■ブレーキパッドを確実にディスクに押し付ける、新構造のフローティング型ブレーキキャリパーが登場
非常に厳しい経営状況から事業再生計画を実施中の曙ブレーキ工業。しかし、東京モーターショー2019には非常にチャレンジングな構造のブレーキキャリパーを展示、その技術力をアピールしています。
一見すると、よくある対向ピストン型のキャリパーに見えますが、じつは画期的なフローティング型というのが、この新型キャリパーの特徴です。
同社では「新構造ブレーキキャリパー」と呼ぶ新しいフローティング型キャリパーは、通常のフローティング型キャリパーがピストンで内側のブレーキパッドのみをブレーキディスクに押し付けているのに対して、キャリパーのボディを車体内側に引っ張るようにする「もうひとつのピストン」を配置するというのが、新構造のキモとなる部分です。
つまり、従来はシングルピストンがある部分に、直列的に2つのピストンを並べることで、内と外に圧をかけることができるようになっています。これにより、外側のブレーキパッドを従来よりもしっかりとディスクに押し付けることが可能となりブレーキパッドの偏摩耗を1/5程度に低減させることが期待できるということです。
こうしたブレーキパッドを押し付けるという機能だけでいえば、スポーツカーやレーシングカーに使われる対向ピストン型キャリパーのほうが有利といえますが、対向型はキャリパーの筐体が大きくなり、ブレーキディスクとホイールディスク面までのスペースが必要になります。そのためフローティング型キャリパーで設計されているクルマに、そのまま対向型キャリパーを入れようとするとホイールと干渉してしまうことは珍しくありません。
そして、ブレーキシステムの大きくするために、ホイールインセットを変えるとスクラブ半径に影響してしまいます。ブレーキをグレードアップしたはいいけれど、ハンドリングに悪影響を及ぼしたという改悪になることもあるのです。
しかし、この新構造ブレーキキャリパーは外側への張り出し量は従来のフローティング型キャリパーと同等ということですから、足回りの設計を大きく変えずにブレーキシステムをグレードアップできるのはメリットです。また、アルミ製とすることで最大30%の軽量化を実現していることで、燃費向上に貢献することも期待できます。
新構造ブレーキキャリパーにモーターギヤユニットを組み込んだ「電動パーキングブレーキキャリパー」も出展されていましたが、自動車メーカー向けの供給だけでなく、アフターマーケットも意識しているといいます。
実際、同社のブースでは「いくらくらいだったら購入を検討しますか」といったアンケートもしていましたし、3色のキャリパーを用意しているのも、エンドユーザーの人気を調べるためだといいます。
曙ブレーキ工業のブールで、説明員の方に「キャリパーの色を選べるようにしてほしい」「スポーツ走行に向けたブレーキパッドのバリエーションを用意してほしい」「●●円なら購入を検討する」といった具体的なリクエストを伝えることで、製品に反映されるかもしれません。
未来のブレーキチューンに興味があるならば、是非とも確認してほしいのが、この新構造ブレーキキャリパーです。
(山本晋也)