軽自動車の最高出力64psの自主規制を作った初代アルトワークス登場【スズキ100年史・第20回・第5章 その2】

1979(昭和54)年発売の「アルト」が開拓した軽ボンネットバンの大ブームによって、低迷していた軽自動車市場が一気に活況を呈しました。その勢いのままターボを搭載した軽の高出力モデルが各メーカーから発売され、軽自動車に再び高性能競争が勃発したのでした。

鈴木自動車もターボ搭載車を投入しましたが、その代表的なモデルが1987(昭和62)年デビューの「アルトワークス」。最高出力は、軽自動車の自主出力規制値64psを発揮し、現在も軽自動車のスポーツモデルとして圧倒的な存在感を放っています。

第5章 軽自動車・第2黄金期(1980-2000年)と鈴木自動車

その2.究極のリトルモンスター「アルトワークス」

●復活した軽自動車市場に高性能時代到来

「アルト」が起爆剤となって軽自動車市場が再び活況を取り戻すと、1983(昭和58)年に三菱自動車が「ミニカエコノ」に、ダイハツは「ミラ」にターボ搭載車を投入し、軽自動車市場に熾烈な高性能競争が勃発しました。そして、その後1980年代後半のバブル期が、さらに高出力化と高機能化を加速しました。

1983 ミラターボ
1983 ミラターボ

鈴木自動車が初めてターボを搭載したのは、1983(昭和58)年の2代目「セルボ」。「セルボ」は、規格改定に合わせて「フロンテクーペ」をベースに、排気量を356ccから543ccに拡大したスペシャルティカーです。「セルボターボ」は、4ストローク3気筒エンジンにターボを搭載して、最高出力を29PSから40PSに引き上げました。

1983 セルボターボ
1983 セルボターボ

●究極の高性能モデル「アルトワークス」デビュー

1985(昭和60)年発売の「アルトターボ」は、排気量543ccの3気筒のSOHCエンジンにターボを搭載して、最高出力44PSを発揮しました。当時、他車がキャブ仕様であったのに対し、EPI(電子制御ガソリンインジェクション)を採用。さらに1986(昭和61)年のマイナーチェンジでは、DOHC12バルブ3気筒エンジン搭載の「ツインカム12RS」を追加投入しました。

1985 アルトターボ
1985 アルトターボ
1986 アルトツインカム12RS
1986 アルトツインカム12RS

そして高出力化の集大成として、1987(昭和62)年に満を持してデビューしたのが、走りを追求した究極の高性能モデル「アルトワークス」です。

1987 初代アルト ワークス
1987 初代アルト ワークス
1987 初代アルト ワークス インパネ
1987 初代アルト ワークス インパネ

排気量543ccのDOHC12バルブ3気筒エンジンにインタークーラターボを搭載した、軽初のツインカムターボエンジン。EPIにESA(電子進角)、水冷オイルクーラーと当時の最新技術を盛り込んだ高性能エンジンは、最高出力64PS/7500rpm、最大トルク7.3kgm/4000rpmを発揮しました。あまりの高出力ぶりにこの64PSが最高出力規制のきっかけになり、いまに続く軽自動車の自主規制値になったのです。

FF仕様「RS-X」とフルタイム4WD「RS-R」を用意し、「RS-X」では0-100km/hの加速が11.8秒と1.5Lクラスに匹敵する速さを誇りました。特にクラス初の13インチ65タイヤ、大型フォグランプ、フルエアロチューンの4WD「RS-R」が大人気でした。

●進化し続ける「アルトワークス」

1987(昭和62)年の初代から現在に至る5代目まで、「アルトワークス」は軽自動車を代表するスポーツモデルとして変わらぬ人気を博しています。

・1988(昭和63)年の2代目

1989(平成元)年の消費税導入によって物品税が廃止され、「アルトワークス」も商用車から乗用車に変更。また、1990(平成2)年に、規格変更に対応して標準のアルトとともに全長を100mm、排気量を550ccから660ccに拡大。ワークスは上限だった64PSはそのままにトルクアップしました。

1988 2代目アルト ワークス
1988 2代目アルト ワークス
1988 2代目アルト ワークス インパネ
1988 2代目アルト ワークス インパネ

・1994(平成6)年の3代目

新開発のオールアルミ製DOHC12バルブ3気筒ターボエンジンと、シンプルなSOHC 6バルブ3気筒ターボエンジンの2機種を設定。モータースポーツでは他を寄せつけない圧倒的な強さを発揮しました。

1994 3代目アルト ワークス
1994 3代目アルト ワークス
1994 3代目アルト ワークス インパネ
1994 3代目アルト ワークス インパネ

・1998(平成10)年の4代目

規格変更で一回りスケールアップして登場。VVT(可変バルブ機構)を採用したエンジンを設定、ただし大きくなったボディが重くて走りは不評。1990年代後半の軽市場はトールワゴンが主流になっており、またスズキが国内モータ-スポーツから撤退することを決めたため、「アルトワークス」は4代目を最後に一旦市場から撤退しました。

1998 4代目アルト ワークス
1998 4代目アルト ワークス
1998 4代目アルト ワークス インパネ
1998 4代目アルト ワークス インパネ

2015(平成27)年には、5代目アルトワークスが待望の復活を成し遂げ、さらに現在は多くのファンが6代目の登場を持ち望んでいるリトルモンスターです。

2015 5代目アルト ワークス
2015  5代目アルト ワークス
2015 5代目アルト ワークス インパネ
2015  5代目アルト ワークス インパネ

(文:Mr.ソラン 写真:ダイハツ、スズキ)

第21回に続く。


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この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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