【自動車用語辞典:電動化技術「トヨタ・ハイブリッド・システム」】プリウスが切り開いたハイブリッドシステムの代表選手

■多くのメーカーが目標とする優れたシステム効率

●エンジン出力を駆動力と発電に振り分ける

1997年に発売されたプリウスのハイブリッドシステム「THS (Toyota Hybrid System)」は、システム効率の観点から非常に優れたシステムであり、多くのメーカーの目標とされてきました。
シリーズ・パラレルHEVの代表格であるトヨタTHSの構成や特徴について、解説していきます。

●THSとは

HEVは、エンジンとモーターを搭載し、両者の出力を適正に使い分けて燃費向上を実現するシステムです。また、エンジン車で熱エネルギーとして捨てていた減速時の運動エネルギーを、電力として回収し再利用することで燃費を向上します。

THSは、エンジン、モーター/発電機、発電機、動力分割機構などで構成されています。
シリーズ・パラレル方式は、エンジンの出力を発電用と駆動用に使い分け、エンジンとモーターの駆動力を合成して走行します。

最大の特徴は、エンジンの出力を動力分割機構(遊星歯車機構)によって、クルマの駆動力と発電に効率的に振り分けている点です。低速トルクに優れたモーターと高速走行に有利なエンジンを、効率的に使い分け、モーターまたはエンジンで走行するか、エンジンとモーターの合力で走行します。

●動力分割機構

THSの重要な役割を担っているのが、遊星歯車による動力分割機構です。遊星歯車は、中心のサンギヤ(発電機と連結)、その周りにピニオンギヤとプラネタリーキャリア(エンジンと連結)、外周をリングギヤ(モーター・駆動軸に連結)で構成されています。

エンジンの駆動とともにプラネタリーキャリアが回転し、ピニオンギヤを介してサンギヤに連結している発電機が回転します。同時に、外周のリングギヤも回転し、タイヤを駆動させます。エンジンの出力を、内側のサンギヤと外側のリングギヤの動力に効率よく分割しています。

モーターは、駆動力として使うだけでなく、発電機として減速時の制動エネルギーを回生する役割も担います。また、発電機はエンジンのスターターとして機能し、回転を制御することによってピニオンギヤとリングギヤのギヤ比を変化させます。

この動力分割機構によって、エンジンを常に効率の良い高負荷の領域で運転し、エンジンとモーターを最適な出力の組み合わせで使うことができます。

●進化し続けるプリウス

プリウスの名前が初めて登場したのは、1995年の「東京モ-ターショー」です。その2年後の1997年12月に初代プリウスが誕生し、20年間に4回のモデルチェンジをしながら進化し続けています。

1) 初代 (1997年~)

1.5LアトキンソンサイクルエンジンとTHSを組み合わせた量産初のハイブリッド車として登場。
技術的には高く評価されましたが、走行性能や減速フィーリングには課題あり、部分改良でエンジンやモーターの出力を向上。10-15モード燃費28km/Lは、当時としては驚異的な数値でした。

2) 2代目 (2003年~)

モーター駆動電圧を500Vまで上げ、モーター出力を向上させるとともに、パワーユニットを小型化し、「THS-Ⅱ」と名称を変更。10-15モード燃費は、35.5km/Lに向上しました。

3) 3代目 (2009年~)

高速燃費の不評に対して、エンジンを1.8Lに拡大し、高速燃費を向上。遊星歯車機構に減速機構を付加し、駆動トルクを増大させた「リダクション機能付きTHS-Ⅱ」へと進化。10-15モード燃費は、38km/L(JC08モードで32.6km/L)に向上しました。

4) 4代目 (2015年~)

平行軸歯車による減速機構でトルクを増大し、燃費とともに走りも大きく向上。JC08モード燃費は、40.8km/Lに達しました。


THSは、初代から4代までの20年間に、エンジンやモーター、電池などの要素技術の進化やシステム構成の改良、さらに高精度な制御技術によって、他の追従を許さないハイブリッドシステムとしての地位を不動のものにしました。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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