【自動車用語辞典:冷却系「ピストン」】もっとも過酷な部品を冷やすオイルジェットの仕組み

■コンロッドの小穴からピストン裏面にオイルを噴射する

●ピストン自体にオイル循環路を設ける場合も

燃焼温度が上がりやすい過給エンジンや圧縮比が高いディーゼルエンジンでは、ピストン温度が上昇しやすくなります。これらのエンジンには、ピストン冷却のためピストン裏面にオイルを噴射するオイルジェットが採用されています。

ピストンの冷却と潤滑を強化するオイルジェットの仕組みについて、解説していきます。

●ピストンの冷却と潤滑

ピストンは、高速で往復運動しながら、その頂面は高温の燃焼火炎と直接接触します。その上、ピストンは冷却水を直接通して冷やすことができないので、エンジンの中でも冷却性や潤滑性が最も厳しい部品です。

燃焼によってピストンが受けた熱は、ピストンリングから油膜を介してシリンダー、ウォータージャケットへと放熱されます。ただし、これだけでは不十分なので、通常はコンロッド大端部にオイル穴をあけて、そこからピストン裏面にオイルを噴射するオイルジェットを採用しています。

また、燃焼温度が上がりやすい高出力エンジンでは、冷却用の通路とジェットプラグを新設して、さらに冷却を強化したオイルジェットを装備しています。噴射したオイルによって、シリンダーの潤滑も強化されます。

●アルミ製ピストンが溶けない理由

ピストンは、通常アルミ合金製です。アルミは約660℃で溶けますが、ピストンは最高で2000K以上の燃焼火炎と直接接触しても、溶けることはありません。ピストンを冷却することで、火炎とピストン表面にできる薄い空気の境界層が、溶解を防止しているのです。

水を入れた紙コップに火を近づけても、燃えない現象と同じです。

●2つのオイルジェット方式

一般的に採用されているオイルジェットは、コンロッド大端部の小穴から、ピストン裏面に向かってオイルを噴射する方法です。オイルポンプから、潤滑のためにクランクシャフト軸受け部、コンロッド軸受け(大端)部へと圧送されたオイルの一部を、ピストン裏面に向けて噴射します。

さらに冷却効果を強化するオイルジェットは、ジェット専用のオイル通路を新設して、シリンダー下部に装着したジェットプラグからピストン裏面に向かって噴射します。高出力のガソリン過給エンジンやディーゼルエンジンは、燃焼温度が高くピストン温度が上昇しやすいため、採用しています。

オイルジェットでピストンを冷却すると、受熱によってオイル自体の温度が場合によっては5℃以上上昇します。また、高出力エンジンはそもそも発熱量が大きいこともあり、オイル温度を低減させるためにオイルクーラーを搭載するケースが多いです。

オイルジェットによるピストン冷却
オイルジェットによるピストン冷却

●クリーリングチャンネル付きピストン

ピストンの冷却をさらに強化する場合、オイルジェットに加えてピストントップランドの内側にドーナツ型のクーリングチャンネル(オイル循環路)を設けます。

オイルジェットは、クーリングチャンネルの入口めがけてオイルを噴射して、クーリングチャンネルを通って内面を冷却しながら反対側の出口から落下します。

最近のピストンは、軽量化のためにトップランド部やスカート部の駄肉をなくしています。そのため、一般の小型エンジン用ピストンでクーリングチャンネルを形成するのは難しく、多くはディーゼルエンジン用ピストンに採用されています。

ただし、F1などのレース車や高出力スポーツ車用のエンジンの多くは、オイルジェットとピストンのクーリングチャンネルを組み合わせています。

クーリングチャンネル付きピストン
クーリングチャンネル付きピストン

厳しい環境下で使用されるピストンには、冷却性と潤滑性を確保するためにさまざまな技術が組み込まれています。

オイルジェットは古くからある高出力エンジンのための冷却・潤滑強化技術ですが、最近はピストンを冷却してノッキングを抑える効果も期待して、NA(無過給)エンジンでも採用例が増えています。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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