自動車業界のトレンド「CASE」。新型コロナウイルスの影響で「S」の意味が変わるかもしれない!?【週刊クルマのミライ】

■MAZDA3がワールド・カーデザイン・オブ・ザ・イヤーを獲得。コロナ時代はスタイリングの価値が高まるか?

COVID-19(新型コロナウイルス)がどのように収束するのかまったく見えない日々が続いています。緊急事態宣言も発出され、気軽にドライブを楽しむという気分でもないでしょう。

そんな中、マツダからMAZDA3がワールド・カー・オブ・ザ・イヤーの特別賞である「ワールド・カーデザイン・オブ・ザ・イヤー」を受賞したという明るいニュースが届きました。従来であれば、マツダの魂動デザインが高く評価されたのだな、で終わってしまうニュースかもしれませんが、新型コロナウイルスの影響で社会が大きく変革しようとしているタイミングで、このニュースを見ると違う感想が浮かんできます。

そのフックとなるキーワードは「CASE」です。

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「ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー」は2004年に世界各国の自動車ジャーナリストによって創設された自動車賞で、世界25カ国以上、86名の自動車ジャーナリストの投票によって選ばれる

もともとダイムラーが提案した「CASE」はコネクテッド・オートノマス・シェアリング・エレクトリックの4つの言葉の頭文字をつないだもので、100年に一度の大変革期といわれる自動車業界の大きなテーマを示したものです。いまや全メーカー、多くのユーザーの共通認識となっています。

しかし、新型コロナウイルスの対応としてソーシャルディスタンスが叫ばれ、パーソナルスペースの確保が重視されることでモビリティにも大きな影響が生まれつつあるように感じます。

具体的にいえば、CASEの一角であるシェアリングの未来に暗雲が垂れ込めてきたといえます。カーシェアリング業者は、ユーザーが使うたびに消毒するよう呼びかけるでしょうが、その仕組みからどうしてもユーザーによって処理のレベルが異なってきます。将来的には、好きな場所で乗り捨てて、次のユーザーが利用するようなマッチングも考慮しているのがカーシェアリングです。どうしてもユーザー同士の信頼でしか成り立たないシステムでは心配が残ります。

新型コロナウイルスが収束することを期待して、近い将来を「アフターコロナ社会」と呼びますが、間違いなくアフターコロナ社会では現在よりも清潔さについてのニーズが高くなります。そうなるとシェアリングというビジネスはそれほど成長しない可能性があります。ウイズコロナ社会として現在進行形のいま、公共交通機関でソーシャルディスタンスが確保できないことを不安に思い、自家用車のニーズが高まっています。

誰が乗ったかわからないシェアリングではなく、クルマを保有するという動きはすでに始まっています。

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MAZDA3ハッチバックのスタイリングテーマは「エモーショナル」

そうなると「CASE」は「CAE」に変わってしまうのでしょうか?

いや、「S」は別の意味となって残ると考えられます。CAEの3要素をまとめると”ネットワークにつながる自動運転の電動車両”というのが未来のクルマ像として浮かんできます。これまでシェアリングを前提に考えていたので、未来のクルマは徐々に没個性的になると捉えられてきました。コネクテッドとオートノマス(自動運転)は走行性能での差別化がしづらくなりますし、エレクトリック(電動化)は環境性能も各社で同等になることを意味します。さらにシェアリングエコノミーによりマッチングアプリが空いているクルマを見つけてくれるようになると、ユーザーからブランドロイヤリティは消滅しかねません。そのために各社はAIでの差別化を図ろうとしているしているのですが……。

しかし、アフターコロナ社会でソーシャルディスタンスやパーソナルスペースへのニーズがいまよりも高まり、シェアリングが嫌がられるようになったらどうなるでしょう。自動運転の電動車両を所有するという未来がやってくるかもしれません。

走りにおける差別化ができなくなれば、遮音性能などの快適性や、パッケージに由来する居住性が重視されるでしょうが、なによりブランドごとの差別化ポイントとして重視されるのは、スタイリングとなることでしょう。それこそが個性的な要素となるからです。

COVID-19(新型コロナウイルス)は世界的な課題となっています。つまり、アフターコロナの変化は世界中で起きるというわけです。そしてマイカー所有というトレンドは世界的に広がる可能性があります。そのとき、クルマを差別化する最大のポイントがスタイリング(Styling)となることは考えられます。

いつの日か、自動車業界のトレンドは、コネクテッド・オートノマス・スタイリング・エレクトリックの頭文字をとって「CASE」と呼ばれることになるかもしれません。

そうなったとき、マツダのようにデザインコンシャスなブランドとしてイメージを強めていったメーカーは大いに躍進することでしょう。

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MAZDA3セダンはエレガンスさを追求したカタチ

(自動車コラムニスト・山本晋也)

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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