【週刊クルマのミライ】高度に進化したCVTは電動車両のドライブフィールに近づく

●最高出力の発生回転をキープする変速制御が生み出すトルクフルでシームレスな加速感

全日本ラリーのクラス分けが2019年から変更になっています。従来、SUBARU WRXや三菱ランサーエボリューションといったハイパワー4WDが競っていたJN-6クラスは「JN-1」と改名。新生JN-6クラスは主に1500ccのAT車で競われるクラスとなりました。

すでに4戦が終了した全日本ラリーですが、そのJN-6でデビュー年ながらランキング2位と健闘しているドライバーが板倉麻美選手です。そして、ラリー参戦さえ初めてという板倉選手が操っているのが「DL WPMS Vitz CVT」です。

車名からもわかるようにベース車はトヨタ・ヴィッツ(GR SPORT “GR”)で、トランスミッションはCVTとなっています。CVTのヴィッツは2年前から全日本ラリーに参戦しているのですが、今回チームを運営しているウェルパインモータースポーツのご厚意により、最新の全日本ラリーJN-6マシンを味わうことができました。茂原ツインサーキットというクローズドコースを舞台に、板倉選手の全開走行を助手席で堪能してきたのです。

驚いたのは、このCVTは通常のそれとは異なる制御を受けていたことです。通常のCVTではアクセルオフでは燃費を稼ぐために、どんどんと変速比を小さくしていきます。そのため、わざわざ「S」や「B」といったシフトポジションを選ばないとエンジンブレーキが強くかかりませんし、ふたたびアクセルを踏み込んだときに反応が鈍く感じることがあります。こうした挙動を「ラバーバンドフィール」といって嫌うユーザーもいるようです。

しかし「DL WPMS Vitz CVT」のタコメーターは常に6000rpmオーバーを示しています(画像はイメージ)。アクセルオンであろうが、オフであろうが6100rpmをターゲットに常に変速しているのです。なぜなら、このマシンが積んでいる1.5Lエンジンの最高出力発生回転が6000rpmだから。アクセルを全開すれば即座に最高出力が出せるセッティングになっているわけです。モータースポーツは速さを競うわけですから、こうした無駄のない変速制御というのはタイムと結果につながります。実際、全日本ラリーJN-6クラスで破竹の4連勝を遂げている「アイシンAW Vitz CVT」にも同じ制御をするCVTが搭載されているのです。

●トヨタが先行開発する「スポーツCVT」は速さを追求したトランスミッション

それこそが「スポーツCVT」です。トヨタのパワートレインカンパニーが先行開発している、このモータースポーツで使えるCVTは、ミッションオイルクーラーを追加している以外のハードウェアは基本的に市販ユニットですが、前述したようにCVTの特性をスポーツ方向に徹底的に振った制御になっています。しかも、ノーマルモードでの使用時には量産車と同様の滑らかな制御を行ない、スポーツモードにしたときだけ6100rpmをキープするのです。つまり、冷却性能などの課題がクリアできれば、市販車にも搭載可能なCVTというわけです。

ほぼピンポイントでパワーバンドをキープするといったスポーツCVTの走りは、MTやDCT、ステップATといった多段変速機では不可能な異次元の加速を見せるのが特徴です。とにかく加速感が途切れないのです。DCTはトルクフローとしてはほとんど切れないのが特徴ですが、それでもシフトアップによるエンジン回転のドロップは加速感としての段付きにつながります。しかし、スポーツCVTの加速はまったくトルク切れがないのです。

これは電動車両の加速フィーリングに近いといえます。アクセルの踏み始めで最大トルクを発生する電動モーターは、力強くシームレスな加速を実現しますが、まさにその感覚がエンジン車でも味わえることをトヨタのスポーツCVTは示しています。ハイブリッドカーや電気自動車の普及によって電動車両ならではの力強く息継ぎのない加速を当たり前のように味わえるクルマは増えています。高度にスポーツ方向で進化したCVTが、まるで電気モーターのような加速フィールになるというのは、未来のスポーツドライビングとして何が求められるのかを示しているのかもしれません。

(山本晋也)

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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