変速中はもちろん、減速中も一瞬たりともエンジン回転が落ちない。魔法のような競技用CVT車に試乗

●CVTのスポーツドライブに革命! 駆動系はノーマルのままで走りが一変!

従来、CVTというのは燃費には貢献するけれどモータースポーツには向いていないんじゃないかというイメージが(少なくとも記者個人には)ありました。

だがしかし! 今回試乗した、全日本ラリー参戦中のヴィッツCVT仕様でその考えは思いっきり覆りつつバク転決めるくらい転換されました。

結論から言うとCVTでのスポーツ「も」ありかもねーといったレベルではなく、CVT「だからこそ」到達できる独自の世界があることが判明。

だって「変速中はもちろん、減速中も一瞬たりともエンジン回転が落ちない」んですよ! グレート。

順を追ってご説明します。

今回紹介する競技仕様のCVT車は、ウェルパインモータースポーツが全日本ラリーのJN6クラスで走らせている『ヴィッツ DL WPMS Vitz CVT』です。

ちなみにJN6クラスとは、ハイブリッド車やEVなどに、1500cc以下のAT車両を加えたクラスのこと。

メカニズムをチェックしましょう。まずエンジン本体は完全にノーマルです。これに組み合わされるCVTについても、実はハードウェアはノーマルなんです。

使われているCVT用オイルについても量産車と全く同じもの(!)だというので驚き。

ただし変速制御プログラムを専用のものに書き換えています。具体的には、エンジン回転数を6100rpmに常時固定するようにセッティングされていますよ。

これによってドライバーがアクセルを踏んでいる時はもちろん、アクセルを戻したとしても6100rpmがキープされ、直進時はもちろんコーナリング中であっても常時高回転をキープし続ける特性になっているのです。

この競技専用CVTユニットは『スポーツCVT』という固有名詞が与えられています。開発しているのはなんとトヨタ本体。トヨタが競技用に供給しているという形なんです(現在、3チームに供給中)。

ちなみにスポーツ走行では不可欠な機械式LSDは、密閉式の専用タイプ(CVTとLSDのオイル共用ができないため)が与えられています。

さてこの競技専用CVTプログラム、実際には「速さ」面でどんな効果をもたらすのでしょうか?

今回、ドライバーの板倉麻美選手の運転への同乗(本来のコ・ドライバーは梅本まどか選手)と、記者本人のドライビングによる試乗が許されましたので、その結果をもとにレポートしますね。

まずエンジンをかけます。続いてシフト後方のスイッチ操作でトラクションコントロールをオフします。さらにスポーツボタンを押します。

ノーマル量産車ではこのスポーツボタンを押すことで、CVTが高回転を多用する状態になります。が、この競技用CVTでは「『6100rpm固定モード(以下、競技モード)』の始動」を意味します。

それではスタートします。

車速が十分に乗るまでは、タコメーターの針はスピードとともに上昇していきます。

3000rpm、4000rpm、5000rpm……そして6100rpmに到達し、競技モードが作動しました。以降は6100rpmに固定されるようにCVTが特殊な変速を行っていきます。

ストレートでは6100rpmにエンジン回転数が固定されたまま、CVTが「より高いギヤ比へ」と連続可変させて速度を上げながら突き進むのでした。

コーナーに入る際にアクセルペダルを戻します。

普通ならばここでエンジン回転数が落ちて、そしてCVTならではの(量産車セッティングならではの)「空走感」が出つつ、トラクションが抜ける形になります。

しかし競技モードに入ったヴィッツは違います。アクセルを抜いてもエンジン回転数は6100rpmをキープしたまま……と、文字だけを見ると「え!? それじゃあ減速できずに突っ込んじゃうのでは」って思いますよね。

でも大丈夫。アクセルを戻すと同時に、CVTは車速を落とす方向にぐんぐんローギヤードに連続可変していく形になりますので、強烈にエンジンブレーキがかかるのです。

これはつまり、マニュアルトランスミッションにおける「コーナー進入時の連続シフトダウン」と同様っちゅうことですね。

なお、徹底してローギヤードを選択し続けてくれるため、繰り返しになりますが、量産ノーマルCVTにあるような空走感は全くなく「減速をしているのに圧倒的にトラクションがかかっている」という魔法のような状態が訪れるのです。

これはブレーキを踏んでも同様。ブレーキを踏みながらコーナーに入っている間も、CVTは6100rpmをキープする最適ギヤ比を選択し続けますよ。

つまりドライバーは変速に手を煩わすことなく、コーナーの出口を見据えてステアリングを正確に切ることだけに集中すればいいんです。

コーナーの出口が見えたらアクセルを思い切ってドン!と床まで踏んでやりましょう。

するとまるで、ミスファイアリングを使いながら待機していたターボチャージャーが一気に過給するかのような形で、CVTが最適変速をカマしてくれます。まったくのシームレスに加速体制に移るのです。

一言で言って衝撃の体験でした。

これは従来の2ペダルATの走りとは全く異質のものです。有段ギヤシフトを行わないCVTだからこそ到達することができた、新たな走りの地平なのでした。

繰り返しますがこのCVTは、ハードウェア的には全くのノーマルなのです。しかも競技中において連続使用しても、熱的にも全く問題ないというのだから驚きです。

「だったら量産ヴィッツにも『競技モード』を採用してくれよ」という声もありそうですが、現時点ではエミッション等の関係で、すぐさま市販車に採用することは難しいそう。

しかしここでふと気づいたのです。「そういうのをヤレるのがGRブランドなんじゃない!?」って。

というわけでトヨタさん、というかGRさん、持ち込み車検とかでいいんで、ぜひこの競技モード組み込みヴィッツを売ってください!(「いや、エミッション関連だから持ち込み車検とか関係なく無理だよ」なんて言わないで~)

(写真・動画・文/ウナ丼)

この記事の著者

ウナ丼 近影

ウナ丼

動画取材&編集、ライターをしています。車歴はシティ・ターボIIに始まり初代パンダ、ビートやキャトルに2CVなど。全部すげえ中古で大変な目に遭いました。現在はBMWの1シリーズ(F20)。
知人からは無難と言われますが当人は「乗って楽しいのに壊れないなんて!」と感嘆の日々。『STRUT/エンスーCARガイド』という名前の書籍出版社代表もしています。最近の刊行はサンバーやジムニー、S660関連など。
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