3輪電動立ち乗り車「ヤマハ ・トリタウン」が歩道を走行! 国産パーソナル・モビリティで初の公道実証

■約2時間の充電で約30km走行可能。最高速度は25km/h

 ヤマハが作るパーソナル・モビリティ「トリタウン」の歩道を走る実証実験が岐阜県高山市のJR高山駅前で始まった。トリタウンはフロント2輪リア1輪の立って乗る電動パーソナル・モビリティだ。1~2人乗りの超小型モビリティよりも小さく手軽で、歩くにはちょっと遠い距離の歩行支援的な役割を果たす。公共交通が担うことのできない駅から自宅までのラスト・ワンマイルを解消する「チョイ乗り」的な乗り物としての活用が期待されている。

トリタウン
リーン(傾斜)して旋回するLMW機構を搭載したパーソナル・モビリティ「トリタウン」。50ccナンバーを取得し、初めて歩道を走った。
リヤブレーキ
ブレーキは自転車と同じ。左右のレバーを握って操作する。リアにはディスクブレーキを搭載。

●実用性の追求に踏み込む

 実証実験は11月9日と10日の2日間、高山駅西交流広場を起点して、周辺の公道で1周約700メートルのコースを設定し、事前予約した利用者や駅の乗降客らに体験してもらう形で実施された。これまで世の中に存在しなかったバイクでも自転車でもない“乗り物”を体験したのは、2日間で約80人だった。

実証実験中
自転車のおじさんも、トリタウンのおじさんにちょっと注目。実証実験のため開発者自らが先導。保安員が同行したが注目度は抜群。

 ヤマハはトリタウンを2017年の東京モーターショーで公表して以来、静岡県掛川市や新潟県長岡市の商業施設で有料提供し、乗り物の可能性を探ってきた。今回は無料。走行する場所を歩道とすることで、体験者が体感する操作性や、歩行者や周辺を走る車両に受け入れられるのかなどのデータ収集を行い、実用的なパーソナル・モビリティとしての可能性を検討するものになった。

歩道走行
歩道走行は約700メートル。短い間に運転にも余裕が出てくるぐらい。乗ってしまえば簡単で快適。

●ナンバー取得、自賠責も加入したが、保安装備はなし

 歩道を走る実証実験で用意されたのは、マット・ブラック、オリーブ、カラフルな蛍光色などに彩られた8台のトリタウン。実働は6台で2台は予備車両とした。すべての車両で高山市の排気量50cc相当の白ナンバーを取得。標章を貼って自賠責保険加入済みであることも示した。

 ただ、ナンバーを取得すること=原付1種とみなされたわけではない。ナンバー取得を義務付けられたバイクとの大きな違いは、ウインカーやヘッドライトなどの保安部品を装備していないこと。パーソナル・モビリティを普及しやすくするため、国土交通省が行った「搭乗型移動支援ロボット」に関する通達を利用して実現した。自転車でもバイクでもないパーソナル・モビリティの多くは、こう呼ばれている。

 また通常、ナンバー付き車両が歩道を走ることはできないが、これも警察庁の同様の通達を利用することで可能になった。それでもナンバーを取得したから公道を自由にどこでも走れるわけではない。今回、トリタウンが歩道を走ったのは、実証実験に合わせて地元の高山市などと運営協議会を作り、コース上に保安員を配置して安全を確保したから。パーソナル・モビリティがどこを走ることが適当かは、現状では誰も答えを出せていない。その一助とすることも今回の実証の役割だ。

 トリタウン体験者は、同社の用意したヘルメットと手袋を使い、実証実験中を示す蛍光色のビブスを着用した。歩道を走ることもあり最高速度の設定も10km/hに抑えた。閉鎖空間の実験では、仕様上の最高速度25km/hだったが、公道走行の安全に配慮した。また、体験者も16~70歳までの原付免許以上の所持者に限定した。

メーター
“歩行支援ロボット”扱いなので、スピードは表示されない。赤表示はバッテリー残量。その外周をスピードが増すごとに青表示が増える。

●「あら、楽しそう」の声

 実証実験の前日に行われた関係者試乗会には高山市や岐阜県警の関係者が、全員スーツ姿で集まっていた。駅前広場でトリタウンをメーターにICカードをタッチしてモーターを起動させる方法やフロント2輪の操縦方法の説明をうけ、カラーコーンの間を慣熟走行すること全部で約15分。歩道走行を含めて1人約45分間、トリタウンを体験する。

 トリタウンの操縦は、体重移動で方向を変えるところはバイクと似ている。LMW(Leaning Multi Wheel)機構は、ハンドルをまっすぐにしたまま曲がりたい方向に少し体重を持っていくだけ。コースには、緩やかな下り坂や、信号のある交差点、歩道には段差もあるが、初体験でもそのぐらいの講習で乗れてしまう。たぶん初めて自転車に乗るより簡単だ。体重移動のコツがバイクと違うところや、アクセルが親指操作でスロットを絞るわけではなかったりするところは、むしろバイクに乗ったことのない人のほうがなじみが早いかもしれない。

 実際に記者も試してみた。意外だったのは、乗り出した時の反応だ。歩道に繰り出すと、すれ違った自転車をひく女性からこんな声をかけられた。
「あら、楽しそう」
 先導するトリタウンの開発者が「誰にでも乗れますよ」と応じた。下校中の小学生も「すごい、すごい」と歓声を上げる。「乗って楽しい乗り物を」というのが、開発者が目指したパーソナル・モビリティの姿だが、その点は軽々とクリアしている。

 ただ、歩行者や他の車両が受け入れるだろうかという「社会的受容性」のハードルは低くない。体験後の関係者からは厳しい指摘もあった。
「何をやっているのだろうという注目度が高い反面、この人(乗り物)をどう扱っていいのか、という戸惑いがあるような気がする」(高山市)
「対向する形で2人の歩行者が歩いてくると、(トリタウンが)、その間をぬうように走るようになってしまう。止まってもらったほうがいい」(高山警察署)

通勤
身体が重くて動くなおっくうになっても、こんな感じで移動ができたら、通勤も通学も楽しくなりそうな気がする。

高山市は市町村合併で、東京都に匹敵する面積がある。増える高齢者の移動や点在する観光地の移動手段をどう確保するかは、避けられない課題だ。トリタウンをはじめとするパーソナル・モビリティは一翼を担うことを期待されながら、自転車、歩行者、クルマとの最適化を模索する。

(中島みなみ)