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clicccar「頑固一徹 和」試乗シリーズが人気の国際自動車ジャーナリスト・清水和夫さんは、水素燃料電池自動車が市販されるず~っと前から、水素燃料電池自動車の未来を確信し研究、取材を四半世紀以上続け、執筆も数多くてされてきました。大学では「電気嫌いの水素好き電気専門家」卒業とか!? 今回はトヨタからMIRAIのフルモデルチェンジ版「MIRAI Concept」が発表されたのを機に、清水和夫さんの水素燃料電池自動車への想い、期待について特別寄稿くださいました。(clicccar永光)
■なぜトヨタは水素燃料電池車(FCV)に拘るのか?
●水素燃料電池自動車の仲間を増やし、需要を増やし、インフラ整備をするのも狙い
トヨタから水素燃料電池車(FCV)の次期型となる『MIRAIコンセプト』が発表された。正式には2019年の東京モーターショーでワールドプレミアするモデルだ。
「FCV」と聞くと否定的な意見も少なくないが、私は1990年代中頃から話題となってきたFCVに大きな期待を寄せている。しかし、現在はリチウムイオン・バッテリーのEVが時代のトレンドとなっているので、FCVにトヨタが熱心な理由が理解されにくい。
なぜ水素を燃料とするFCVに意味があるのか…。ここでは詳しい説明は省くが。
・バッテリーの弱点である充電時間を大幅に短縮できる。
・ガソリンを給油するのとあまり変わらない時間で水素を充填できる。わずか5分程度だろう。
これで400km以上も走れるなら、圧倒的にEVよりも便利だ。
●FFからFRへ、デカめのプリウス!?から高級車へ!
ところで、今回発表されたMIRAIコンセプトは2014年から市販されてきた初代MIRAIとは大きく異なるFCVであることが、プロトタイプから想像できる。車体は明らかに大きくなり、高級車の雰囲気を醸し出す。駆動方式は現行MIRAIのフロントドライブ(FF)からリヤドライブ(FR)に変わったことは重要な意味を持っているだろう。
新型MIRAIの市販は2020年末、日米欧などグローバルに展開する。詳しいスペックは明らかにされていないが、航続距離は約30%伸びている。きっと、高圧水素タンクの容量が増えているのだろう。新型MIRAIはもしかしたら、電動化の風雲児になるのではないか!?と直感的に思った。
●今度のMIRAIはもうすでに現実の世界!
気になるのは「MIRAI」という名前だ。現実の技術になろうとしているので、もうMIRAI(未来のクルマ)ではないはずだ。FFからFR、ボディサイズの大型化、システムのさらなるアップデート。その内容を考えるなら、もっと別の名前が欲しいところだ。
●電気の貯め方がまったく違うFCVとバッテリーEV車
最後にこれだけは知っておいて欲しいことがある。FCVもバッテリーEVも同じ電気自動車であるし、異なるのは電気の貯め方なのだ。バッテリーは電気を充電して走るが、FCVは水素を燃料として発電する燃料電池(スタックと呼んでいる)を持っていること。これは正しく言えば、電池ではなく発電装置なのだ。
さらに電気の正体は原子の回りを回る電荷(マイナス)を帯びた電子がその正体なのだ。バッテリーはその電子を直接、充電するの対して、スタックは水素原子をあるひとつの電子を取り出すことで電気が得られる。宇宙が創成されたときの最初の物質が水素原子…なのだからFCVはとても神秘的ではないだろうか。
■リチウムイオン・バッテリー発明の父は、2019ノーベル化学賞を受賞された「旭化成の吉野彰さん」だった!
10月9日に発表された「2019ノーベル化学賞」、リチウムイオン・バッテリー発明の父である旭化成の吉野彰さんの挨拶を聞いて腹落ちした。
「バッテリーの革新は、風力や太陽光発電などの不安定な自然エネルギー(再生可能なエネルギー)が、大容量バッテリーの出現でとても使いやすくなる。これこそは人類にとって新しいエネルギー革命を可能とする」。
その言葉はまさにバッテリーの責務なのであるが、実は再生可能なエネルギーの受け皿としては、水素はバッテリー以上にエネルギー密度が高い。重量でみると100km走るのに水素は1kgで済むが、ガソリンは3kgくらい。バッテリーだと100kgの重さとなる。
このようなファクトを信じるか信じないかは皆さん次第だが、数年後にはFCVがブレイクする時代が必ず訪れるのだ。トヨタは小さいクルマはバッテリーEV、中型はハイブリッド、大きなクルマはFCVという戦略を持っている。2019年の東京モーターショーでMIRAIコンセプトを実際に見ると、私の予想がきっと理解されると思う。
●RAV4 EV改「FCV1」から始まったトヨタの燃料電池車開発
ところで、今から25年ほど前(1996年前後)、トヨタ初の燃料電池車のプロトタイプ「トヨタFCV1」に試乗したことがあった。そのプロトタイプの試乗会は東京ガスの跡地である豊洲で開催された。当時の燃料電池車は水素をどのような形でクルマに搭載するのか、いろいろな可能性が議論されていたが、RAV4 EVを改良したトヨタFCV1は、水素を金属(結晶)に貯蔵する水素吸着合金を搭載していた。その後の開発では重い水素吸着合金では実用化は難しいと判断され、その後は高圧水素ガス(700気圧)として車載されるようになった。
兎に角、FCVこそ次世代環境車の大本命だと私は信じて疑わないのである。
(特別寄稿:清水 和夫/アシスト:永光 やすの/画像:長野 達郎/トヨタ)
【SPECIFICATIONS】(トヨタ社内測定値)
車名:MIRAI Concept
全長/全幅/全高(mm):4975/1885/1470
ホイールベース(mm):2920
駆動方式:後輪駆動(FR)
乗車定員(人):5
航続距離:約30%延長(従来型比)
【清水和夫プロフィール】
1954年生まれ東京出身/武蔵工業大学電子通信工学科卒業。
1972年のラリーデビュー以来、国内外の耐久レースに参加する一方、国際自動車ジャーナリストとして活動。自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで執筆し、TV番組のコメンテーターやシンポジウムのモデレーターとして多数の出演経験を持つ。
【関連リンク】
StartYourEngines FCV動画アーカイブ(リスト)
https://www.youtube.com/user/StartYourEnginesX/search?query=FCV
StartYourEngines「メルセデス・ベンツ GLC F-CELL 試乗レポート」
https://youtu.be/dY0m9pUsKas
StartYourEngines「水素燃料電池開発者に聞く」
https://youtu.be/AwT-ymAtjd8