常に小回りがきく。Uターンや駐車場での取り回しが実に楽だ。最小回転半径は5.1メートルと、ライバル車に比べて1ランク小さい。ちなみに旧型ジュークは5.3m、ヤリスクロスとヴェゼルは5.3m、C-HRは5.2m。

ほんの0.1-0.2mの差ではあるが、実際に体感してみればその差はよく分かる。過去の日産SUVの中では、最も扱いやすいサイズのコンパクトSUVだ。

キックス
最小回転半径は5.1メートルと、ライバル車に比べて1ランク小さい

■プロパイロットの出来は上々、だがひとつ忘れ物がある

日産が「1.0」と呼ぶプロパイロットの所作は、随分とナチュラルな印象だ。というのも、初期の頃のプロパイロットは制御の煮詰めが甘かった。正確に車線中央を走ろうとするが故に、常にハンドルが左右にピクピクと動かされてしまい、他社車の運転支援技術の水準と比べて、安心感を得られるどころではなかった。

しかし、プロパイロットの採用車種が増える毎に改善しており、いまや安心感の高いシステムへと進化しており、自信を持って良いといえる。

と、ここまでは良い印象なのだが、運転中にわりと役立つ、車両後方から接近するクルマを検知してサイドミラー内部にクルマのマークを表示し、気が付かずにレーンチェンジを始めようとするとアラームを発してくれる、BSW(ブラインドスポットワーニング)がついていない。ライズでさえオプションで選べる時代にキックスはオプションで選ぶこともできない点は、唯一惜しいと感じた点だ。

キックス
キックスに搭載されたプロパイロットの所作は、随分とナチュラルな印象だ

なお、走行性能については、別記事にてレビューさせていただく。

■まとめ

BSWといった些細な点では気になることもあるが、キックスの出来は上々だ。以降の記事では、クルマの使いが手や、走りにフォーカスし、ライバル車に対するメリットデメリットを比べていく。

(文:自動車ジャーナリスト吉川賢一/写真:エムスリープロダクション鈴木祐子)

<主要諸元>
キックス X ツートーンインテリアエディション
■全長×全幅×全高:4290×1760×1610mm
■ホイールベース:2620mm
■車両重量:1350kg
■駆動方式:前輪駆動
■発電用エンジン:HR12DE DOHC水冷直列3気筒
■排気量:1.198リットル
■エンジン最高出力:60kW(82ps)/6000rpm
■エンジン最大トルク:103Nm(10.5kgf・m)/3600-5200rpm
■モーター:EM57 交流同期電動機
■モーター最大トルク:260Nm(26.5kgf・m)/500-3008rpm
■サスペンション前後:前/独立懸架ストラット式
後/トーションビーム式
■タイヤ前後:前/ 205/55R17
後/ 205/55R17
■WLTCモード燃費:21.65km/L
■最小回転半径:5.1m
■燃料・タンク容量:無鉛レギュラーガソリン・41L

この記事の著者

Kenichi.Yoshikawa 近影

Kenichi.Yoshikawa

日産自動車にて11年間、操縦安定性-乗り心地の性能開発を担当。スカイラインやフーガ等のFR高級車の開発に従事。車の「本音と建前」を情報発信し、「自動車業界へ貢献していきたい」と考え、2016年に独立を決意。
現在は、車に関する「面白くて興味深い」記事作成や、「エンジニア視点での本音の車評価」の動画作成もこなしながら、モータージャーナリストへのキャリアを目指している。
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