街乗りの感じは「ほぼEV」。新型フィットのハイブリッドは、遊びの少ない走り味が魅力

■エンジンの存在感もあるシリーズパラレルハイブリッドがホンダらしい。やわらかい表情ながらキレもあるe:HEVモデル

ホンダ・フィットがフルモデルチェンジしました。初代モデルの登場は2001年、以来2007年、2013年とフルモデルチェンジを重ね、今度で4代目となります。

新型フィットの特徴はグレード構成の考え方で、上下というイメージではなく、仕様違いでBASIC、HOME、NESS、CROSSTAR、LUXEと5タイプを設定しています。

パワートレインは1.3Lガソリンエンジンと1.5Lハイブリッドの2種類。ガソリンエンジンは従来型からブラッシュアップしたものですが、ハイブリッドは完全に新しいシステムになりました。

e:HEVエンブレム
ホンダの2モーターハイブリッドは「e:HEV」と改名した。読み方は「イーエッチイーブイ」だ

「e:HEV」と名付けられた新システムは、いわゆる2モーター型ハイブリッド。高速走行時にはエンジンが直接タイヤを駆動する直結モードもありますが、通常はモーターがタイヤを駆動、エンジンはもう一つモーターを使って発電に徹するというシステムです。そのため、モーターとタイヤの間に多段変速機はありません。EVのように発進時からトルクフルで、なおかつ加速がシームレスにつながる乗り味となっているのです。

公道試乗で驚いたのは、そのEV感が想像以上に強かったことです。基本的にバッテリーの充電量が許す限りはエンジンをかけずにモーターだけで走りますし、バッテリーが足りなくなってエンジンで発電を初めても、遮音性能が高いためエンジンが主張することはありません。唯一、急加速をしようとアクセルを大きく踏み込むとエンジンの回転が急上昇するのが感じられます。

その瞬間にe:HEVのユニークな制御が始まります。ロジカルにいえば、発電するために必要な回転数まで一気に高めるのが効率的ですが、フィットのエンジンは発電用に回転を上げるときにも、疑似的に変速機を介しているような盛り上がり感、ストーリーがあります。ホンダのエンジンを操っているんだという気分になれます。

エンジンの音が聞こえてきても、それがノイズではなく心地よいビートとして感じられるのです。

フィットクロスター
SUVテイストの「CROSSTAR(クロスター)」は、フェンダーガーニッシュにより3ナンバーボディ、最低地上高も高くなっている。ディーラーオプションを除いた試乗車のメーカー希望小売価格は2,425,500円

今回、新型フィットのハイブリッド車としては、日常生活の仲間感の強い「HOME」と、3ナンバーのワイドボディで最低地上高も160mm(他グレードは135mm)と高められたSUVテイストの「CROSSTAR」の2台に乗ることができました。

どちらにモーター駆動らしい加速感は共通で、新型フィットのやわらかな顔つきからは想像できないほどシャープな加速感が味わえます。モーター駆動ならではのダイレクト感もあって、かなり硬質な印象だったりします。1.3Lガソリン車が心地よい走りだとすると、キビキビと気持ちよく走ることのできるのがハイブリッド車です。

フィットホーム後ろ姿
フィットのハイブリッド「e:HEV」を試乗したのはHOMEグレード。ディーラーオプションを除いた試乗車のメーカー希望小売価格は2,271,500円

ハンドリングも、そうしたパワートレインのキャラクターにあったもので、適度にキレがあって、まったくダルさは感じません。車高を上げたCROSSTARは、スタイリングとハンドリングのバランスを取るためにサスペンションが引き締められているのか、ギャップの通過では標準車高のHOMEよりも強い入力を感じますが、だからといって乗り心地が悪い部類ではないので安心してください。

そして、このハイブリッドパワートレインの良さがもっとも感じられるのは高速走行です。80~90km/hという速度レンジであれば完全にモーターだけで駆動していますから、レスポンスは良好。新しくなった先進運転支援システム「ホンダセンシング」のACC機能を使って前車を追従しているときも速度を見事に合わせてくれるので、気持ちよくクルマに速度調整を任せていられます。

これだけ高度なハイブリッドシステムを搭載したコンパクトカーが、もっとも手頃なグレード「BASIC」では1,997,600円という価格で売られているというのは、バーゲン価格に思えます。はっきり言います、フィットe:HEVのスムースな走りは200万円以下のクルマで味わえるレベルを大きく越えています。

コンパクトカーを対象に次期愛車を探しているのであれば、メカニズムなど難しいことを考えずに、素直な気持ちでフィットe:HEVの走りを味わってほしいと思います。モーター駆動のEVテイストとホンダらしいエンジン感が共存した気持ちのよいパワートレインと感じることでしょう。

フィットハイブリッドシステム
1.5Lエンジンに2つのモーターを組み合わせた「e:HEV」と呼ばれるハイブリッドシステムを搭載

●ホンダ・フィットe:HEV HOME(FWD)主要スペック

車両型式:6AA-GR3
全長:3995mm
全幅:1695mm
全高:1515mm
ホイールベース:2530mm
車両重量:1180kg
乗車定員:5名
エンジン型式:LEB
エンジン形式:直列4気筒DOHC
総排気量:1496cc
最高出力:72kW(98PS)/5600-6400rpm
最大トルク:127Nm(13.0kg-m)/4500-5000rpm
駆動モーター型式:H5
駆動モーター形式:交流同期電動機
モーター最高出力:80kW(109PS)/3500-8000rpm
モーター最大トルク:253Nm(25.8kg-m)/0-3000rpm
燃料消費率:28.8km/L (WLTCモード)
タイヤサイズ:185/60R15
メーカー希望小売価格(税込):2,068,000円
※撮影車はメーカーオプション付きですが、スペックはスタンダードなものを記載しています。

(自動車コラムニスト・山本晋也)

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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